「ゴルフを始めてみたいけど、用具にお金がかかるしなぁ」「サッカーやフットサルに興味はあるけど、未経験だし、動き回るからすぐにバテそう」。そんな人にぜひオススメしたいスポーツがフットゴルフだ。現在、このゴルフ場でサッカーをするスポーツが世界最…

「ゴルフを始めてみたいけど、用具にお金がかかるしなぁ」「サッカーやフットサルに興味はあるけど、未経験だし、動き回るからすぐにバテそう」。そんな人にぜひオススメしたいスポーツがフットゴルフだ。現在、このゴルフ場でサッカーをするスポーツが世界最速で世界中に広まっているという。

「ゴルフ場でサッカー? どういうこと?」と思う人がほとんどだろう。そこでこの新興スポーツの魅力を探るべく、日本フットゴルフ協会を訪ねてみた。

誰とでもすぐに仲良くなれるスポーツ
日本フットゴルフ協会の松浦新平さん

「フットゴルフは読んで字のごとく、サッカーとゴルフが融合したスポーツです。具体的にはサッカーボールを使って、クラブの代わりに足で蹴ってゴルフをラウンドするイメージを持っていただけばわかりやすいと思います。サッカーのカジュアルさとゴルフの社交性を持ち合わせたすごくハイブリッドなスポーツで、すぐに人と仲良くなれる、というのも魅力の一つです」

こう話すのは日本フットゴルフ協会の会長を務める松浦新平さん。日本協会が2014年に発足して以降、国内でも急速に広まりを見せているが、そもそものルーツは2009年のオランダに遡る。リーマンショックによってゴルフ場経営が大打撃を受けている中、ゴルファー以外を呼び込む新たな事業として統一ルールを作ってスタートさせた。

世界を見渡すと、今やその数はアメリカ国内で1000コース以上、ロンドン市内だけでもおよそ250ヵ所。そこでイギリス政府が「史上最速で発展しているスポーツがフットゴルフ」と発表したことで、その文言が世界に広まっていった。

協会としてもスキー場でスノーボードが広まっていった現象に近いものが起き始めてきたと実感しているそうだ。

芝を傷めないスニーカーがあればOK
芝を傷めないスニーカーの着用が最低限のルールというのも気軽に始められるポイント

急速に広まっているフットゴルフだが、その理由として大きいのがルールの「わかりやすさ」と、すぐにプレイできる「気軽さ」にあるといえる。

ゴルフの場合、クラブの振り方も難しくボールも小さいため最初は当てることすら難しいが、足で直接蹴ることができる大きなサッカーボールを空振りする人は少ないだろう。フットサルのようなコンタクトプレーもない。料金もゴルフの半額設定のところが多く、レディースティー、ジュニアティー、シニアティーがあるので、老若男女どの層がいても楽しめる工夫もされている。実際に親子連れやカップル、仕事仲間で楽しんでいる光景はよく見かけるそうで、親子連れの場合は親と子がペアになり、飛距離が必要なところは大人、パットは子どもと役割分担してプレーしているそうだ。

服装に関してもゴルフ場である以上、ドレスコードとして襟付きのシャツを着ることを推奨してはいるが、レジャーとして楽しむだけなら最低限芝を傷めないスニーカーさえ履いていれば問題ない。ボールもレンタルがあるので安心だ。

競技として公式にプレーする場合は、襟付きのシャツにゴルフ用のハーフパンツ、ハイソックスにトレーニングシューズ(スパイクではないイボのついたシューズ)を着用する必要があるが、まずはレジャーとして気軽に楽しむところからスタートしてみたらいかがだろうか。

フットゴルフコースでボールもレンタルできるので初心者も始めやすい
プレーの距離感はゴルフの半分
フットゴルフはゴルフよりもコンパクトなコース設計となっている

「フットゴルフの場合、距離感はゴルフの約半分になります。ゴルフでボールが飛ぶ距離と、フットゴルフで蹴って飛ぶ距離は当然違うので調整されています。具体的にはパー5で220ヤードくらい。ちなみにフットゴルフのカップの直径は約53cmなのですが、これはサッカーボールが2つ収まるぐらいの大きさです」(松浦さん)

