現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」 久保建英は古巣ビジャレアル相手にスーパーゴールでチームを勝利に導き、2025年のラ・リーガを幸先よくスタートさせた。 今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナ…

現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 久保建英は古巣ビジャレアル相手にスーパーゴールでチームを勝利に導き、2025年のラ・リーガを幸先よくスタートさせた。

 今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、今回のゴールも含めた監督や選手、メディア関係者などの評価をまとめてもらった。


久保建英のビジャレアル戦のスーパーゴールに周囲は称賛の嵐だ

 photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

【久保は停滞している!?】

 レアル・ソシエダに優れた選手は多数いても、試合を決められる選手となると、ほとんどいない。

 イマノル・アルグアシル監督率いるチームは中盤がチームの核となり、ディフェンスの強さ(ラ・リーガ19試合で11回クリーンシート達成)を特徴としている。

 しかし、試合が泥沼化して行き詰まると、ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)はいつも決まったサイドに目を向け、ピンチを脱している。すべての視線が、久保建英のいる右サイドに集まる。チームは今、以前よりもインサイドでのプレーが弱体化し、アウトサイドでのプレーが大幅に増え、右サイドの重要度がより高まっている。

 常にチャンスを作り出すプレッシャーを背負うのは簡単ではないし、久保が楽な形でパスを受けられることはほとんどない。サイドでボールをもらう際、前にDFがふたり立ちはだかる光景をよく見かける。

 それでもそんな局面に真っ向から対峙する久保のプレースタイルに対し、地元メディアの何人かの同僚や一部のサポーターは、「ボールを持ちすぎている。もっと早く離すべきだ」と度々指摘する。

 特にラ・レアルを専門としていない解説者の間では、"久保は停滞している"との見方が一般的だ。「ラ・レアルやイマノルの下で、久保は決してベストのパフォーマンスを発揮することはできないだろう」という意見が、スペインの主要スポーツメディアで報じられている。

 スペインのラジオ局『ラジオ・マルカ』の番組司会を務め、全国区のスポーツジャーナリストであるミゲル・キンターナ氏も、久保の成績に物足りなさを感じているひとり。「今よりも数字を伸ばせないのなら、彼自身が目指すスター選手には決してなれない」というのが彼の見解だ。

 その一方、ラ・レアルをよく知る人々の間では、チームにおける彼の重要性を疑う者は存在しない。ビジャレアル戦後、サポーターの間でよく聞かれたフレーズがあった。それは"常に久保と10人の仲間たち"というものだ。

 彼の成績を冷静に分析するならば、4得点0アシストの数字は改善の余地があるものに思えるかもしれない。しかしサッカーは、さまざまなデータを分析している『Sofascore』のようなものだけでは測れない。試合を観戦して、より深く分析する必要がある。久保が担う役割の難しさを理解するには、ラ・レアルの試合を一度でも見れば十分わかる。

 目の前のことに打ち勝つために、久保は常に奮起する必要があるとはいえ、3日おきに最高のパフォーマンスを発揮できるサッカー選手など、この世界のどこにも存在しない。

 そのためチームメイトと連係する必要があるが、MFブライス・メンデスとFWミケル・オヤルサバルは精彩を欠き、久保の助けにあまりなっていない。右サイドバックのホン・アランブルはピッチ内で久保との理解度が日に日に深まっているが、久保をサポートするためには攻撃面をさらに改善する必要がある。

【チームメイトは久保を探し出す】

 生まれながらにスター性のある選手がいるが、久保もそのひとりだ。幼少期から大きな期待を寄せられている彼が、目指すものになるために足りなかったのはラ・レアルのような環境だけだった。ビジャレアル戦はラ・レアルでの久保の実力を示すいい例だ。

 イマノルは試合後、「久保は我々が試合に勝つために探さなければいけない選手のひとりであるとわかっていた。彼はとてもいい形で試合に入り、主役になろうとしていたように見えた。私はいつも彼にそうなることを求めている」と説明した。

