チームの仕上がりへの手応えを語る榎木監督創価大・榎木和貴監督インタビュー 後編(全2回) 國學院大、駒澤大、青山学院大の3強と言われる今回の箱根駅伝。だが、その一角に割って入るかもしれないという予感を抱かせるのが、出雲駅伝、全日本大学駅伝と…



チームの仕上がりへの手応えを語る榎木監督

創価大・榎木和貴監督インタビュー 後編(全2回)

 國學院大、駒澤大、青山学院大の3強と言われる今回の箱根駅伝。だが、その一角に割って入るかもしれないという予感を抱かせるのが、出雲駅伝、全日本大学駅伝ともに4位だった創価大だ。榎木和貴監督(50歳)が掲げる目標は、ズバリ「往路優勝、総合3位以内」。チームの状態、レースの展望を語る言葉には、確かな自信が宿っていた――。

【目前で総合優勝を逃した2020年の教訓】

 創価大を率いる榎木和貴監督は、2019年2月の就任以降、5大会連続で箱根のシード権を獲得するなど、着実にチームの強化を進めてきた。だが、指導をスタートした5年前は、「これでは箱根駅伝のハーフ(21.0975㎞)など走れない」状態だったという。

「監督になった時、今コーチを務めてくれている築舘(陽介)が4年生だったのですが、彼は1年生の時に箱根に出ていて、2、3年は出場できなかったんです。走れるメンバーがいるのになぜ箱根に行けないのかとすごく悔しがっていて、箱根に行きたいという強い決意を感じました。でも、練習はというと、箱根はハーフを走るのに距離を踏むことが全然出来ていない。月間500、600㎞くらいで、これじゃハーフを走れないよねということで月間750㎞を目標にしました。その結果、嶋津(雄大)(現・GMOインターネットグループ)をはじめ、選手がいいタイムを出していくことで説得力が増し、これをやれば箱根につながるんだというのを早い段階で作れたのが大きかったです」

 

 そんな榎木監督が初めて指揮を執った第96回大会(2020年)、創価大は9区終了時点で11位だった。初のシード権を獲得するには55秒差で前をいく中央学院大を追い抜かなければならない。その重要な最終10区をまかされていたのは嶋津だった。

「嶋津の調子が良かったので10区に置いたのですが、私の指示を無視して突っ走っていったんです。23㎞もあるのに、どこに根拠があってこんなペースで突っ込むんだというくらいで、(運営管理車から)何回も『落ち着け』と言ったんですけど、まったく聞いていなかったですね(苦笑)。最終的に区間記録を出して9位でゴールするのですが、嶋津は攻めるタイプだったので、彼を10区に置けたのは良かったのかなと思います」

 榎木監督は1年目で9位という結果を残し、創価大史上、初めてシード権を獲得した。それから5大会連続でシードを確保しているが、とりわけ第97回大会(2021年)は往路優勝、総合2位と大躍進を遂げ、「創価大は侮れない」との印象を他大学に残した。

「この時は、学内で28分40秒台が4人出て、しかも適材適所でメンバーを置けたので、かなり自信がありました。1年目でシードを獲れたので、2年目はハードルを上げて、ダメもとで目標を総合3位にしたんです。学生たちはぽかんとして、初めてシードを獲れたのにもう3位かよって感じだったんですけど、私は『これを無理と思うのも自分だし、やってやろうと思うのも自分なので、自分の取り組み次第で変わるぞ』と話をしたんです。コロナ禍で周囲が見えない状況のなか、みんな集中して練習に取り組めて、いい感じに仕上がった。往路優勝もいけるんじゃないかという雰囲気になり、いい状態で箱根に臨めました」

 榎木監督の読みどおり、4区で嶋津がトップに躍り出ると、5区の三上雄太(現・中国電力)が区間2位の走りで初の往路優勝を果たした。その後もトップをキープし、9区終了時点で2位の駒大に3分19秒差をつけ、優勝をほぼ手中に収めた状態で10区に襷が渡った。だが、ここからレースが暗転することになる。

「たぶん、私を含めて、見ていた皆さんも優勝を確信していたと思うんです。でも、走った本人だけがそう思えずにビビってしまった。いい流れを受けて、プラスアルファの力を出して勢いをつけてくれるのかなと思いましたが......。あとから聞いた話では、緊張して何も手につかなかったようです。この時の反省から、あらためて直前まで選手を見極めていこうと思いました。優勝したらまた違うものが見えていたのかもしれないですが、満足して、その後に低迷していたかもしれません。でも、優勝できなかったことで、優勝したいという思いでチームのベースを年々アップすることができています。シード圏内でなんとか耐えるという年もありましたが、今年は『3大駅伝で優勝』を目標にしてチーム作りを進めてきました」

【出雲、全日本では気持ちの甘さがあった】



一昨年に完成した寮。最新の機器が導入されている

 今季の自信は、個々の選手の成長が裏付けになっている。昨年のチームは10000mで28分台の選手が11名いたが、今季は13名に増えた。また、トラックシーズンが終わった時点での10000mの上位10名平均タイムが28分28秒02で國学院大に次ぐ2位だった。その結果から選手の成長と覚悟を感じ、駅伝シーズンに突入したが、初戦の出雲駅伝は4位に終わった。