ここで面白いのがカップを切る位置。フットゴルフでは基本的にグリーンは使わない。競技ではフェアウェイ、レジャー利用ではラフに切ることもあるそう。もちろんラフの場合はグリーンのように見立てるために芝を刈るのだが、見立てるだけなのでサッカーボールほどの大きさがあっても、ゴルフのパターのような感覚でカップに入れるのは難しいとのこと。しかもゴルフ場によってアンジュレーション(起伏)が違うので、競技者としてどっぷりと浸かってしまう人が多いのは、そこの奥深さに魅了されるからなのだという。

グリーンではなくフェアウェイにカップが切られているのも面白さの一つ
競技としての成長も目覚ましいフットゴルフ
アジアの中でも頭ひとつ抜けた実力を持っている日本チーム

「2012年に初めてハンガリーでワールドカップが開催され、日本は2016年のアルゼンチン大会から参加しています。2018年にモロッコ、2023年にフロリダで開催されたのですが、この時は女子団体戦で日本代表女子チームが優勝し世界一に輝きました。約40カ国、1000人程選手が集まるのですが、日本のレベルはかなり高いです。アジアカップもありますが、そこでは間違いなくNo.1ですね」(松浦さん)

競技としても急激に成長しているフットゴルフ。基本的に男女比は男性8、女性2くらいで、年齢層は30代から40代前半ぐらいの方々が多く、サッカー経験者が7~8割くらいとのこと。日本だけでなく、世界的にみても元プロサッカー選手の姿を見ることもあるそうで、アルゼンチンのファビアン・アジャラさん、イングランドのアラン・スミスさんは現在フットゴルフのトッププレイヤーとして活躍している。

ただ必ずしもサッカーが上手いから有利、という訳ではないのも面白さのひとつで、元甲子園球児など、違うスポーツをやっていてフットゴルフの日本代表になった選手もいるそう。現役のJリーガーがオフシーズンに楽しんでいたり、あの石川遼選手も好きだというフットゴルフは、ビジネス面から見てもまだまだ発展途上だからこそ大きな可能性があるともいえそうだ。

プレイヤーが語るフットゴルフの魅力

ではプレイヤーからはどんな声があるのだろうか。フットゴルフチーム、友遊倶楽部の大谷恒輔さん、鹿島Ascendiaの小村紗貴子さん、東京ヴェルディフットゴルフの古田旬之介さんの言葉からは、多岐にわたる魅力が伝わってきた。

「小学校で一緒のサッカークラブだった平野靖之選手が日本代表になったのを見て、面白そうだなと始めました。ただ実際はすごく難しくて、最初+20くらいたたいてしまい、心が折れかけました(笑)。それでもだんだんこの競技の奥深さに夢中になり、ジャパンツアーにも出場するようになりました。個人競技ですがみんなで教え合ったり、高め合ったり切磋琢磨できますし、ボールを蹴るだけなら誰でもできると思うので、本当に老若男女が楽しめるスポーツだと思います。やってみなければ味わえない爽快感や気持ち良さがあるので、ぜひやってみてほしいですね」(大谷恒輔さん フットゴルフ歴 8年)

「もともと少年サッカーをやっていたんですけど、フットゴルフというものがあると母から聞いて、試しに父とやってみたら、いいスコアが出せたのもあって夢中になりました。フットゴルフは芝目を読むのが難しいですけど、ココはどうやって蹴ろうかなとか、一打一打自分で考えられるとても魅力的なスポーツだと思います。それと一緒に回る人はライバルなんですけど、話しながら楽しく回れるので、良い人間関係を作れるところも最高です!」(古田旬之介さん フットゴルフ歴 3年)