 試合は両チームともリスクを冒さないことを優先したため、拮抗した展開となった。このような状況下になると、チームメイトは試合を引き寄せるため常に久保を探し出す。イマノルが言うように彼は集中力を高めてこの一戦に臨み、DFセルジ・カルドナに対する華麗な股抜きで試合を始め、すばらしい個人技を披露し続けた。さらに身長20センチ以上の差があるDFウィリー・カンブワラとの空中戦にも勝利した。

 しかし、久保が勝機を見出したのは後半に入ってからだった。オヤルサバルはいつものように本能的に顔を右に向けると、そこには研ぎ澄まされた久保がいた。パスに近いクリアでMFダニエル・パレホの背後にボールを送る。ビジャレアルのキャプテンがスピードに弱いことを彼はわかっていた。

 久保は誰よりもそれを信じ、先読みしてゴールに向かっていった。中盤から長い距離を走り、DFキコ・フェメニアがペナルティーエリア内でカバーに入るとスピードを緩める。その時、スタジアム全体がこのプレーは終了したという雰囲気に包まれた。

 しかし、いい選手は予測できないプレーを見せるものだ。久保は突然、股抜きでキコ・フェメニアを抜き去りシュート。ポスト内側を叩いてゴールネットを揺らした。これはカルロス・ベラ(現ロサンゼルスFC。2011~2017年までレアル・ソシエダに在籍)のラ・レアルでのベストゴールを彷彿とさせるものだった。

 イマノルはゴールにつながったこの一連のプレーについて、「あのプレーは久保の意欲の表われだ。彼にはあのようなことできる天性の才能がある。しかしそれを発揮するためには常にそうしたいと望み、アグレッシブになる必要があるし、私が得点とアシストに関してウイングに要求する数字を達成するというメンタルを持たなければならない」とその能力を信じ、より多くを求めていた。

【称賛の嵐】

 久保のスーパープレーは試合後、大きな注目を集めることになった。久保同様に勝利の立役者となったGKアレックス・レミロは、久保のチームにおける存在価値について、「タケはあのようにアクティブな動きを見せると、チームに多くのものを与えてくれる。僕たちは彼を何度も探し、カウンターで彼をうまく利用した」と強調。股抜きでのゴールについては「僕には彼が左にドリブルし、右足やツマ先でシュートを打たないことはハッキリとわかっていた。彼にはわずかな選手しかできないドリブルの才能がある」と冗談混じりに称賛した。

 DFアイエン・ムニョスは、「後ろからあのプレーを見ていたけど、オヤルサバルのパスはとてもよかったし、タケのプレーは信じられないほどすばらしかった」と脱帽した様子を見せた。

 久保のパフォーマンスは対戦相手のなかでも話題になっていた。ビジャレアルのMFデニス・スアレスは、「ラ・レアルにはタケ・クボのような違いを作り出す選手がいたので、試合が決まったんだ」と勝敗を分けた理由を述べていた。

 ビジャレアル戦の久保に対する地元紙の賛辞も尽きなかった。クラブの地元ギプスコア県の主要新聞『エル・ディアリオ・バスコ』でラ・レアルの番記者を務めるベニャト・バレット氏は、「タケ・クボがアノエタ(レアレ・アレーナ)の熱気を高めた」「ゴールを決めるまでトライし続けた。彼はセルジ・カルドナがスペースを探すために自分のポジションを放棄したことを察知し、迷わず向かっていった。クラック(名手)のゴラッソだった」と評し、この試合のMVPに挙げた。

『ムンド・デポルティボ』紙ギプスコア版は、「決定的な役割を果たすクラック。ピッチの4分の3を疾走し、頭でボールを受け、最後の局面でキコ・フェメニアを振りきり、完璧なゴールを決めた。ラ・レアルのチャンスは彼の煌めきから生まれたものだ。彼が得点すれば、ラ・レアルは常に勝ち点を獲得し、たいていは勝利する。今季(公式戦)5点目を記録した」と本紙に掲載した。

 ラ・レアルの地元で2番目に読まれている『ノティシアス・デ・ギプスコア』紙ではクラブの番記者ミケル・レカルデ氏が、「ラ・レアルの大スターであり、チームで最も決定的な選手。現在、単独のプレーで試合の流れを変えられる唯一の存在となっている」と絶賛していた。

(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)