笑顔がトレードマークの當銘直美。飛躍のシーズンとなった photo by Gunki Hiroshi【2024年に覚醒】 2024年に入り一気に頭角を表したのが、當銘直美(愛知・114期)だ。GⅠ開催となる4月の第2回オールガールズクラシッ…


笑顔がトレードマークの當銘直美。飛躍のシーズンとなった

 photo by Gunki Hiroshi

【2024年に覚醒】

 2024年に入り一気に頭角を表したのが、當銘直美(愛知・114期)だ。GⅠ開催となる4月の第2回オールガールズクラシック、6月のパールカップに出場し、11月の競輪祭女子王座戦への出走も決まっている。とくにパールカップでは初日・2日目で1着を獲得。強豪ぞろいの西日本の女王に輝いている。

「まさか西の女王になれるとは思っていませんでしたし、夢なのかなと思ったくらいでした。山原さくらさん(山口・104期)から『今の西日本のレベルで1着を獲れたのは本当にすごいと思う』と言われました。トップで活躍してきている先輩にそう言ってもらえてすごくうれしかったです」

 決勝では5着となり、初タイトルとはならなかったが、直後の2開催でともに3日連続1着の完全優勝を果たすなど、好調を維持し続けた。7月のガールズケイリンフェスティバル2024でも決勝を走って3着となるなど、目を見張る活躍を見せている。

 デビューして7年目の今年は、勝率が52.1%(10月17日現在)。昨年の勝率が14.5%、2022年以前の勝率が14.2%という数字を考えると、急激なジャンプアップと言える。「練習内容は今までと変わっていない」という彼女にどんな変化があったのだろうか。その覚醒の背景には、長年にわたる地道な積み重ねと精神面での成長、そして周囲のサポートがあった。

【未熟さ故の停学】

 當銘がガールズケイリンの虜になったのは、中学3年生のことだった。

「夕方のテレビ番組でたまたまガールズケイリン1期生の訓練風景を見て、スピード感やたくましい体つき、生徒たちの真剣な眼差しが、すごくかっこいいと思いました。まだ競技用の自転車を持っていませんでしたが、周りの友だちに競輪選手になると伝えていて、卒業アルバムにはみんなから『競輪、がんばって』というメッセージをもらっていました」

 高校から意気揚々と自転車競技部に所属するも、街道練習がメインで、練習メニューも部員たちが中心になって考えていたこともあり、思うようにタイムを伸ばすことができなかった。その結果、3年時に受けた日本競輪学校(現日本競輪選手養成所)への入学試験は不合格だった。

「明らかに準備不足でした。全国大会でよく顔を合わせていた同学年の選手たちが試験に受かっていて、うらやましかったし、悔しかったです」

 高校卒業後は、選手の発掘・育成を目指す『T-GUP(豊橋競輪ガールズケイリン育成プロジェクト)』に参加。ここで「バンクでの自転車の乗り方や走り方をイチから教えてもらった」という。毎日1時間半かけて豊橋競輪場まで通い、朝から晩まで練習に励んだ。そんな生活を約半年間続けた結果、見事112期生として合格することができた。

 中学の時から夢を持ち続け、一浪しての念願の入学。志もさぞ高かっただろうと想像するが、入学から数カ月経った秋頃、競輪学校での禁止事項に抵触し停学処分を受けてしまう。軽率な行為だった。

「すごく落ち込みました。プロになる自覚が足りていませんでした。停学ですので復学のチャンスは残されていましたが、もう学校側は受け入れてくれないと思いましたし、家族や周囲から『辞めなさい』と言われる覚悟で家に帰りました」

 スポーツであれば、ルールを守って戦うのは当然のこと。ましてや開催中に外部との連絡に厳格な競輪はなおさらだ。自らの過ちによって夢の道を閉ざしてしまった當銘。後悔の念が繰り返し襲ってきた。

 そんな時、近所に住む競輪選手の新田康仁(静岡・74期)が家を訪ねて来てくれ、復学に向けて励ましの言葉をくれた。周囲も再チャレンジを当然のことのように捉えていた。そんな温かい言葉や態度から、「もう一回頑張ってみよう」という気持ちが芽生えてきた。

【涙ながらの復学】

 當銘は心を入れ替えた。再び豊橋競輪場に通い、練習漬けの日々を送った。競輪学校から課された課題をきっちりとこなし、2週間に1回提出する日記も毎日じっくりと考えて書いた。さらに周囲に迷惑ばかりかけてはいけないと、アルバイトもこなした。その時に大切なことに気づかされた。

「自分が稼いだお金を、当時の私みたいなだらしない選手には賭けられないと思いました。一生懸命働いて得た大事なお金を賭けてくださる。だからしっかりとした覚悟を持って競輪選手をやらなければいけないなと痛感しました」

 そして翌年4月。復学の試験に見事合格した。停学期間にお世話になった新田をはじめ、練習仲間、周囲の方々に電話で報告した時には、涙があふれて声にならなかった。

 取材中も「いろんな人に電話をした時に、みんなが優しくて......」と声を詰まらせ、涙を流した。

 晴れて114期生として入学した當銘は、「停学中の半年間で学んだことを改めて確認しながら生活ができた」と自分を律して学ぶことができた。とくに競技規則については「走っている最中でもすぐにパッと頭に出てくるくらいしっかり勉強した」という。競輪学校の順位は14位と上位には入れなかったが、学業優秀賞を手にすることができた。