「仕事がきっかけで、同じクラブの青木剛選手を紹介していただいて出会いました。もともとフットサルをやっていたんですけど、チーム競技とは違う楽しさがありますね。すごく難しかったんですが、カップに入った時の爽快感がたまらなくて。たとえゴロでもボールを運べれば良いので、強く蹴れない人でも、男女一緒になって楽しめるところは魅力ですね。あとゴルフってかわいい服が多いと思うので、ファッションを楽しみに来るのでもいいと思います。道具もそんなにいらないですし。ただこれからの季節は日焼け止めや虫除けも持参した方がいいですね。とにかくサッカーもゴルフもやったことない方、スポーツが苦手な方でも気軽に楽しめるスポーツだと思います」(小村紗貴子さん フットゴルフ歴1年3ヶ月)

プレイの合間のコミュニケーションタイムも魅力のひとつ
ゴルフ場のSDGsにも貢献
鳳凰ゴルフ倶楽部の佐々木勇人さん

フットゴルフはSDGsの観点からみても非常に面白い。群馬県にある鳳凰ゴルフ倶楽部の佐々木勇人さんは導入経緯を次のように話す。

「造成工事の関係で1コースをクローズせざるをえず、ゴルフで9ホールとして使えなくなってしまったことから、何か生かす方法はないかと模索していた時にフットゴルフに出会いました。フットゴルフを始めたことことで他方面からの口コミ・SNS・メディア露出があり認知度も向上、ゴルフのお客さんの増加にも繋がっています。またゴルフコースの手前にカップを切り、気軽に体験できるようにしているのですが、そのおかげでゴルフで来場した方がご家族連れでいらっしゃるようになったり、地元の団体さんがイベントで活用されたりするようになりました。フットゴルフ専用コースだと朝からずっと利用できるので、今後は平日にもっとお客さんが来てくれるような企画も考えていきたいです」

ゴルフコースの手前にカップを切ったことでクラブを持ったゴルファーも自然と興味を示すようになり、相乗効果にもなっているそう

現在はゴルフの最終組が出た後、日没までの空き時間を有効活用するために導入されることが多いフットゴルフ。鳳凰ゴルフ倶楽部のような専用コースはまだまだ少ないものの、将来性は大いにあると見て良いだろう。レジャーとして楽しんでいる方は2万人ほどといわれているが、その数はこれからも伸びていくと予想されている。ゴルフ場の新たな収益源としての期待も徐々に高まっている。

フットゴルフの今後
自然を感じられる広々としたコースでリラックスしながらフットゴルフを楽しむプレイヤーたち

現在日本でフットゴルフができるコースは30ヵ所強あるといわれている。つい10年前までは1つもなかったことを考えると、大きな進歩だ。

「私は20数年前のフットサルが全く認知をされてない時にフットサル場の経営をやっていた経験があるのですが、フットゴルフはその推移とすごく似ている。なので、どこかでブレイクスルーするタイミングが必ず訪れるはずだ、と感じています。我々はこの素晴らしい自然環境から、フットゴルフを通して新たな概念、地域のコミュニティの創生をしたいと強く思っていて、グリーンストーリーという概念を持って活動しています。10年後には500コースくらいに増やして、オリンピック種目化も目指して活動していきたいですね。そのためにも持続的なコンテスト開催はもちろん、色々な方に教えたり多方面の問い合わせにも真摯に答えていきたいと思っています」(松浦さん)

元々ゴルフ場の新たな活用方法の模索から生まれたフットゴルフだが、今やその人気は飛ぶ鳥を落とす勢いで広まっている。フットゴルフのようにきっと今後も世界中で様々な観点、社会課題から新しいスポーツが発明されるはずだ。便利すぎる世の中で運動不足が加速する現代。老若男女、運動の得手不得手、障がいのあるなしに関わらず、多様な人々が楽しめるスポーツが増えていくことに期待したい。

text & photo by Yoshio Yoshida