小さい頃は体を動かして遊ぶのが好きだったのに、学校の体育の授業は好きじゃない、スポーツは苦手、という子どもたちは少なくない。子どもたちのそんな気持ちに寄り添い、可能性を引き出すためのユニークなスポーツテストをJA共済が開発。数字だけではなく…
小さい頃は体を動かして遊ぶのが好きだったのに、学校の体育の授業は好きじゃない、スポーツは苦手、という子どもたちは少なくない。子どもたちのそんな気持ちに寄り添い、可能性を引き出すためのユニークなスポーツテストをJA共済が開発。数字だけではなく、笑顔で測定するスポーツテストとは?
最新のAIが子どもたちの笑顔を測定スポーツテストといえば、50メートル走やハンドボール投げ、反復横跳びなどで、タイムや距離、回数を計測し、どんな動きが得意か不得意かを判定するのが一般的だ。しかし、JA共済が開発した「好きがみつかるスポーツテスト」は、競技参加者の表情をカメラで記録し、AIによって全7種類の競技の動きをどのくらい楽しんでいるかを判定。本人からのアンケートも合わせて、参加者が“好きになれるかもしれない”競技を紹介するというもの。
しかも、チャレンジする7つの競技も、小さな子どもでも楽しんでできそうな工夫がされている。いくつか具体例を紹介しよう。
コロコロストライクチャレンジボールを専用のラケットで打ち、3つの的に当てる競技。ラケットやボールのデザイン、的のイラストもポップで、テストというよりゲーム感覚で楽しめる。
10mスプリント10mを全力で走る。距離が短いので、走るのが苦手な子どもでも気軽にチャレンジできる。
リズムDEダンス音楽に合わせて画面に映し出される映像と同じ動きをする競技。お手本を見ながらなので、ダンスが苦手でも簡単に踊れる。
お笑い芸人ティモンディもテストにチャレンジこうした競技を7種目行い、それぞれ、競技の結果と競技中に撮影した表情をもとに、分析するというわけだ。このスポーツテストをJA共済の地域貢献アンバサダーを務めるお笑い芸人のティモンディのふたりが受けたそうだ。
ふたりのテストの結果、「好きになれそうな競技」としてそれぞれ以下の3種目を提案された。
■高岸宏行さん
1位 砲丸投げ
2位 やり投げ
3位 野球(ピッチャー)
■前田裕太さん
1位 飛込
2位 体操競技
3位 新体操
高岸宏行さんは学生時代に野球に打ち込み、お笑い芸人でありながら、独立リーグ栃木ゴールデンブレーブスの選手でもあるのだが、結果の1位と2位は野球以外のスポーツだった。また、前田裕太さんの場合、飛込や新体操など、通常の体育の授業では触れることのない競技がおすすめされたのが興味深い。この結果を見たふたりは次のように感想を述べている。
前田さん「まだやったことのない種目もあったけれど、やるのが楽しみになる。自分にそんな可能性があるのかと、スポーツが楽しくなりました」
高岸さん「人と比べるのではなく、自分のベストを知ることができてよかった」
「好きがみつかるスポーツテスト」は、普通に暮らしていたら一生チャンレンジすることがなかったかもしれないスポーツに触れる機会や本人も気づいていなかった自分の中に眠っている可能性に気づかせてくれるのだ。
なぜJA共済がスポーツテストを?このテストを開発したJA共済はその名の通り、JA(農協)の組合員向けの相互扶助(助け合い)の保障の仕組み。そのJA共済が、なぜこうしたスポーツテストを開発したのだろうか。このテストの開発に関わった、JA共済連全国本部農業・地域活動支援部地域貢献運営グループの伊藤仁美さんにお話を伺った。
「共済というと、万が一何か起こったときの保障の提供というのが世の中の一般的な認識だと思いますが、JA共済では保障の提供と両輪の関係で地域貢献活動を行っています。それによって、地域社会に安心と満足の輪を広げていこうということで、具体的には交通事故の防止活動や持続可能な農業への貢献のための取り組みなどさまざまです。その一環として、健康増進を行っていて、スポーツの推進をしているんですが、スポーツって子どもの頃は苦手意識を持ちやすいですし、一度嫌いになってしまうと、大人になってから始めるのは難しいんですよね」(伊藤さん)
子どもたちが自ら「運動したい」と思える要素とは実際、伊藤さんのお話を裏付けるような興味深い調査結果がある。スポーツ庁が行った「令和5年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果調査」なのだが、これによると、スポーツが「やや嫌い・嫌い」と答えた小学生が、男子7.1%、女子14.3%なのに対し、中学生は男子10.8%、女子23.6%と、年齢が上がるにつれ、嫌いになる比率が増えている。
