■試合序盤からドリブルで前へ、前へ 三笘薫が胸の内を明かした。 12月27日に行われた対ブレントフォード戦は、ブライトンにとって2024年最後のホームゲームとなった。この試合で、日本代表アタッカーは4−2−3−1の左MFとして先発。試合序盤…
■試合序盤からドリブルで前へ、前へ
三笘薫が胸の内を明かした。
12月27日に行われた対ブレントフォード戦は、ブライトンにとって2024年最後のホームゲームとなった。この試合で、日本代表アタッカーは4−2−3−1の左MFとして先発。試合序盤から目立ったのは、三笘の積極果敢なプレーだった。
ボールを持つと、まずは仕掛けの動きを見せる。今季ここまでの戦いでは不用意なボールロストを避けようと、中盤で横パスを出したり、ボールを一旦キープしてスローダウンする場面が少なくなかったが、今回の試合では仕掛けのアクションからプレーを始めた。
もちろん、突破が難しいと判断すれば、味方の足元にボールを預ける。無謀なプレーをしない考えは変わらなかったが、この日の三笘は、いつになくアグレッシブ、そして、積極的にアクションを起こした。
試合開始3分のファーストタッチから、これまでとの違いが感じられた。敵を背負いながらボールを受けると、キープしながら反転。素早い切り返しで前に出て、相手を抜き去った。この場面では2人目のマーカーにブロックされたが、似たような仕掛けは、この後も続いた。13分、20分、25分、27分と、中盤から推進力の高いドリブルで前へ、前へと突き進むシーンを重ねていったのだ。
また、前半43分には、コーナーキックのこぼれ球を左足のハーフボレーでシュート。わずかに枠を外れたが、ゴールやアシストの結果につながりそうな雰囲気は十分あった。
試合後、こうした変化について、三笘本人に聞いてみた。
「プレーがいつもと違うように見えました。ボールを持ったら、パスではなく前に仕掛ける。ドリブルで仕掛ける意識が高かったように思います。意識していたのですか」
三笘はこう答えた。
■「相手もファールを怖がると思った」
「そうですね。コンディションも悪くなかったですし、ボールを受けたときにショートカウンター気味に、(前方に)スペースがあった。自分がそこに入ることで、相手もファールを怖がると思った。ああいうプレーを毎試合やらないといけない。そこからシュートを打ち切るくらいのところまでやらないと」
筆者は、もう少し深く聞いてみた。ブライトンは、直近5試合で3分2敗と勝利がない。前々節のクリスタルパレス戦では、相手のパワープレーに対処できず1−3で敗戦。前節ウェストハム戦ではチーム全体に力強さがなく、1−1で引き分けた。そこで筆者は、
「意識の変化は、過去5戦で勝利がない状況を踏まえてのものだったのか。それとも監督から指示があったのか」
と尋ねた。三笘は胸の内を明かす。
「(監督からの指示として)そういったところは何もないです。5試合で結果が出なかったので、自分自身、いろいろと考えたり、見つめ直したりしました。 チームとしてやりたいことと、自分がやらないといけないことの区別が難しかったところはありましたけど。ただ良くも悪くも、結果が最終的な判断になると思う。結果が出れば、OKだったと思います。それを次でやるしかない」
ドリブル突破に目を奪われがちだが、三笘薫という選手は非常にクレバーなプレーヤーである。戦術理解が深く、監督の指示も忠実に実行する。特に今シーズンから指揮を執るファビアン・ヒュルツェラー監督は、前線の選手に対し、守備を徹底させている。三笘も例外ではなく、相手ボール時には自陣深くまで下がってディフェンスに走る。
ただ、こうした守備タスクの多さや、戦術の枠組みからはみ出すことのない謙虚な姿勢が、日本代表MFの怖さを少し減らしているように思えてならなかった。「ここは勝負所」と、三笘のドリブル突破を期待する場面でも、ボールロストを嫌がるのか、仕掛けることなく、味方へボールを預ける場面が今季は少なくない。もちろん、ドリブルからチャンスを呼び込む場面もあるが、たとえば加入1年目の2022−23シーズンに比べると、その頻度は著しく減った。少し乱暴な言い方をすれば、こうした違いが18節終了時で3ゴール、2アシストという、少し寂しい成績につながっているように思えてならなかった。
実際、自身の役割について、三笘は次のように説明したことがある。
■「もどかしいかもしれないですけど…」
今から約1か月前のボーンマス戦(11月23日)。この試合で守備に追われるシーンが多かったことについて聞いてみると、三笘は「まずは守備からやる必要がある。見ている人にはもどかしいかもしれないですけど、僕としてはチームとしてやるべきことをやっているつもり」と話した。チーム戦術の枠組みの中で、自身のストロングポイントを出していくと、三笘はそう力を込めていた。
ところが、ここに来てブライトンが勝てなくなった。前節ウェストハム戦では、三笘も効果的な働きをあまり見せられず、試合後のミックスゾーンでも落ち込んでいる様子だった。
こうして迎えたのが、今回のブレントフォード戦だった。筆者は、同じテーマでもうひとつ質問を重ねた。
「三笘選手が見せた前半の仕掛けは、『チームのバランスを少し崩してでもやろう』という考えの表れだったのか」
と。三笘は次のように返した。
「そうですね。前回のウェストハム戦は、チームのやるべきことをやった上で、自分の長所をなかなか出せなかった。毎試合、いろいろと考えを巡らせながらやってますけど、実際は何が正解かわからないですね」
守備をこなした上で、攻撃を仕掛ける──。ここまでの三笘は、チーム戦術を忠実に遂行してきた。だがチームが勝てなくなったことで、三笘は「自分を見つめ直した」と言う。前半に見せた積極的なプレーは、チームとして、そして三笘個人としても、何かを変えたいという気持ちの表れだったのだ。
前半のパフォーマンスは、たしかに素晴らしかった。長い距離をドリブルで走る三笘のアタックは、チームの推進力となって攻撃に勢いを与えた。
一方で試合が0−0のスコアレスドローに終わり、ブライトンの未勝利は6試合に伸びた。三笘個人にフォーカスしても、後半は危険なプレーが減った。その後半、中2日に行われる30日のアストンビラ戦をにらみ、今季最短の後半22分で交代を命じられた。交代時の三笘は、首を左右に小さく振って納得がいかない様子であった。
試合後「最後までプレーしたかったですね」と聞いてみると、三笘は「もちろんそうですが、後半のプレーなら妥当かなと思います」と短く答え、後半の内容から考えれば早い時間での交代も仕方ないと話した。
ただ、前半に見せた積極的な仕掛けには、三笘の“らしさ”が凝縮されていたのは間違いない。今後の課題は、いかに自身のアタックを結果につなげていくかになるだろう。
「次でやるしかない」と三笘は言う。ブライトンの次戦は、敵地で行われるアストンビラ戦。ここで、自身の活躍でブライトンを7戦ぶりの勝利に導くことができるか。後編(2)に続く。