昨夏のパリ五輪、バドミントン女子ダブルスで銅メダルを獲得した「シダマツ」こと志田千陽/松山奈未ペア(再春館製薬所)。日本勢最上位の世界ランキング3位で臨んだ年末の全日本総合選手権(2024年12月24日~30日)で、念願の初優勝を飾った。…
昨夏のパリ五輪、バドミントン女子ダブルスで銅メダルを獲得した「シダマツ」こと志田千陽/松山奈未ペア(再春館製薬所)。日本勢最上位の世界ランキング3位で臨んだ年末の全日本総合選手権(2024年12月24日~30日)で、念願の初優勝を飾った。
全日本総合選手権で初の栄冠を手にした志田千陽(左)/松山奈未(右)ペア
photo by Kishimoto Tsutomu
五輪後もほぼ休まずに戦い続けてきたシダマツ。中国・杭州市で開催されたワールドツアーファイナルズ(2024年12月11日~15日)でも2位という好結果を残したが、タイトなスケジュールをこなしてきたことで、全日本総合選手権には疲労が溜まりきった状態で臨んだ。
また、メンタル面も決して万全とは言えなかった。特に五輪後は、試合に追われて鬱々とした状態にあった。志田が言う。
「五輪後の9月までは、あまり練習ができないなかでも(次の)試合がくるという状況にあって、次の目標もしっかり決められずに、すべてがモヤモヤした状態でした。毎日が『これでいいのかな?』という気持ちだった」
松山もこう続ける。
「五輪直後に挑んだジャパンオープンや、途中棄権した韓国オープンの頃は『勝ちたい』という気持ちより、『とにかくケガをしないで』といった思いのほうが大きくて......。バドミントンの楽しさを忘れていた」
それでも、「五輪後の難しさを感じていたなかで、10月のデンマークオープンで五輪銀メダルの中国ペアに久しぶりにスコーンと負けて......。そのとき、逆に今の自分の置かれた状況に気づけて気持ちも吹っきれた。全日本総合やツアーファイナルへ向けて、『今の自分で戦おう』という気持ちになれた」と志田。
そして松山も、「チームの後輩と国体に出たときに、『やっぱりバドミントンって楽しいな』と、あらためて思えた。そこからは、少しずつ前向きにバドの楽しさを追求したいなと思うようになった」と、徐々に気落ちの切り替えができたという。
迎えた全日本総合選手権。シダマツに次ぐ世界ランキング5位の中西貴映/岩永鈴ペア(BIPROGY)こそ1回戦で棄権となったものの、ともに東京五輪に出場している福島由紀(岐阜Bluvic)と松本麻佑(ほねごり相模原)のペア、渡辺勇大と組んだ混合ダブルスで東京五輪、パリ五輪と連続で銅メダルを手にした五十嵐(旧姓:東野)有紗(BIPROGY)と櫻本絢子(ヨネックス)のペアなど、手強い面々がシダマツの前には立ちはだかった。
全日本総合は、五輪メダリストとして、世界ランク日本勢最上位として、負けられない大会であり、シダマツにとって是が非でもほしいタイトルである。本番を前にして、志田は今大会に向かう率直な思いをこう吐露している。
「自分では思ったよりも感じていないのかなと思っていたんですけど、やっぱり試合前になると『負けられないな』というプレッシャーが少しは出てくることを、ここにきて感じている。立場上仕方がないけれど、そういう立場にあって勝つことができたら、自分たちの成長にもつながると思うので、そこは前向きにとらえてやっていこうと思っています。
もちろん全日本総合のタイトルは獲りたいですが、それ以上に、五輪が終わってから難しい状況が続くなかで、ここまで頑張って走りきってきたので、2024年の最後を笑って終われたら、と。"シダマツ"としても集大成だと思うので、頑張りたい」
1回戦から3回戦までは順当に勝ち進んでいったシダマツだったが、準決勝で2024年の日本ランキングサーキットを制した大竹望月/髙橋美優ペア(BIPROGY)を相手に苦戦。第1ゲームを先取されると、第2ゲームも19対19まで持ち込まれた。
しかし、土壇場で粘りを見せたシダマツは第2ゲームを21対19でモノにし、第3ゲームも21対15で勝利。ゲームカウント2-1と逆転勝ちを決めた。「(実力の)『30%しか出せていない』と言われるような試合をしてしまった。でも、このままで今年は終われない。(2024年)最後(の大会)だから、本当に全部を出しきって楽しもう」(志田)と、ふたりの思いを共有できたことで、初のファイナル進出につながった。
決勝では、五十嵐/櫻本ペア相手に第1ゲーム21対5、第2ゲーム21対19、ゲームカウント2-0で勝利。シダマツが、日本のトップペアであることをあらためて証明して見せた。
「昨日の試合(準決勝)では、自分たちのいいところを全然出せずに終わって悔しさが残った。ですから今日(決勝)は、今年最後の試合で『全部を出しきろう』という思いで、一歩も引かずに自分がすべて仕掛けにいくような気持ちで入った。相手も強くて苦しい場面はいっぱいありましたけど、終始引かず、常に前を向いて最後まで戦いきれたところは本当によかったと思う」(志田)
躍動のシーズンとなった2024年、その1年間について志田はこう振り返った。
「五輪(代表選考)レースと五輪本番と、すべてが自分たちにとって初めての経験。自分の気持ちや体がついてこない時期もあって、悩むことがすごく多かった1年でした。でも終わってみると、すべてがプラスになるいい経験になっていて、今日の優勝にもつながったと思っています。本当に成長させてもらった1年だったかなと思います」
片や、松山は2024年をこう振り返った。
「五輪でメダルを獲ることができ、この全日本総合も優勝できてうれしいけど、ツアーを振り返ると1勝もできなかった。それが、すごく心残り。それは、来年に持ち越して頑張ろうと思います」
全日本総合を終えて、松山は2週間ほどの休養を取る予定だという。
「五輪が終わってから、体重が(減る一方で)全然元に戻らないので、栄養士さんからは『休んでいる間は好きなものを食べて、体重を増やして(チームに)帰ってこい』って言われているので、美味しいものをいっぱい食べたいと思います」
一方の志田は、松本が休養中にリオデジャネイロ五輪金メダリストの松友美佐紀(BIPROGY)とペアを組んで、マレーシアオープンとインドオープンに出場。今後の「シダマツ」へのさらなる糧としていく。
「違うパートナーと組むときは個々の力を試されるので、自分の実力を試したいなと思っています。松友さんは自分とプレースタイルが違うし、松山とも全然違うけど、自分たちにはないものを持っている選手。経験値もすごく高いので、(松友から)たくさんのことを学びたい」(志田)
連戦の疲労を抱え、五輪メダリストとしてのプレッシャーも感じながらも、全日本総合のタイトルを手にしたシダマツ。2025年もその活躍が期待される。