蹴球放浪家にして、ベテランのサッカージャーナリストである後藤健生には、半世紀以上にわたって背中を追い続けてきた、「日本最高のジャーナリスト」がいる。2024年J1最終節の「取材」は、その大先輩に導かれたかのようだった――。■申請の締め切り…

 蹴球放浪家にして、ベテランのサッカージャーナリストである後藤健生には、半世紀以上にわたって背中を追い続けてきた、「日本最高のジャーナリスト」がいる。2024年J1最終節の「取材」は、その大先輩に導かれたかのようだった――。

■申請の締め切り日に届いた「知らせ」

 このところ、J1リーグでは西日本勢が上位を占めています。

 僕は、関西まで出かけるのは億劫だったので、川崎フロンターレアビスパ福岡の試合を観戦するつもりでいました。川崎の鬼木達監督のラストゲームでしたし、しかも、福岡の長谷部茂利監督は来シーズンは川崎の監督になると言われていました。なかなか、興味深い対戦です。

 しかし、賀川さんのお通夜に出席するには、川崎での試合を観戦することは不可能です。

 Jリーグの取材申請の締め切りは、試合の2日前の夕方と決められています。賀川さんのお通夜の日程の知らせが届いたのは、まさに、その試合2日前の朝。僕はすぐに川崎の試合の取材申請をキャンセルして、G大阪対広島の試合の申請を行いました。

 神戸対湘南戦に行くか、G大阪対広島戦に行くか、ちょっと悩んだのですが、J1リーグ終盤にきて絶好調のG大阪も見ておきたかったので、そちらを選択したのです。

 案の定、G大阪は持ち前の守備力で広島の攻撃を封じただけでなく、3ゴールを決めて完勝しました。攻撃面に課題を抱えていたG大阪でしたが、エースの宇佐美貴史が欠場している中で広島から3ゴールを奪ったのです。

■「ダメ押し弾」でスタジアムを後に…

 さて、賀川さんのお通夜の会場は兵庫県芦屋市でした。賀川さんが、長く住んでおられた街です。

 パナスタのある大阪府吹田市から芦屋まではかなりの距離があります(移動を考えれば、神戸のノエスタのほうがずっと近い)。お通夜は18時からです。試合終了後は大阪モノレールの「万博記念公園」駅周辺は混み合うでしょうから、お通夜に間に合わなくなってしまう。

 そこで、僕は試合終了前にスタジアムを後にすることにしました。

 もし、試合が大接戦だったら悩んだでしょうが、幸い(?)G大阪が89分に素晴らしいゴールを決めてスコアは3対0となりました。「ダメ押し」です。しかも、神戸の勝利も確実という状況。僕は後ろ髪を引かれることもなく、スタジアムから駅に向かいました(ですから、広島が1点を返した場面は見ていません)。

 さて、モノレールに乗って隣の「山田」駅で降りて、阪急山田線に乗り換え、「十三」駅で神戸線に乗り換えて芦屋に向かうつもりでした。これなら「芦屋川」駅に17時20分に到着するはずでした。

 ところが、阪急の「山田」駅に着いてみると、「沿線火災のため山田線と京都線が運転を見合わせています」というアナウンスが流れていたのです。

「まずっ、このままではお通夜に遅刻してしまう!」

■大きな試練に「頭をフル回転」

 ここで、僕は頭をフル回転させました。“想定外の事態”にどう対処するか。それは、サッカー選手にとっても、放浪家にとっても大きな試練となる場面です。

 他のルートをいくつか頭の中に思い浮かべます。モノレールに乗って「千里中央」駅から北大阪急行に乗って梅田に出て、阪神電鉄で「芦屋」駅に向かう。いや、梅田での乗り換えに時間がかかりそうだ……。ほかにルートはないのか?

 幸い、僕は10年ほど前まで関西大学で客員教授をしていて、毎週、吹田にあるキャンパスまで通っていましたので、この辺りの鉄道路線には詳しかったのです。そこで、モノレールで「蛍池」駅(大阪空港のそば)に向かい、そこで阪急宝塚線に乗って十三経由で「芦屋川」駅に向かうというルートを思いつきました。

 阪急の「山田」駅でスイカの入場記録を取り消してもらって(これをしないと、後で手間取ることになる)モノレールに飛び乗りました。「蛍池」駅での接続も良かったので、「芦屋川」駅には予定より10分遅れの17時30分に到着することができたので、お通夜には悠々と間に合いました。

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