味の素スタジアムで11月30日に繰り広げられた激戦に終止符を打ったのは、若きストライカーのハットトリック弾だった。川崎フロンターレFW山田新。プロ2年目の24歳の得点によって、チームは5-4で東京ヴェルディとの試合を制した。 その山田が今…
味の素スタジアムで11月30日に繰り広げられた激戦に終止符を打ったのは、若きストライカーのハットトリック弾だった。川崎フロンターレFW山田新。プロ2年目の24歳の得点によって、チームは5-4で東京ヴェルディとの試合を制した。
その山田が今季のJ1得点王になるためには1試合で最低でも5得点を取らなければならず、掲げる目標はあえて6点。通常は不可能な数字だが、ここまで19得点を積み上げてきたその自信を持って、試合に挑むつもりだ。
実際、東京V戦でのハットトリックは大きな自負につながっている。直後のACL・山東戦で1得点を記録したこともあって、「勢いも自信もありますし、ゴール前に行ければ得点が取れそうな感覚が残っている。1点取れれば勢いも気分も乗ると思うので、まずは1点取ることが大事」と言い切る。
日本のトップリーグで1試合を残して得点ランキング3位。現・得点王とのゴール差は「6」となっている。最終節を前にこのような位置にいることをシーズン前に想像していたか尋ねれば、「得点王にはもちろんなりたい思いはありましたけど、あんまり想像できなかった」と率直に語る。逆に言えば、それだけの成長曲線を背番号20は描いている。
■山田を動かす2つの刺激
得点王を狙ううえで、刺激になるものが2つある。一つは、ヴィッセル神戸に所属する昨季までのチームメイト、宮代大聖だ。下部組織時代から一緒にプレーしてきた宮代とは、「本当にいい選手。昔からリスペクトしてますし、今の活躍も刺激になりますし、お互いに刺激を与えるいい関係だと思います」とその深い関係性を説明する。
実際、宮代が更新したインスタグラムを見た2か月前、すぐに電話を手にしている。それは宮代がサウナに行った写真を投稿したものだったが、そうした話題で連絡を取るほどに仲が良いのだ。
もう一つの刺激は、恩師・鬼木達監督のラストマッチである。今季限りでの退任が発表されている指揮官への思いを聞けば、「みんな話したりはしないですけど、絶対に勝って送り出したいっていう思いを一人一人が強く抱えている中で、みんな同じ方向を向いている。自分もそうですし、本当にここまで育ててくれた人なので、自分が成長した姿を見せて笑顔で終わらせられればいい」と気持ちを明かす。
「ストライカーはいろんなプレッシャーがある中で生きていかないといけないから。そういう意味でも言ってるから」
これは、鬼木監督に言われた言葉で強く残っているものだ。今季の鹿島アントラーズ戦後に得点機会を逸したことでプレッシャーは強まったが、その中で生きるのがストライカーであると鬼木監督は諭したという。
「お前が決めないとダメだぞみたいな、すごい言われて。ありがたく感じました」
心に残る言葉が、闘志を燃やした。
■貪欲に見据える成長
山田がここまで戦った公式戦で記録した1試合の最高得点は5点。練習試合では「6点か7点くらい」だという。中学3年生の時に達成した数字を、12月8日に開催される日本のトップリーグの舞台で成し遂げなければ、得点王という座は奪えない。
通常であれば事実上、不可能な数字だ。それでも、「できるんじゃないか」と思わせる何かがある。等々力競技場のピッチでどんなドラマが起きるのか。
「得点はやってきたものが表現できてると思いますけど、もっとシーズンを通してやれる部分もあったと思うし、うまくいったシーズンではなかったので、足りない部分もある」
こうも話して貪欲に成長を見据える背番号20の、勝負の90分が間もなく開演する。
(取材・文/中地拓也)