近年、学校教師の負担軽減などの理由から部活動の地域連携や地域クラブ活動への移行が進められ、部活動に求めるものやそのありようが昔とは変わってきている。そんな中、大阪府立水都国際中学校・高等学校の水泳部は、顧問の先生の協力のもと地域に根ざした「…

近年、学校教師の負担軽減などの理由から部活動の地域連携や地域クラブ活動への移行が進められ、部活動に求めるものやそのありようが昔とは変わってきている。そんな中、大阪府立水都国際中学校・高等学校の水泳部は、顧問の先生の協力のもと地域に根ざした「GAPS」と呼ばれる課外活動を自主的に行っているという。その活動内容と、狙いについて水泳部に取材した。

部員の結束を固めた大阪マラソン2024のボランティア
大阪マラソン2024終了後、コース上のゴミ拾いをする水泳部の皆さん

2019年に開校した大阪府立水都国際中学校・高等学校では、開校当初から「GAPS(Global Action Project in Suito)」と呼ばれる課外活動を推奨してきた。この制度は、まず課外活動を希望する生徒たちがその内容や頻度を協議、それを生徒会に申請して承認されると、正式に活動できるというもの。

同校の水泳部はこの制度を利用して、これまでに「大阪マラソン2024」の沿道整理、地元住之江警察署とコラボレーションしたランパト(ランニングパトロール)などのボランティア活動を行ってきた。水泳部は2022年11月にプール付きの新校舎ができてから創部された新設の部活だ。通常ならまずは記録を伸ばし、大会を目指すといったところに重点を置きそうなものだが、なぜボランティアに参加したのだろうか。その理由を同部のキャプテン平尾彩菜さんは次のように語ってくれた。

大阪府住ノ江警察署の署長様からランパトの委嘱状を贈られた大阪府立水都国際高等学校水泳部キャプテンの平尾彩菜さん(写真左)

「もちろん記録や大会も大事ですが、本校の理念である『社会に貢献する共創力をみがく』という活動も同時にやっていきたいと思っていました。水泳部は夏は水泳の活動が中心ですが、冬季は陸上を中心とした活動になるので、そのタイミングでいろいろな社会貢献活動ができたらいいね、ということを部員のみんなと話していたんです」(平尾さん)

2月25日に行われた大阪マラソン2024の当日、部員たちは早朝から集合し、三角コーンを並べてコースのセッティングをしたり、沿道での交通整理や道案内をしたり、終了後の三角コーンの撤収やコース上のゴミ拾いなど、さまざまな役割をこなしたという。

「大会当日は大阪市の全域で大規模な交通規制がかかりますので、間違えて立ち入り禁止区域に入ってきそうな人を誘導したり、丁寧に道案内をしたりすると、『ありがとう』と言ってもらえたのが嬉しかったですし、やりがいに繋がりました」(平尾さん)

この日はあいにくの雨で気温も低く、過酷な環境ではあったが、喜びややりがいの他に、部にとってのメリットもあったという。

「基本的に水泳は個人種目、個人活動が多いのですが、大会ボランティアをしたことで、みんなでやりがいを共有し、結果として部の結束につながったと思います。それまでは、あまり親しく話したことのない後輩からも、ボランティア以降は、『先輩、先輩』と気軽に話し掛けられるようになり、いろんな話をするようになりました」(平尾さん)

GAPSは学校では学べないこと学ぶチャンス
オンラインで取材を受けてくれた大阪府立水都国際高等学校水泳部顧問の辻亮太先生

「GAPS」は学校側が強制するものではなく、やるやらないを最終的に判断するのは生徒たちだ。しかし、同校の生徒たちはこれまでに、こうした課外活動を主体的に考え、積極的に取り組んできた。なぜ、そんなことが可能なのか。水泳部の顧問を務める辻亮太先生に聞いてみた。

「うちの学校の生徒たちは、言われたことをただやるだけでなく、自分で考えて行動し、しかもやった分だけ自分たちの力に変える力を持っている子が多いと思います。そうした中で、どういうふうに水泳部を育てていこうかと迷ったこともありましたが、やはり生徒の個性をこちらの意図する色に染めてしまわないよう、生徒が何をどう考えて、どうしていきたいのかをしっかり聞くということを意識しています。できているかはわかりませんが(笑)」

