2024年高円宮杯JFA・U-18サッカープレミアリーグ2024チャンピオンの大津高校。この土台を築いた平岡和徳・テクニカルアドバイザー(TA)を大きく育てたのが、帝京高校時代の古沼貞雄監督(矢板中央高校サッカー部アドバイザー)である。 …
2024年高円宮杯JFA・U-18サッカープレミアリーグ2024チャンピオンの大津高校。この土台を築いた平岡和徳・テクニカルアドバイザー(TA)を大きく育てたのが、帝京高校時代の古沼貞雄監督(矢板中央高校サッカー部アドバイザー)である。
古沼監督は1965~2004年まで帝京を指揮し、高校サッカー選手権6回、高校総体3回の合計9回も日本一を経験している。そこまでの輝かしい実績を残したのは、かつて国見高校を率いた小嶺忠敏監督と古沼監督くらい。古沼監督が教えた中には、2002年日韓・2006年ドイツワールドカップ(W杯)日本代表の中田浩二(鹿島FD)、なでしこジャパンを2011年女子W杯で世界一へと導いた佐々木則夫(現JFA女子委員長)といった優れた人材が数多くいるのだ。
その古沼監督も85歳。最近は体調の悪い日が増え、「前みたいに全国を飛び回れなくなってきた」「いつどうなるか分からないよ」といった弱気が発言をすることが多くなった。一番弟子とも言える平岡TAも「古沼先生が長年、やってきたことをしっかりと残さないといけないね」と話していたが、それを具現化したのが、12月13日に発売された『不易流行』という単行本(内外出版社)である。
同書の中で古沼監督は重要な言葉を数多く残している。その1つが「人間社会は理不尽である」ということ。令和の時代になり、理不尽な教育やスポーツ指導がより問題視されるようになったが、人間社会にはもともと理不尽が備わっている。人は生まれながらにして家庭環境が異なるし、豊かな両親に生まれる子もいれば、貧しい家庭で歯を食いしばって強くなる子もいる。人ははあらゆる場面で理不尽に直面する。「だからこそ、それを乗り越えていくことが大事」だと古沼監督は強調しているのだ。
■「苦しまずして栄光なし」
一方で、「苦しまずして栄光なし」という言葉もある。今の時代は親から怒られたことのないという子供もいるだろうが、他者からの指摘は耳が痛い部分もあるが、改善へのヒントになったりする。多少の苦しみがなければ新たな気づきを得られない。それは多くのトップアスリートも感じているはずだ。
そうやって苦しみながら、日々の積み重ねをしっかりした人間だけが成功を手にできる。古沼監督は「今日の汗、明日輝く」という言葉が一番好きだと言うが、それは教え子の平岡TAも大事にしていることだという。
大津の「凡事徹底」というスローガンも、そんな名伯楽の考え方が大きく影響しているに違いない。谷口彰悟(シントトロイデン)や植田直通(鹿島)の頃は実際に古沼監督が大津に赴いて指導することも頻繁にあったが、そのDNAは高校サッカー、Jリーグ、日本サッカー界へと引き継がれている。その意味を大津の高円宮杯優勝を機に今一度、考えてみることも重要ではないか。
(取材・文/元川悦子)