パリオリンピックのスケートボードにおいて、日本人選手は4種目中3種目でトップ10の約半数を占め、本番でも金メダルと銀メダルをそれぞれ2つ獲得するなど、国際舞台で無類の強さを発揮している。一方、「うるさい、危険、街をこわす」といったイメージか…

パリオリンピックのスケートボードにおいて、日本人選手は4種目中3種目でトップ10の約半数を占め、本番でも金メダルと銀メダルをそれぞれ2つ獲得するなど、国際舞台で無類の強さを発揮している。一方、「うるさい、危険、街をこわす」といったイメージから、日本ではスケートボードの街中での滑走は排除の対象となっている。

しかし海外ではスケートボーダーと行政が手を組み、ストリートスケートに関する都市的な取り組みを次々と成功させていることはご存知だろうか。この記事ではフランスのボルドーにて都市開発運動を行うプロスケーター、レオ・ヴァルスさんが提唱する概念「SKATURBANISM(スケート+アーバニズムの造語)」について前後編で紹介。前編では、フランス・ボルドーの事例を通してスケートボードが貢献する未来の街づくりについて考察する。

スケートボードによる新たな街づくりとは
「SKATURBANISM」を主宰するプロスケーターのレオ・ヴァルスさん。世界各地でその重要性を説いている

同じプロとして活動しているにも関わらず、オリンピックメダリストのようなスポーツヒーローもいれば、街中で肩身の狭い思いをしながら活動するストリートスケーターもいる。日本社会において、スケートボードほど異なる2面性を持つアクティビティも珍しい。

ここで紹介するレオ・ヴァルスさんは、生粋のストリートスケーターでありながら、都市計画家としても活躍する稀有な人物。彼が生み出した概念は「SKATURBANISM(スケーターバニズム)」と呼ばれ、フェンスで囲われたスケートパークを増やすのではなく、スケートボードと街の共存を目指すものなのだが、この概念が今世界へと広がりを見せ始めている。

街とスケートボードの関係性。なぜストリートで滑走するのか?
講演の中でレオさんが紹介した1枚。ルーブル美術館を背景にシンメトリーになるような構図で撮影することでアートの要素を盛り込んだ

ストリートから発展したカルチャーのスケートボードは元来クリエイティブなものであり、何十年も前から様々なメディアを通じてビデオや写真で文化的な貢献をしていることから、「SKATURBANISM」の根本には、「街は素晴らしい創造の場」という考えがある。

レオさんももともと街中でのスケートボードを映像や写真に収め、それらを公開することでスポンサー貢献をし、スケートボードと都市建築をつなぐアート活動として、長年グローバルに滑走してきた人物。そんな彼が重要だと唱えるのが街とスケートパークの補完性だ。

スケートパークとは、ストリートで見つけられるオブジェがある公園のような施設。練習に重要な場所ではあるが、スケーターの多くはそこからストリート、街で滑りたいと考えるようになる。これが現実であり、その想いが彼らのクリエイティビティを刺激し、独自性が生まれ、素晴らしい映像や写真が創られていく。彼のホームであるフランス・ボルドーにも豊かな建築遺産があり、歴史的な建造物とモダンな建築が並存している街中では、数々のスケートボードによる素晴らしい写真が生まれるという。

フランス・ボルドーでは街中のスケボーが合法に
6月に東京大学構内でフランス大使館の支援を受け開催された街づくりシンポジウム、MVV(Mieux Vivre en Ville)に登壇したレオ・ヴァルスさん(写真右)

そんなフランスも2017年まではスケートボードを弾圧する立場だった。しかしそこから公益財団を作り、近隣住民と一般スケーター、プロスケーター、議員、ボルドー市、それぞれの利害調整、妥協点を見つけるためのメディエーション(当事者がお互いの事情や意見を聞き、話し合うことで共通意見を見つけ出すこと)を始めたことで事態は徐々に好転していったのだ。

騒音苦情は素直に認め、誠実な態度で対話を繰り返し、社会実験を通して公共空間をどう使うのか話し合いながら歩み寄った結果、合法化されるまでに進展した。

スケートボーダーに好まれるこのような花崗岩のベンチは、移動も容易なので地域の騒音問題テストには最適

騒音問題においては時間枠を設けて日中の滑走のみに限定したり、腰掛けることもできてスケートボードの練習も可能な花崗岩のベンチを試験的に設置し、苦情がきたら別の場所を試すというテストを行った。ベンチなら移動も容易いという理由からだ。

また危険だという声に対しては警察署に赴き、実際に起きている事故の数を調べた。歩行者との間には問題はあったものの、事故としてはゼロで、自転車や車の事故の方が圧倒的に多かったという。

他にも、美術館でスケートボードの文化的な側面を表現したアートショーを催し、多くの一般人を招いて会話をしながらポジティブなコミュニケーションを図っていったことで物事は進展、徐々にスケートボードが街に溶け込んでいった。

整備計画においても設計段階からスケートボードを考慮したものにし、都市での実践を保証する形に変えていったのだが、それはベンチや花壇の脇をスチールアングルで補強するというとても簡単なこと。新たにスケートパークを建設するより遥かに安価だ。また、以前はドラッグディーラーがたむろするような治安の悪い場所も、スケートボーダーが集まるようになったことで改善されていったという。

対話する市民とスケーター。大切なのは「街の人との共有」

ベンチに座ってガロンヌ川を見ながら、スケートボードも見ている。そんな街の人々の様子の写真には、街をスケーターが占拠するのではなく、街の人と共有することが大事なのだというメッセージが詰まっている。

このような街との共生を実現させるために、レオさんらはまず2019年にマスタープランを制作した。これはストリートにおける滑走ルートを示したもので、ボルドーでは川の両岸に設定し、各地点にスケートボードを熟知したアーティストとともに制作したオブジェクトを設置した。

そして様々な社会実験等を経て、昨年完成した彼らの活動の集大成ともいえるものがスケートガイド。スケートボードができる場所だけでなく、滑走時間が限定されている場所なのか、通行人に注意が必要な場所かなどといった細かな情報を色分けしてマッピングしている。こういった配慮が市民とのトラブル回避につながるのだ。

ボルドーのスケートボードガイド。スポットの特徴に合わせて赤や青、緑などで色分けされている

このような徹底した取り組みを実施した結果、街の人々とスケーターには互いに対する敬意が育まれ、ボルドーの公共空間にあったスケートボード禁止サインは全て取り払われた。「SKATURBANISM」はモビリティ社会の一体性、経済波及効果を考えても非常にスマートな都市の発展だったという結論で彼が来日時に行った講演は締め括られた。

排除の対象となっていた「街中での滑走」を見事に街づくりの一環として昇華させたフランス・ボルドーの事例。一方的な見方ではなく、多角的な視点で捉えることでスポーツを再定義し、街と上手く融合させた取り組みは、スケートボードに限らず、あらゆるスポーツの可能性を生かすヒントになるのではないだろうか。次回は日本におけるスケートボードの現状や課題、解決策とともに、どんな事例があるのかを紹介していく。

text & photo by Yoshio Yoshida(Parasapo Lab)