興味深いのはここから先で、「卒業後も自主的に運動やスポーツをする時間を持ちたいか」という質問に対して、「あまり思わない・思わない」と答えた子どもたちに、「どのようなことがあれば、運動をしたくなるか」と聞いた回答だ。小学生、中学生、いずれも一番多かった答えが「自分に合ったスポーツが見つけられたら」、続いて多かったのが女子の場合は「自分のペースで行うことができたら」、男子は「うまくできるようになったら」というものだった。
つまり、体を動かすことそのものが苦手、嫌いなのではなく、自分に合ったスポーツが分からない、他人と同じペースでやらなくてはいけないから、うまくできないからスポーツをしたくないと思っていると言える点だ。
子どもの可能性を引き出すのは優劣ではなく、楽しいかどうか「誰しも小さい時は競争心にとらわれず、知らず知らずのうちに体を動かして遊んでいたはずです。それが学校の授業になると人と比べられ、競技になることで嫌いになってしまったのかもしれない。じゃあ、比べずに自分が楽しい、自分に合っているスポーツがわかれば、やってみたいと思えるかもしれないと考えたのです」(伊藤さん)
しかし、自分が楽しいと思っているかどうかを、どうやって計測するのか? そこでヒントになったのが前出のティモンディの高岸さんだった。
「私たちが文化支援活動の一環として開催している書道コンクールの体験ということで、アンバサダーのティモンディのおふたりに書道をやっていただきました。その時に好きな文字を書いてくださいとお願いしたところ、高岸さんが『笑顔王国』と書いてくれたんです。それを見て、笑顔って大事だな、幸せや安心だから笑顔になるんだよねというヒントをいただいたことから、向いているスポーツを数値ではなく、笑顔で判断できないかという取り組みが始まりました」(伊藤さん)
この取り組みの監修は、最新の測定機器を使用したスポーツ能力測定を日本全国で実施しているDOSA(一般社団法人スポーツ能力発見協会)。6万人を超えるデータをもとに、それぞれの長所や短所を分析し、子どもたちにスポーツとの出会いを創出している協会だ。伊藤さんたちは、DOSAの分析の要素に「笑顔」を取り入れられないか相談した。
「スポーツテストで点数が悪いと、『自分はこれが苦手なんだ』と勝手にふるいにかけてしまうじゃないですか。そのふるいをなくす、つまりスポーツを数値じゃなくて、笑顔で楽しんでやれているかどうかで判定したいとご相談しました。自分では笑顔かどうかは分からないので、AIの顔認証システムを使って客観的に測定しています。その結果を『これをやっているとき、笑顔だったよ。楽しんでいたみたいだよ』と教えてあげると、数値だけでは分からなかったその子の可能性が広がるかもしれないですよね」
実際に2023年の11月に東京都江東区の小学校でこのテストを実施したところ、子どもたちはもちろん、教師の皆さんからも大変好評だったそうだ。
「普段はこんなに楽しくスポーツテストはできないと、言ってもらえましたし、体育が得意じゃない子も前向きに楽しそうにやってくれました。たとえば、10mスプリントも距離が短いので、あまり個人差が出ないんです。だから他人と比べられて優劣をつけられることもない。そうした今までのスポーツテストにはない点がよかったみたいです」(伊藤さん)
JA共済ではこの他にも小学校に通いはじめた子どもたちのために「一緒につくろう! つうがくろ あんぜんMAP」をWEBで無料公開するなど、地域の満足や安心のために、さまざまな活動をしている。今回お話をうかがったスポーツテストも、健康増進のためのスポーツの入り口にひとりでも多くの人に立ってほしいから。現在はまだ定期的に行うようなイベントにはなっていないが、いずれは全国を巡回してテストを行ったり、障がいのある人も受けられるような取り組みも期待したい。全国に拠点のあるJA共済ならではの、取り組みにこれからも注目だ。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:JA共済
(参考)
学校の体力テストの結果表があれば診断できるWEB版「好きがみつかるスポーツテスト」
https://social.ja-kyosai.or.jp/sportstest/JA共済がおすすめする「一緒につくろう! つうがくろ あんぜんMAP」https://social.ja-kyosai.or.jp/anzen_map/