12月28日に開幕した第103回全国高校サッカー選手権大会で、優勝の大本命と見られているのが熊本県の大津だ。Jクラブユースも参戦しているプレミアリーグでチャンピオンシップを制して日本一になり、すでに一冠を獲得している。全国高校サッカー選手権…
12月28日に開幕した第103回全国高校サッカー選手権大会で、優勝の大本命と見られているのが熊本県の大津だ。Jクラブユースも参戦しているプレミアリーグでチャンピオンシップを制して日本一になり、すでに一冠を獲得している。全国高校サッカー選手権大会のこれまでの最高成績は準優勝。悲願の初優勝なるか注目だ。
【どのポジションにも穴がない】
今年の高校サッカー選手権大会で本命との呼び声が多いのは、大津(熊本県)だ。今シーズンここまで積み上げてきた成績は群を抜いており、高校年代最高峰のプレミアリーグWESTで高体連のチームとして初優勝。12月半ばにはプレミアリーグEAST王者の横浜FCユースとのチャンピオンシップを3-0で制し、日本一にも輝いた。
高校サッカー選手権大会で優勝の本命と見られている大津
photo by AFLO
これまでもFW巻誠一郎(ジェフユナイテッド千葉ほかでプレー)やDF谷口彰悟(シント=トロイデン)といったワールドカップ戦士を筆頭に多数のプロサッカー選手を輩出してきた名門校だが、今年のチームは歴代最強との声が多く、レベルの高い選手が揃っている。
今年はチーム関係者のなかで言われてきた「3年周期」に当てはまる期待の年だった。「学年ごとに着る体操服の色が違い、三色あるうち緑色の学年はタレント揃いが多い」と口にするのは山城朋大監督で1991年度生まれは谷口とGK藤嶋栄介(鹿児島ユナイテッドFC)、1994年度生まれはDF植田直通(鹿島アントラーズ)、FW豊川雄太(大宮アルディージャ)、1997年度生まれはDF野田裕喜(柏レイソル)、FW一美和成(ファジアーノ岡山)、2000年生まれはDF福島隼斗(愛媛FC)、FW大崎舜(ロアッソ熊本)と錚々たる面々が名を連ねる。
大学3年生ながら争奪戦が繰り広げられているプロ注目のGK佐藤瑠星(筑波大学)を擁する2003年度生まれは、選手権で準優勝した年で、今年の2006年度生まれ組は彼らを超えてほしいと期待されてきた世代。選手たちも中学生の頃に見た先輩たちの躍動が脳裏に焼きついている。
入学時には平岡和徳テクニカルアドバイザーが「2チーム組めるほど選手層が厚い」と評していたが、タレントの多さ以上に目を引くのは、タイプの違う選手が揃っている点だ。
「過去と比べないようにはしているのですが、高さもあって、スピードもあって、ボールを持てる選手もいるのが今年の強み。うまい選手がいる世代もありましたが、今年は高さもあって、チームとしてのバランスがいい」と山城監督も言う。
190cmの主将DF五嶋夏生(3年)、183cmのMF兼松将(3年)が高さ役を担うなら、スピード役は中学時代に100mハードルで県大会4位となった経験を持つMF舛井悠悟(3年)。清水エスパルス入団内定のMF嶋本悠大(3年)は、技術と戦術眼でゲームを落ち着かせることができる。加えて、抜群の得点感覚を持つFW山下景司(3年)といった、一芸に秀でた職人もいて、どのポジションにも穴がない。
戦いぶりも多彩で、パスをつないで相手を崩すこともできれば、カウンターも打ち出せるし、中からでも外からでも相手ゴール前まで持っていける。相手にとっては止めようがなく、今年白星を手にした試合の多くで、1試合20本前後のシュートを放つなど圧倒的な攻撃力を誇る。
それでも、夏のインターハイは5バックで守備を固めた阪南大高(大阪府)に苦しみ、1-2で敗戦。「研究されたなかでいかに力を発揮できるかは、よくミーティングでも出る話。そのなかでどれだけやれるかが大事」と話すのは兼松で、夏以降は対策された際のチームとしての攻略法を探りながら、個でも打開できるレベルアップに注力。加えて、カウンターに対するリスクマネジメントを行なってきた。
【対戦相手の敵将が感じたのは守備の強さ】
福井商(福井県)と対戦した1回戦は、夏からの成長を示す格好の舞台だったかもしれない。
今年の福井商は、3バックの選手がドリブルを仕掛ける攻撃色の強いチームだったが、全国トップクラスの力を持つ大津の攻撃を止めるのは簡単ではない。そこで採用したのは、守備の可変システムだった。狙いについて高木謙治監督はこう明かす。
「ただ引いているだけだとずっと攻め込まれる展開になる。でも、ボールにプレッシャーを与え続けると、簡単にやられてしまう。真ん中には強力な山下くんがいるので、そこを2枚、3枚で守らないといけないし、サイドも消さないといけない。すべてカバーできる方法を考えた結果、中盤の5人が上下動して、DFラインを4枚に見せといて5枚で守ったり、6枚で守る方法をとりました」
地上戦のすべてを消したうえで、セットプレーと空中戦の対策に絞ることができれば、何とか耐えられると踏んでいた。実際、思っていた以上に押し込まれ、6バックで守る時間帯も長くなったが、ここまで引かれた相手と対峙する経験は大津にも少なく、戸惑いも見られた結果、無失点で時計の針を進めた。
だが、前半36分に右クロスから兼松がヘディングシュートを決め先制点。後半21分には守備ブロックの前から入れた浮き球を、途中出場のFW岩中翔太(3年)が頭で合わせた。
以降も福井商の奮闘を受け続けながらも2点を奪い、終わってみれば4-0で試合を終えた。分厚い守備を物ともせず、得点を積み重ねた攻撃力に目が行きがちだったが、福井商の高木監督は実際に対戦して、守備が印象的だったという。
「ほとんど後ろが1枚だったのですが、守備も隙がないし、ミスもないのでカウンターがかからない。攻撃ばかりに目が行くのですが、守備の乱れが全くなく、切り替えが早い。僕らがやろうと思ってもできないようなハイリスクな守備で、攻撃に人数かけていた。攻撃だけではない、大津の強さが垣間見えたので、さすがでした」
【日本一を頭に入れながらも、目の前の一試合に全力】
打たれたシュートは0本で、完勝と言える試合内容だった大津にも浮かれた選手はいないだろう。"打倒・大津"を掲げるライバル校に苦しんできた先輩たちとは違い、今年の県予選は3試合17得点無失点という圧倒的な大差をつけて勝ち上がったが、選手に浮かれた様子はまったく見られなかったのが印象的だった。
予選決勝で「満足している選手は誰ひとりいなくて、試合が終わった後も喜ぶような雰囲気ではなかった。ここからが大事」と口にしていたのは五嶋だ。全員が日本一を頭に入れながらも、目の前の一試合に全力を注ぎこんでいる。
心身ともに隙のない大津が、2回戦以降も強さを発揮できるか注目だ。