冬の風物詩、全国高校サッカー選手権大会が終わった。決勝戦は見応えのある内容で、大いに盛り上がったが、サッカージャーナリスト後藤健生は、こうした好ゲームを増やし、日本サッカーのレベルを向上するためには、大会に「改造」が必要だと考える。その改…
冬の風物詩、全国高校サッカー選手権大会が終わった。決勝戦は見応えのある内容で、大いに盛り上がったが、サッカージャーナリスト後藤健生は、こうした好ゲームを増やし、日本サッカーのレベルを向上するためには、大会に「改造」が必要だと考える。その改造プランの内容は?
■難しい「既得権益」を損なうプラン
では、全国高校サッカー選手権大会という大会のレベルアップを図り、よりアグレッシブな試合を増やすにはどうすればいいのだろうか?
一つの考え方は、エリート校だけに絞って、たとえば24チーム参加の大会として、グループリーグを行って、ラウンド16あるいは準々決勝から勝ち抜き戦を行うことが考えられる。
こうすれば、リーグ戦形式の間はそれほど勝負にこだわらずに、アグレッシブに戦うことができる。一つの大会の中で、リーグ戦形式とノックアウト方式と両方を経験できるようになる。そして、もちろん、強豪校同士の戦いが増えるから試合のレベルは間違いなく上がるし、片方のチームが守備に力を入れ、強者が慎重すぎるといった偏った試合が減る。
ただし、参加チーム数を減らすことは容易には実現できないだろう。
現在は、全国高校サッカー選手権大会は48校が出場している。各都道府県から1校という制度だ(東京都だけ2校が出場)。そんな中で、出場権を減らすことは、各県の高体連として、とても許容できないだろう。「既得権益」を損なうような改革は難しい。
■「不公平感」も解消できるプラス案
それなら、逆に参加チーム数を増やすという方法はどうだろうか?
現在は(東京都を除いて)1つの都道府県から1校しか出場できない。そうなると、1つの都道府県に強豪校が複数ある場合には、どちらかは都道府県大会で敗退して、全国大会には出場できないのだ。
たとえば、2024年7月に行われた全国高校総体では鹿児島県の神村学園が埼玉県の昌平を破って優勝しているが、冬の選手権にはどちらも県大会で敗れて出場できなかった。総体で3位だった帝京長岡も新潟県大会で敗れており、総体のベスト4のうち、冬の選手権に出場できたのは米子北のみだった。
もし、こうした高校が出場できていれば、実力校同士の戦いは間違いなく増えることになる。
全国高校サッカー選手権大会でも、50年ほど前には「総体枠」が設けられていた時代もある。たとえば、1970年度の第49回大会は16校出場の規模の小さな大会だったが、決勝では東海代表の藤枝東と総体優勝の浜名という静岡県勢同士の戦いとなった(藤枝東が勝利)。
現在でも、そうした参加チーム数拡大が実現すれば、静岡県勢同士の決勝とか、流通経済大柏対市立船橋といった対戦カードが実現するかもしれない。
そもそも、現在のように48校出場でノックアウト式トーナメントを行うと、1回戦から出場するチームと2回戦から出場のチームができてしまい、不公平だという指摘がある。中1日の連戦では、1試合多いことの負担はかなり大きいはずだ。
それなら、参加チーム数を64にまで増やせば、不公平は解消できる。
各都道府県代表以外に16チーム、強豪チームを出場させることによって「不公平感の解消」と「試合のレベルアップ」が同時に実現できるのだ。
たとえば、総体のベスト4に入ったチームの予選を免除できれば、同一県にある他の学校にとっては大きなモチベーションになるだろう。
また、過去数年間の成績をポイント化して「強豪県」の出場枠を増やすこともできるし、Jリーグクラブを数チーム招待することも考えられる。そうすれば、この大会がUー18年代の優れたタレントを網羅する大会になる。
そうした方法を組み合わせて、出場校を拡大するのが最も可能性が高い改革だと思うのだが、いかがであろうか?
■救済された藤枝順心の「優勝」の意味
全国高校サッカー選手権大会と並行して、第33回全日本女子高校選手権大会が兵庫県で開催され、男子より1日前の1月12日の決勝戦(神戸・ノエビアスタジアム)では藤枝順心が神村学園を5対0というスコアで破って優勝した。
大会初の3連覇を決めた藤枝順心は1回戦から決勝までの6試合で得点39、失点0という圧勝ぶりだった。
だが、藤枝順心は静岡県大会では常葉大学附属橘に敗れていたのだ。
この大会は昨年まで32チーム参加で行われていたから、従来の方式だったら藤枝順心は出場すら認められなかったかもしれない。だが、今年の第33回と来年の第34回大会は強豪都道府県から2校出場が認められて「52チーム参加」で行われたため、藤枝順心は救済されて全国大会で圧倒的な強さを発揮したのだ(再来年の大会からは、各都道府県代表だけとなる予定だという)。
せっかく全国トップクラスの強豪チームが存在し、高校生年代の最高のタレントがいるのに、「都道府県」という縛りのせいで全国大会に出場させないのは非常にもったいない話ではないか。男子の大会も女子の大会も、ぜひ、全国大会を64チーム出場に拡大すべきだと思う。
1回戦が8試合増えるので、今のやり方だと4会場を増やす必要があるが、今は首都圏のサッカー施設は充実しているので不可能ではないだろう。あるいは、開会式が行われる日にも1回戦の試合を行えば、会場数を増やさずに実施することだって可能だ。