100円ショップとしてよく知られるDAISO。国内のみならず海外にも約1000店舗をかまえる大手だ。そんなDAISOを展開する大創産業が、スポーツを通じた社会貢献活動にも熱心に取り組んでいることをご存じだろうか。社是に掲げられている「世界中…

100円ショップとしてよく知られるDAISO。国内のみならず海外にも約1000店舗をかまえる大手だ。そんなDAISOを展開する大創産業が、スポーツを通じた社会貢献活動にも熱心に取り組んでいることをご存じだろうか。社是に掲げられている「世界中の人々の生活をワンプライスで豊かに変える ~感動価格、感動品質~」という想いを、地域の盛り上がりにつなげる活動について伺った。

DAISOがパラスポーツを応援。なぜ?

広島県東広島市に、大創産業の本社がある。その本社に隣接する駐車場で、2022年12月に車椅子ソフトボールチーム“広島Salire(サリーレ)”と“関西unbalance(アンバランス)”の親善試合、それにあわせて車椅子ソフトボールの体験会が開催された。対象は近隣の住民だったが、普段なかなか見る機会の少ないパラスポーツに触れられた喜びを語る人が多かったそうだ。

「イベント後に参加者の感想をまとめていただいたものを読んだのですが、“車椅子ソフトボールってかっこいい”という感想があったり、“今度車いすに乗っている人を見かけたら、何かお手伝いできることはありますか?と聞いてみたい”というような声があったり、みなさんそれぞれ受け止めていただているということを実感しました」

そう語ってくれたのは、大創産業で採用を担当し、兼務という形で同社の特例子会社ダイソーウイングに出向している久保浩二氏だ。実は、車椅子ソフトボールのイベントを開催することになったのは、現在“広島Salire”で活躍する江南聖選手が、以前ダイソーウイングに勤務していたことがきっかけだ。

「東広島市には公益社団法人広島県パラスポーツ協会の事務局があって、江南選手とのつながりも深く、東京2020パラリンピック競技大会では、聖火ランナーの広島県代表として江南選手が走ったこともあり、パラスポーツとは関係があったんです。そんな中で県の方から、車椅子ソフトボールをはじめとするパラスポーツの理解促進のために協力してもらえないかという話がありました。そこで、2022年、23年と2年続けて県内の小中学校で車椅子ソフトボールの体験会を実施することになったんです」(久保氏、以下同)

「福祉を育む場を作りたい」という創業者の強い想いから、様々な取り組みを実施

今年2月に亡くなった大創産業の創業者・矢野博丈氏には、もともと東広島の地に福祉を育む場所を作りたいという思いがあったそうだ。その思いのもと、障がいがある人の雇用創出のためにダイソーウイングを設立。そこで、車椅子ソフトボールで活躍する江南選手に出会った。

「大創産業がこのような社会貢献活動に取り組むようになったのは、やはり創業者の思いがきっかけだと思います。そして、江南選手が社員として在籍していたことにより、大創産業には、パラスポーツの理解の促進、普及、啓発のためにできることがいろいろあるということに気づかされました」

大創産業はダイソーウイングと合わせて、障がいのある人を毎年100名ほど採用している。採用を進めていく中で地域の特別支援学校から、障がい者雇用の取り組みについて是非話してほしいという依頼が入り、その数はどんどん増えていったそうだ。

出前講座では、実際にダイソーウイングに入社した障がいを持つ社員の声が聞かれることが好評

特別支援学校だけではなく、一般の高校などにも出向いて行われる出前講座では、江南選手のほか、特別支援学校を卒業してダイソーウイングに入社したスタッフも参加してイベントを盛り上げる。

「出前講座などの活動に参加する人が増えて、社内にもこういった大創の社会貢献活動への認知度が高まってきています。そんな中で、もちろん私たちもお声がけはしますが、スタッフが自分から参加したいと言ってくれるケースも増えています。従業員の社会貢献活動に対する参加意識も高まってきているなと感じます」

スタッフの参加意識に久保氏が注目するわけは、ダイソーウイングという社名に込められた意味から理解することができる。

「我々が障がい者雇用を通じて目指しているのは、共に働く従業員の自立と成長なんです。大創で仕事をすることによって経済的な自立はもちろん、人としての成長もしっかりと目指していってほしいですね。実はダイソーウイングという社名は、鳥の両翼を意味していて、片方の翼は仕事を通して身につけられるスキル、もう片方の翼はいろいろな人と関わることによって実現できる人としての成長。その両翼を使って大きく羽ばたけるようにという意味が込められているんです。このダイソーウイングを通じて、我々も地域社会への貢献に会社として寄与していきたいと考えています」

スポーツをテーマに地域社会を盛り上げていく意義

大創産業は、創業者である矢野氏の「地元に恩返しと社会貢献をしたい」という熱い想いから2019年4月に「女子駅伝部」を創部した。監督には、全国高校駅伝大会で広島県立世羅高校を男女合わせて6度の優勝に導いた岩本真弥氏を招聘。今後、広島県東広島市を拠点として中・長距離選手の育成を行い、陸上競技人口の拡大を図っていくという。このように、車椅子ソフトボールとのつながり以外にもスポーツとの関わりを深めてきた。今後もスポーツを通じた社会貢献は続いていくのだろうか。

「スポーツは誰もが楽しめて参加しやすいという特徴があります。そんなスポーツをテーマに地域社会を盛り上げていくという活動は、従業員のモチベーションを上げ、ここで働いてみたいという人を増やすという意味でも、会社にとって大事なことだと思います。今後も車椅子ソフトボールの体験授業は継続していく予定ですが、もうひとつ取り組んでみたいと考えているのが東京2020パラリンピックでも話題になったユニバーサルスポーツ、ボッチャです。広島県ボッチャ協会主催の“ボッチャ広島カップ”という大会があって、去年スタッフが参加しました。この大会には継続して参加していきたいですね」

また広島では、県内の市町、企業、競技団体など多様な主体が一体となって、障がいの有無に関らず、誰もが楽しめる“インクルーシブ・スポーツ・フェスタ 広島”というイベントを開催している。大創産業は、この大会にも昨年から参加を始めた。

「大創産業が障がい者雇用に取り組み、特例子会社ダイソーウイングがあることは、まだまだ対外的な認知は広まっていません。今後このような活動を継続していくことによって外部の人たちに広く知っていただきたいと思っています」

国内どころか世界に展開する100円ショップ“DAISO”が、地元を盛り上げるため、スポーツの普及促進を通じて地域貢献活動を行っている。この取り組みから見えてくるのは、企業と地域を結びつける媒介として発揮されるスポーツの力だろう。今後も注目していきたい。

text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)

写真提供:大創産業