プロとしての自覚を持って戦い続ける當銘

 photo by Gunki Hiroshi

【覚醒を促した2レース】

 2018年7月のプロデビューから少しずつではあるが前進してきた當銘。デビュー戦こそ6着、6着、7着と惨敗だったが、その2カ月後には初勝利を飾り、翌2019年には初優勝を飾った。その後は優勝回数こそ多くはなかったものの地道に勝利を積み重ね、今年7月には通算100勝をマークした。

 そんな當銘が覚醒のきっかけを掴んだレースがふたつある。ひとつが2023年の年末に開催された小倉競輪場での決勝。実力トップレベルの小林優香(福岡・106期)、日野未来(奈良・114期)らと走った大晦日のレースだった。

「優香さんと未来さんがいたレースで優勝できました。最後に未来さんを抜いた時に、自分は気持ちで相当損をしていたことに気がつきました。強い選手、本命選手の都合のいいレースをしてしまっていた、相手にビビッて小さいレースをしてしまっていたと。相手がどう出るかではなく、まずは自分の力を信じること、練習してきたことをしっかりと出しきるのが大事だと考えるようになりました」

 年明けのレースから見違えるようなレースを披露し、1着の数字が並んだ。そうして迎えた4月のオールガールズクラシック。これがきっかけを掴んだふたつ目のレースだ。

「(2日目のレースで)微差で決勝戦を逃してしまいました。戦えていなかったわけではないのに、気持ちが足りなかったから、微差になってしまったと感じました。『絶対に決勝に行くんだ』という強い気持ちを持っていたら、道中の踏み具合も絶対に変わっていたと思います。ただ同時に力はついてきたのかなと感じました。悔しさ半分、手応え半分というレースでした」

 そこからさらに練習に対するモチベーションが上がり、前述のとおり、6月のパールカップでは、「絶対に決勝に行くんだ」という強い気持ちで臨んだ結果、西の女王に輝いた。

メンタル面でも充実感を漂わせる

 photo by Gunki Hiroshi

【躍進を支える恵まれた環境】

 當銘には2歳下の妹がいる。名前は當銘沙恵美(愛知・118期)。彼女もガールズケイリンで活躍している選手だ。「どんな存在なのか?」と問うと、即座に「負けたくないです」と答えるほど、ライバル心を燃やす存在だ。

「妹とは特別競輪にならない限り、普段のレースでは一緒に走ることがないから、唯一ガールズのなかで自分の悩みを素で言える相手で、お互いに刺激になっていると思います。妹が選手になってから声援の内容も変わって、これまで『當銘ちゃん、頑張れ』だったのが、『沙恵美は何着だったぞ』という声があがったりします。発走機でそれが聞こえた時には、絶対に負けたくないので、その成績を上回るぞと。妹からしたら嫌なお姉ちゃんかもしれないけど(笑)」

 現在、姉の直美は名古屋競輪場で、妹の沙恵美は豊橋競輪場をホームバンクにしているが、姉妹として近い関係であり、「ふたりでGⅠに出ること」をひとつの目標にしている。

 この妹の存在だけでなく、これまでの當銘の成長・活躍に欠かせないのが、周囲のサポートだ。停学になった時の周りからの温かい声掛けもそうだが、現在の練習環境についても言える。

「練習仲間にすごく恵まれていると思います。街道練習にせよ、バンク練習にせよ、私の競走の都合に合わせて練習メニューを変えてくださったり、セッティングも見てくださったり。私は練習に打ち込むだけという環境を作ってもらっています」

 これだけ恵まれた環境に身を置いていることもあり、レースと練習を軸にした生活を変えるつもりはない。「自転車が好き」ということもあるが、オフの日でも2000m級の山を登るヒルクライムに挑戦したりと、結果的にトレーニングをしていることもある。まとまった休みを取ってゆったり旅行をしたこともないという。それは明確な目標があるからにほかならない。

「もっと優勝回数を増やして、特別競輪も獲りたいと思っています」

さらなる高みを目指す

 photo by Gunki Hiroshi

 今年から頭角を表したとは言え、まだビッグレースでのタイトルはない。7月のガールズケイリンフェスティバル2024決勝でも最後のところで抜ききれずに3着に。「すぐ前にいた尾方真生ちゃん(福岡・118期)がタイトルを獲ったのが、すごく悔しかった。タイトルがすぐそこにあったのに」と唇をかんだ。

 未熟さ故に一度は諦めかけたプロへの夢を何とか掴みとり、周りのサポートと恵まれた環境、そして地道な鍛錬により、ようやく覚醒した當銘。悲願のタイトル奪取まであと少しのところまで来た。それを果たした瞬間、彼女はどんな表情をし、どれだけの人が歓喜するのだろうか。期待しながら、その瞬間を待ちたい。

【Profile】
當銘直美(とめ・なおみ)
1996年6月19日生まれ、静岡県出身。中学まで卓球に励み、高校から自転車競技を始める。高校卒業後、T-GUP(豊橋競輪ガールズケイリン育成プロジェクト)で練習を行ない、競輪学校へ入学。114期生として卒業し、2018年にプロデビューを果たす。同年9月に初勝利を飾り、2024年7月に通算100勝を挙げた。同年6月のGⅠ開催「パールカップ」で西の女王に輝き、初めて決勝を走った。