藤川球児新監督の下でV奪回を目指す阪神で注目すべき投手とは。(C)産経新聞社過去の映像を何度も見返して試行錯誤を繰り返した左腕 V奪回に向け、新生阪神は、藤川球児新監督を迎えて動き出した。 百戦錬磨の名将・岡田彰布前監督からバトンを託された…

 

藤川球児新監督の下でV奪回を目指す阪神で注目すべき投手とは。(C)産経新聞社

 

過去の映像を何度も見返して試行錯誤を繰り返した左腕

 V奪回に向け、新生阪神は、藤川球児新監督を迎えて動き出した。

 百戦錬磨の名将・岡田彰布前監督からバトンを託された投手出身の指揮官の下、チャンスを得る者、失う者が出てくるのも勝負の世界の常。そんな中で、ブレイクを果たす若手投手は来季現れるのか。はたまた、今季は精彩を欠いていた中堅組が意地を見せてくれるのか。「藤川・阪神」で注目する3投手をピックアップしていく。

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1:伊藤将司

 11月、高知県安芸市で行われた秋季キャンプで存在感を放ったのが、24年シーズンは4勝にとどまった伊藤将司だった。同月3日に行われた紅白戦で先発マウンドに上がった背番号27は、直球主体の投球で若手打者に対して2回パーフェクトと圧倒した。

 過去4年で2桁勝利を2度記録するなど実績から言えば当然の結果と言える。本来ならオフシーズンに入っていてもおかしくない男が志願してまで登板したのは理由があった。

「(シーズン中は)自分でも納得いかないストレートもあるし、ファウルを取れない球もあるし、それがもう結果に出たというのが今年多かった」

 春季キャンプから球速が上がってこず、直球の球威とキレは最後まで戻ってこなかった。原因の1つが投球フォーム。昨年までの過去の映像を何度も見返して試行錯誤してきたが「バラバラだったし、うまくいってなかった」と苦闘の1年を振り返った。

 今オフは胸の可動域を広げるトレーニングに注力し、来春キャンプまでには投球フォームの土台を作り上げる計画。4年目で初の減俸となった契約更改では「本当に悔しかったんで。普通にやり返す」と闘志を言葉に乗せた。アピールしてポジションを奪わなければいけない若手と伊藤将では当然、立場は違う。藤川監督も「今年の春の状態を覚えていたんで、全然違いますね。来年は良い活躍をするんじゃないですか」とローテーションの一員としての期待は高い。

 頭数も質もリーグ屈指を誇る阪神の先発投手陣ではあるが、左腕に限れば、来季は高橋遥人が手術明けで開幕が微妙な状況。計算できるのは2年連続2桁勝利の大竹耕太郎のみ。伊藤将の“復権”はチームの来季の成績だけでなく、未来をも左右しかねないトピックになりそうだ。

高卒5年目で「本物の強さ」を身につけるべき左腕

2:門別啓人

 高卒3年目のシーズンを終えた門別啓人の現在地を捉えた藤川監督の言葉は興味深かった。10月下旬のフェニックス・リーグを視察した後に、次のように評した。

「1軍でプレーをしていたので、少し抑えたいという気持ちが強くなってくる。でも伸びていかないといけない選手なので、抑える事を中心にすると、案外近道なようで遠回りになる。もっと大きなところをしっかりやっていった方が遠回りなようで近い。デビューした頃のように、また簡単に戻ると思います」

 高卒1年目から1軍デビューを果たし、昨秋には岡田前監督が能力の高さに惚れ込み、先発ローテーション候補として期待をかけてきた。

 だが、24年はシーズン初先発だった5月3日のジャイアンツ戦で3回6失点と打ち込まれるなど、5試合で2敗、防御率4.50の結果に終わった。早い段階からトップレベルを経験し、“1軍で抑えること”に意識が向きすぎているのかもしれない。藤川監督の言葉は、弱冠二十歳の近未来と、秘めたる投手としてのスケールも考慮しての指摘に聞こえた。

 今秋キャンプで監督の直接指導も受けながら精力的にブルペン入りした門別は紅白戦で自己最速まであと1キロに迫る150キロも計測。指揮官の言う「大きなところをしっかり」の道からは外れていないようには見える。

 現役時代に、同じ高卒で伸び悩み、プロの壁にもぶつかった時期も経験している藤川監督の下、虎のトッププロスペクトがどんな成長曲線を描いていくのかも見逃せない。

3:及川雅貴

 一気に潜在能力を開花させる可能性を秘めているのが、5年目左腕の及川雅貴だ。秋季練習では藤川監督がキャッチボール中に声をかけて身体の動きに関して助言を送った。

「基礎の基礎。順調にいってる選手には声をかける必要はない。横の動きが強いと、対左打者にはメリットがあるけど、長くやっていくためにはデメリットになる」

 対左打者に対してのワンポイント起用なら強みを発揮する身体の使い方ではあるものの、打者の左右関係なく安定した成績を残していくためには現状打破が必要になる。

 ここまでの5年間で先発、中継ぎで起用されてきた。だが、首脳陣は、まだ23歳の及川に「ユーティリティー」は求めていない。藤川監督はこうも言った。

「高校生(高卒入団)の場合は早くにデビューして基礎の時間を少し置いてしまう。プロで生き抜く本物の強さというのを見つける期間をちゃんと取らないと選手寿命は短くなってしまう」

 早くに1軍デビューをしたことで、まだ“土台”となる部分が築けていない。指揮官の言う“本物の強さ”を身につける1年で及川はジェネラリストではなく、スペシャリストの道を目指すことになる。

[取材・文:遠藤礼]

 

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