【りくりゅうがけん引するペア新時代】 12月22日、大阪。フィギュアスケートの全日本選手権ペアは、「りくりゅう」こと三浦璃来・木原龍一組(木下グループ)が、トータル212.33点で2019年以来となる優勝を果たしている。表彰式では2位の長岡…
【りくりゅうがけん引するペア新時代】
12月22日、大阪。フィギュアスケートの全日本選手権ペアは、「りくりゅう」こと三浦璃来・木原龍一組(木下グループ)が、トータル212.33点で2019年以来となる優勝を果たしている。表彰式では2位の長岡柚奈・森口澄士組、3位の清水咲衣・本田ルーカス剛史組と親しげに健闘をたたえ合い、兄弟姉妹のようでもあった。
りくりゅうが日本のペアをけん引し、同じ舞台で共に戦うペアも出てきた。会場も大勢の観客で座席が埋まり、沸き立つような歓声が起きるようになった。まさに新時代だ。
全日本選手権で5年ぶりの優勝を飾った
「りくりゅう」
「(ペアは)5年前は1組で表彰式や撮影だったので、感慨深かったですね。今回は3組が一緒に並んだので」
三浦はそう振り返っているが、その間、歓喜も苦難もあった。
2022年北京五輪でりくりゅうは、団体で銀メダルに貢献した。その勢いを駆って、世界選手権で優勝を達成。栄えある世界王者になったが、昨シーズンは木原の腰椎分離症でリンクに立てない日々を過ごした。そして今シーズンは復帰し、GPシリーズのスケートアメリカで優勝、GPファイナルで2位、全日本で破格の強さを見せた。
「5年はあっという間で。(コロナ禍で)日本に帰れず、五輪に出させてもらって、でもケガもあって......すべての経験が自分たちを成長させてくれました。(全日本は)ありがたいなっていう思いで滑ることができました」
木原の言葉は、真実味が込もっていた。りくりゅうが次に見せる「時代」とは?
【細部にこだわるチャンピオン】
ショートプログラム(SP)でりくりゅうは74.16点で首位に立ったが、彼らが戦っているのは自分たち自身なのだろう。3回転トーループの回転不足に相当な悔いが残っていたようだ。
ーーGPファイナルよりも、いい演技にする自信はあるか?
報道陣の質問は三浦に向けられていたが、木原がすかさず割って入るように答えた。
「絶対にできると思います」
その勢いに少し笑いが起こると、木原は真剣なままで続けた。
「できてなかったら言わない。練習はしっかりとできていて、自信を持っていたんですが、試合で発揮できないというのは悔しい。できているので、もっと発揮したいなって。(ミスは練習で)数をこなして、乗り越えていかないと勝てないと思います」
木原が頭のなかで描く"ベストのりくりゅう"の形があるのだろう。
「ファイナルのほうが緊張感があったなって思いました。(全日本SPは)集中できていて、体もキレていて、平常心でも臨めていたので......それだけに(ミスは)残念だったなって思います。その状態でしっかりと演技できなかった、というのが」
演技後にこう振り返ったが、まるで敗者の弁のようだった。しかし、そうやって細部を怠らず、完璧性を求める向上心が、彼らをチャンピオンにするのだろう。その執念こそ、りくりゅうの正体の一部なのかもしれない。
【後半戦へ自分たちを超えていく】
翌日のフリーでりくりゅうは、『Adios』の叙情的な旋律に乗って、リンクを舞っている。スペイン語で「さよなら」の意味で、その決別は野心的に挑む思いを歌っているが、何より彼らの演技はたくましかった。
たとえば、木原のトーループがステップアウトになり、3回転トーループ+ダブルアクセル+ダブルアクセルを取りこぼしたが、むしろ、そこから集中力を高めた。
最初のリフトはレベル4、スロージャンプは3回転ループを成功。スピンもレベル4で、サイドバイサイドで3回転サルコウもみごとに決めた。次のリフトも華麗でレベル4だった。スローでの3回転ルッツ、3本目のリフトもレベル4、最後はコレオで作品を仕上げた。
「序盤にミスがあっても、引きずらずに演技ができたのはよかったなって。大きな得点源はなくなってしまいましたが、今シーズン一番高い点数をもらえました。これは後半戦に向け、大きな自信になると思います」
三浦はそう振り返っている。彼女は淡々としたなかに熱さを内包させ、寛容で明るい強さがあった。演技直後、「疲労と申し訳なさで立てなかった」とひざまずいた木原の頭を優しく撫でた。
シーズン後半戦に向け、りくりゅうはプログラムを通してさらに滑り込むという。トランジションの改善や靴の変更など、それぞれが「1点でも、"りくりゅう"を超えるため」に競技と向き合う。その真摯な姿勢が、フィギュアスケート界全体を刺激するはずだ。
「(りくりゅうと)同じ表彰台に乗ることができて、うれしかったです!」(長岡)
「りくりゅう先輩の1個下はモチベーションになるし、海外の試合でも一緒に(表彰台に)乗れるように!」(森口)
後輩たちも、背中を追いかけている。活気が生まれる。そのつながりが、りくりゅうをも強くするはずだ。