『ハイキュー‼』×SVリーグ コラボ連載(22)ジェイテクトSTINGS愛知 岩本大吾(連載21:ジェイテクト道井淳平はウシワカに立ち向かう烏野に共感 2m級の左利きセッターは今、関田誠大に学ぶ>>)(c)古舘春一/集英社「自分は、悔しさが…
『ハイキュー‼』×SVリーグ コラボ連載(22)
ジェイテクトSTINGS愛知 岩本大吾
(連載21:ジェイテクト道井淳平はウシワカに立ち向かう烏野に共感 2m級の左利きセッターは今、関田誠大に学ぶ>>)
(c)古舘春一/集英社
「自分は、悔しさが残らないんですよ」
ジェイテクトSTINGS愛知の岩本大吾(23歳)は、静かな声で言う。
「以前、インタビューの質問で、『今までで一番悔しかった試合は?』というのがあって。全然、思い浮かばなかったんです。その都度、悔しさはあったはずなんです。春高も準決勝で負けているし、大学4年時のインカレは出ていなくて負けたし......。でも、その悔しさは残っていなくて、忘れかけていたんです」
その上で、こう続けた。
「SVリーグ開幕戦のVC長野(トライデンツ)戦の負けが、バレー人生で一番悔しかったかもしれません」
彼は少しだけ唇を噛んだ。
兵庫県の尼崎市に生まれたが、岩本家はいわゆる"バレー一家"だった。父も母も社会人でプレーし、父は今もVリーグの兵庫デルフィーノで部長を務め、妹の沙希も日体大でプレーしている。
ただ、バレーを始めたのは12歳。中学校からと決して早くはない。
「親に『やれ』とも言われなかったですから。会場に見に行ったり、テレビでも見ていたりしていましたけど、自分がやることはなかった。小学校5、6年の時に体験で大人に混じってやったんですが、(レシーブは)痛いし、うまくできない。あまり楽しくはなかったです(笑)」
しかし身長は伸び、中学ではアウトサイドヒッターで、とにかくスパイクを打って成長した。中学3年の冬からミドルブロッカーでプレーし、アンダー世代の代表にも選ばれるようになった。
市立尼崎高校では春高バレーに出場し、早稲田大学ではインカレ3連覇と輝かしい実績があるが......。「学生の時は、上が抜けたから試合に出ていただけですよ」と岩本は言う。
「高校では1年の時は出ていなくて、2個上の先輩たちが卒業してから出られるようになった。大学も(日本代表の村山)豪さんが抜けて試合に出るようになったんです。全日本インカレで優勝した時も、ユニフォームを着られずに外から見ていた。自分は先輩を抜かして試合に出て、結果を残した人間ではなかったんです」
彼は正直だ。いくらでも誤魔化せることを隠さない。その誠実さこそ、彼の人間性なのだろう。
「やりたいようにやれ。お前の人生やから」
父にはそう言われたという。バレーを強制されたことも、自慢話をされたこともない。いつも自分をリスペクトしてくれる父に、現役時代のことを聞こうと思ったこともあるが......。
「どういう選手だったのか聞くタイミングはあったんですが、照れ臭さがあるというか......」
彼はそう洩らしたが、きっと親子揃って優しいのだ。
しかし、トップリーグでプレーする息子は、勝ち負けですべてが決まる戦いに挑んでいる。同じチームには、日本代表でパリ五輪にも出場したミドルブロッカー、髙橋健太郎がいる。彼と対峙し、超えることができるのか。
「高校、大学と誰かの背中を追うだけで、その人を超えた経験はない。たぶん、自分で限界を決めちゃっているんだろうなと思うんです。でも、SVリーグというバレーで一番上のカテゴリーにいるんだから、そうも言っていられない。長野戦では初めてリーグ戦で先発して負けて、"もっとやらなあかん"って思ったし、負けをうまく落とし込めた。戦える武器をもっと探していかないと」
誠実な男は、そう言って上を向いた。
【岩本が語る『ハイキュー‼』の魅力】
――『ハイキュー‼』、作品の魅力は?
「自分の周りでも『読んでいる』という人は多いですね。ジャンプ漫画のなかでも、負けた側にあれだけスポットが当てられる作品はないんじゃないかと。キャラクターの個性もいいですね」
――共感、学んだことは?
「当然、勝ち負けはあるんですけど、それだけじゃない。バレーをやっていなくても共感できる作品だと思います」
――印象に残った名言は?
「インターハイ予選での、烏野の烏養(繋心)コーチの言葉ですね。烏野が青葉城西に負けたあと、ご飯を食べる時の『――食え食え 少しずつ でも確実に 強くなれ』というシーン。自分もインターハイで負けて、その夏を経て強くなる経験をしました。夏のしんどさがあってこそ、なんですよ。僕も、母からとにかく食べるように言われていたので、重ね合わせた部分がありました」
――好きなキャラクター、ベスト3は?
「3位からですが、ワクナン(和久谷南高校)の中島(猛)くんですね。中島くんは自由な感じのキャプテンで、みんなに前を向かせている。でも試合に負けた後は、ひとりで泣いていて、自分もキャプテンでそういうことがあったなって。共感というか、勇気づけられます。
2位が白鳥沢学園の五色(工)くん。ウシワカ(牛島若利)という大エースがいるチームで、五色くんは1年生エースなんですが、春高バレーの予選の決勝で『ここでトスが上がるのは俺じゃない』っていうセリフが『わかるなあ』と。3年生にとんでもないエースがいて、自分には上がってこない感じ、自分も高校1年の時を思い出しました(苦笑)。1位は烏野の菅原(孝支)さん。3年生にも下級生にも慕われていて、"裏ボス"的な設定がいいなって」
――ベストゲームは?
「烏野vs稲荷崎ですね。自分が通っていた市立尼崎高校に古館春一先生がいらっしゃったことがあるんですが、その試合の体育館の感じが似ているんです。稲荷崎は選手も関西弁だし、高校時代を思い出すんです(笑)」
(連載23:岡山シーガルズ金田修佳が、古賀紗理那を見て感じた自分の「平凡」さ「だから下を向いている暇はない」>>)
【プロフィール】
岩本大吾(いわもと・だいご)
所属:ジェイテクトSTINGS愛知
2001年2月10日生まれ、兵庫県出身。193cm・ミドルブロッカー。中学校からバレーボールを始め、市立尼崎高校時代には3年とも春高バレーを経験し、インターハイでは優勝。早稲田大では1年時から全日本インカレを3連覇。3年時には最優秀選手賞を受賞した。各カテゴリーの日本代表にも選出されている。2023年にジェイテクトSTINGS愛知に入団した。