生徒たちは主体的に考えたことであれば、黙っていても自ら考え、協力して形にすることができる。そしてその経験がさらに生徒たちの力を伸ばすのではないかと辻先生は言う。

「個性や主体性を伸ばす方法というのはいろいろありますが、GAPSは学校で座って勉強して得られること以外のものを学ぶチャンスだと思うので、私としては、生徒たちにたくさんのものに触れてもらい、彼らがたくさんの選択肢を見つけ出して、その上で自分に合ったものを選んで突き進んでいけるようにしたいと思っています。そのためには、大阪マラソンもそうですが、いろいろな出会いと繋げてあげたいと思っています」(辻先生)

地元警察の署員とランパトで地域交流も
住之江警察署の署員とランパトをする水泳部の皆さん

その出会いのひとつが、住之江警察署と合同で行っているランパト(ランニングパトロール)だ。もともとは警察署員が教員向けに行った講習会の窓口を辻先生が務めたことがきっかけだったそうだ。

「水泳部ができて1ヶ月くらいのタイミングでしたが、署員の方がランパトというのをやっていて、もしここの学校でやりたい人がいればどうでしょう? という話をいただきました。そこで水泳部のメンバーに話してみたところ、二つ返事でやりたいと言ってくれてスタートしました」(辻先生)

第1回は2024年2月。放課後に警察署署員と水泳部のメンバーが専用のTシャツを着て、2kmほどの距離をランニングしながらパトロールした。

大阪府住ノ江警察署とのランパトチーム「SP Runners」の結団式。最前列左が辻先生、中央が平尾さん

「普段の生活の中では警察の方と関わる機会はほとんどありませんが、いつも街を守ってくれている警察官へ憧れの気持ちを持っていたので、と思っていたので、そういう方たちと一緒にパトロールをして、自分も街の安全を守るための一員になれるとしたら、かっこいいなといった気持ちがありました。また、普段は地域の方々と触れあう機会がないのですが、ランパト用のTシャツを着て警察官の方と走っているときに、思い切って挨拶をしてみたら住民の方々から『こんにちは』『頑張ってね』と挨拶を返していただけました。そうした地域との繋がりを得られるというのも、やりがいになっています」(平尾さん)

ランパトは1回で終わりではなく継続的に行っていて、今後も続けていきたいとのこと。水泳部のメンバーは学校の中だけでは決して経験することのできない社会との繋がりや警察官の方々と触れあうといった貴重な経験をしている。実はこうした体験がスポーツをする部員たちにとって、とても重要だと辻先生は言う。

課外授業でスポーツの「見る」「支える」を体験
駅前で防犯チラシを配布するなど地域のためになるボランティア活動も行っている

「スポーツには、する、見る、支えるの3つの関わり方があると言われていますが、どうしても高校生は『するスポーツ』に偏りがちなんですよね。しかし今回、大阪マラソンでボランティアをしたことで、あれだけ大きな大会をどうやって運営するか、つまり支えるという観点を持つことができました。自分たちが参加する大会も、こういう人たちに支えられているんだということの学びにもなったかと思います。また、大会では最初に車いすランナーが走ったんですが、それを沿道整理をしながら間近に見ることができて、こんなに速く走るんだと、すごく感動している姿が印象的でした。こういうことを素直に感じることができる感性を大切にしたいですし、彼らのいろんな可能性、いろんな価値を見いだせたらいいなと思います」

実は同校はグローバル化する社会に対応する人材を育成するための国際バカロレアプログラムを受けられる、日本に241校しかない認定校の1つだ。そのため生徒たちは英会話を得意としている。大阪マラソン2024でも、多くの訪日外国人に英語で対応することができた。多様化する社会で、さまざまな経験を通して生きた学びをしている彼らを、今後、日本で行われるさまざまな国際的イベントで見かける日が来るかもしれない。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)

画像提供:大阪府立水都国際中学校・高等学校