「出雲はスティーブン(・ムチーニ)(2年)が直前のケガで離脱し、留学生を使わない駅伝になりました。以前のウチは留学生がいるから順位をキープしてくれる、仕上げてくれるという安心感があっての駅伝だったんです。今回は初めて留学生を起用しない駅伝になったのですが、ある程度、戦うことができました、日本人だけでも目標は変えず、攻めていくんだというのを植え付けられたのが大きな収穫でしたね」

 続く全日本では、ムチーニが戻ってきた。出雲で戦える自信を持てただけに、榎木監督は國學院大、駒大、青学大に一矢報いる戦いができると思っていたという。実際、2区ではエースの吉田響(4年)が青学大の鶴川正也(4年)と激烈な叩き合いを見せ、「創価大、来るか」という期待を抱かせたが、それ以降は徐々に順位を下げていった。8区の野沢悠真(3年)が区間2位で意地を見せたものの、最終的には出雲と同じ4位。レース後は榎木監督も厳しい表情を浮かべていた。

「吉田響は気合いが入りまくった走りを見せてくれましたし、5区のムチーニは70パーセントくらいの仕上がりでしたが、崩れずにつないでくれました。課題はその前の3区、4区ですね。特に3区の石丸(惇那)(3年)は、響がああいういい流れで来たのにもかかわらず、攻めた走りができなかった。出雲も中途半端な走りでしたし、だからこそ全日本では青学大の折田壮太君(1年)の前に出るとか、そういう強気の走りをしてほしかったですね。そうすれば、自分の殻を破れたかなと思います。彼を含めてチーム全体として勝とうという意識が足りなかったですね」

 レースを終えて榎木監督が國学院大、駒大、青学大の上位3校から感じたのは、「勝ちたい」という強い気持ちと覚悟だった。

「上位3校は優勝しか見ていない。そこと比べると、私たちは『3位以上でいいんだ』という気持ちの甘さがあったのかなと思います。やっぱり優勝しか目指していないチームは攻めるんですよ。その気持ちの熱量というか、自分たちが勝つんだ、箱根はもう誰にも譲らないという覚悟を持ってほしいと選手に話し、共有しました」

【重要視しているのは1区】

 今回の箱根での目標は往路優勝、総合3位以内。

「目標を飾りに置いているようだと達成できませんが、本当にそこを目指すのではあれば全日本でできなかったことをやりきらないといけない。先日の日体大記録会(12月2日)も記録が出るのは当り前。でも、集団の後ろについてタイムを出しても駅伝につながらない。レースを途中で動かしたり、勝ちきるとか、それをやって初めて駅伝につながると言っているので、そういう意味では1年生の石丸(修那)や山口(翔輝)は攻めた走りをして、最後もしっかり上げきったレースを見せた。それに比べると、4年生は少し物足りなかった。箱根本番までに勝ちたいという意識を高めることができるかどうかがひとつ大きなポイントです」

 メンバーを見れば、3強に引けを取らない実力者がそろっている。ムチーニを軸に吉田響、吉田凌(4年)、小暮栄輝(4年)、野沢、小池莉希(2年)らの顔が浮かぶ。とりわけ吉田響は出雲、全日本ともに快走し、駅伝での強さを見せた。その吉田響は前回同様に山(5区)を走るのか、それとも平地を走るのか。彼の配置は興味深くもあり、また他大学にとって警戒すべき点になる。

「吉田響をセオリーどおりに山に置くのか。それとも平地に置くのか。平地に置いたとき、どれだけ他校の脅威になるのか。ムチーニとともに平地区間の選択の幅が広がったので、ここは楽しみですね。ただ、箱根で大事だと考えているのは1区です。もちろん、2区以降にエースが控えているので、そこからの勝負で良いという見方もあります。実際、出雲、全日本とともに1区はハイペースで前に出る感じにはならなかったですからね。だから、箱根の1区もスローになる可能性がありますが、2022年の中央大の吉居大和君(現・トヨタ自動車)のようにいきなり前に出て引き離されると終わってしまう。どんな状況にも対応できるような実力のある選手を1区に置きたいと思っています。あとは、適材適所で選手が持ち味を発揮してくれれば、目標の往路優勝、そして総合優勝も狙えると思っています」

 下馬評では、やはり3強の優位は動かないだろうという声が多い。創価大は、出雲、全日本の結果が示すとおりの4、5番手、ダークホークと言われているが、榎木監督は「もうそろそろ......」と決意を口にする。

「いい走りをすると、『創価はよくやった』と言われますが、それは下に見られているというか、優勝はないんだろうなと見られているから、そう言われると思うんです。3強ではなく4強にしてほしいと思うんですけど、まだそこには実力が足りていないという評価なのでしょう。でも、自分たちはもうシード権で満足するチームではない。常にトップ3を目指すというところまで踏み込んできています。ダークホースという評価はもういらないですね」

前編を読む>>箱根駅伝2025 3強崩しを狙う創価大・榎木監督 指導の原点は4年連続区間賞を獲得した中央大時代にあり

■Profile

榎木和貴/えのきかずたか
1974年6月7日生まれ。宮崎県立小林高校では全国高校駅伝で区間賞を獲得。中央大学では箱根駅伝で4年連続区間賞に輝き、3年時にはチーム14回目の総合優勝に貢献した。卒業後は旭化成に入社し、2000年別府大分毎日マラソンで優勝。2004年に沖電気陸上競技部コーチに就任。その後、トヨタ紡織陸上競技部コーチ、監督を経て、2019年に創価大学陸上競技部駅伝部の監督に就任すると、1年目の箱根でチーム史上初のシード権獲得、2年目で往路優勝、総合2位に導いた。