パリ五輪後、古賀紗理奈というスターが去った日本女子バレー界では、誰かが"女王"の座につく必要があるのだろう。スポーツ競技が発展するには、暗闇を照らす星のような存在が欠かせない。さもなければ、停滞を余儀なくされる。 古賀…
パリ五輪後、古賀紗理奈というスターが去った日本女子バレー界では、誰かが"女王"の座につく必要があるのだろう。スポーツ競技が発展するには、暗闇を照らす星のような存在が欠かせない。さもなければ、停滞を余儀なくされる。
古賀ははるかに突出した存在だった。技術、体力以上に、バレーに対する自負心で勝っていた。至高のプレーを求め、チームを勝利に導く姿は、孤高に映るほどだった。
ポスト古賀の今シーズンは、新たにSVリーグが発足している。
「世界最高峰を目指す」
そんな野望を掲げ、14チームで挑むことになった女子バレーは、群雄割拠の様相を呈している。
全日本の次のエース候補、アウトサイドヒッターの林琴奈は、「ポスト古賀」の有力候補のひとりだろう。スパイクだけでなく、ディグ(スパイクレシーブ)に優れるオールラウンダーである。彼女を擁する大阪マーヴェラスは首位に立っている(12月9日現在。順位、成績は以下同)。
また、井上愛里沙は、昨シーズンV2(2部)だったヴィクトリーナ姫路を5位に躍進させている。総得点ランキングでは、1位から5位までをブラジル、イタリア、アメリカ、ベルギー、タイと、外国人選手が独占しているなか、日本人最高の6位。2022年にはMVP、得点王に輝いており、アタッカーとしての能力は傑出している。
SVリーグ開幕戦でスパイクを放つ佐藤淑乃(NECレッドロケッツ川崎)Photo by Naoki Nishimura/AFLO SPORT
また、現在4位のNECレッドロケッツ川崎の佐藤淑乃は、同チームで古賀の背番号2を受け継ぎ、名実ともに「古賀の後継者候補」と言える。パリ五輪に出場した和田由紀子も、「ポスト古賀」として補強されたオポジットで、全身を鞭のようにしならせて打つスパイクは美しい。
彼女たちは、古賀と同じポジションで注目されるわけだが、今はライバルとなって、立ちはだかる選手の台頭が望まれるのかもしれない。それを乗り越えるプレーができてこそ、大きな波が生まれる。切磋琢磨の過渡期だ。
開幕からの2カ月、彼女たちはどんな日々をすごしてきたのか?
【各チームにパーソナリティのある選手が】
10月12日、SVリーグ、女子バレー開幕戦はNEC対埼玉上尾メディックスで行なわれている。
当日は、試合後に古賀の引退セレモニーなども企画されており、老若男女の熱気に包まれ(男子バレーは圧倒的に女性人気が高いが、女子バレーの観客は男女や年齢のへだてなく、家族連れやカップルなどが多い)、3280名の入場者を記録していた。これは昨年のVリーグの平均の3倍以上だった。翌日の同じカードも2632名で、悪くない滑り出しだったと言える。
ただしその後、入場者数はやや苦戦している。平均で1000人強程度を推移。昨シーズンの数字を上回っているものの、目標とする2000人に到達するためには、やはりスターが生まれる必要があるのだ。
もっとも、パーソナリティのある選手がいないわけではない。
筆者は『ハイキュー?×SVリーグ』の連載企画で、この2カ月で各チームの計30人ほどの選手をインタビューしてきた。その肌感覚で言えば、多くの女子選手がバレーへの引力を感じ、人生を懸けて打ち込み、何かを見せようと必死になっている。端的に言って魅力的な選手たちだし、そのプレー自体もスペクタクルだ。
たとえばリベロでは、現在リーグ2位のデンソーエアリービーズの川畑遥奈がサーブレシーブ成功率1位で、新たな代表入りも視野に入れる。サーブレシーブ成功率3位で埼玉上尾の岩澤実育は、アウェー会場で「岩澤に向かって打つな」という悲鳴が聞こえるほど、レベルの高いディグを見せる。
セッターでは、クインシーズ刈谷(10位)の髙佐風梨が、捉えどころのない性格と重なる幽玄のようなものをプレーに感じさせ、来年1月開催のオールスターゲームにもリーグ推薦で選ばれている。同じくオールスターゲームメンバーで、KUROBEアクアフェアリーズ富山(11位)の安田美南にはスケール感がある。
ミドルブロッカーでは、PFUブルーキャッツ石川かほく(9位)の細沼綾が、リーグ4位と外国人選手顔負けのブロック決定本数(1セットあたり)を誇る。同じく姫路の伊藤麻緒は、ブロックの流儀を感じさせる。アランマーレ山形(13位)の伊藤摩耶は昨シーズン、サーブランキング2位で、セカンドテンポを武器にする。デンソーの大﨑琴未は実力、人気のある選手で、ケガからの復帰が望まれる。
こうした選手たちが躍動することで、競技自体に磁力が出て、ファンを引きつける。その渦からスーパースターが出現する。繰り返すが、今はそのせめぎ合いの時期だ。
リーグの3分の1程度を消化した段階で、トップ争いは大阪、デンソー、埼玉上尾の三つ巴か。ただ、4位以下も実力は拮抗。昨季女王のNECに反転攻勢があるはずで、絶大な人気を誇るオポジットの長岡望悠を擁するSAGA久光スプリングス(7位)、剛腕とも言えるスパイカー、深澤つぐみがけん引する東レアローズ滋賀(8位)も十分に巻き返せる。
44試合もあるだけに、順位はまだ目まぐるしく変わるだろう。リーグ戦後、レギュラーシーズン上位8クラブがチャンピオンシップに進出。トーナメント方式で戦い、優勝を決める長丁場だ。
チャンピオンシップが行なわれる頃、女子バレーは新時代を迎えているか。