デンソーエアリービーズ麻野七奈未インタビュー 後編(前編:高校時代の不遇とそこで得たもの「頭も体も成長できた」>>) 2023-24シーズンは「V.LEAGUE DIVISION1 WOMEN V Cup」で初優勝、続く第72回「黒鷲旗 全…

デンソーエアリービーズ

麻野七奈未インタビュー 後編

(前編:高校時代の不遇とそこで得たもの「頭も体も成長できた」>>)

 2023-24シーズンは「V.LEAGUE DIVISION1 WOMEN V Cup」で初優勝、続く第72回「黒鷲旗 全日本男女選抜大会」で準優勝の成績を残したデンソーエアリービーズ。新リーグの「SV.LEAGUE」ではさらなる飛躍を目指す。

 そのミドルブロッカーとしてプレーするのが麻野七奈未だ。弟は日本代表にも登録されて将来を有望視される麻野堅斗(早稲田大学2年)。麻野自身、弟の活躍に刺激を受けているなか、胸に抱く自身の誓いとは?



デンソーのミドルブロッカー・麻野七奈未 photo by Sakaguchi Kosuke

【チームの活動拠点・福島での新生活】

――内定選手時代を除けば、デンソーでの丸々3シーズンが過ぎました。迎える新シーズン、チームは活動拠点を福島県郡山市に移すことが決まっています。グルメでお馴染みの麻野選手のおすすめは何でしょう?

「甘酒です!! めちゃくちゃ美味しいんですよ。チームのスポンサー様からいただいて一度飲んだら、美味しくて。普段はそれほどお酒を飲むタイプではないのですが、甘酒は自分でも買うくらいになりました」

――これまで過ごした、愛知県西尾市でのオフの過ごし方は?

「特に車を持ってからは、ドライブでいろんなところに行きました。それにオフの日は自炊することも。鳥の胸肉を使って、いろんな味つけでアレンジするのには自信があります。あとはアサイーをアレンジすることにはまっています」

――ご出身の滋賀県から遠くなりますが...

「そこは寂しいですね......」

【一度はバレーをやめるも高校は名門へ】

――滋賀県でバレーボールを始めたのは、小学6年生の頃だそうですね。

「先に弟の堅斗が小学2年生の頃にバレーボールを始めたんです。私は小学4年生からで、同じチームに入りました。ですが、練習で怒られたりするのが本当に嫌で、一度はやめたんです。それでも、同い年の子たちがたくさんいて、『やろうよ』とずっと言ってくれていたので、小学6年生の時に『1年だけ』と決心して戻りました。なので、本格的に始めたのは実質、小学6年生からですね」

――それでも、高穂中学でバレーボールを続けたのはどうして?

「もうバレーボールはしない、って決めていたんですけどね。でも、その中学にずっと兄がお世話になっていた先生がいて、自動的にバレーボール部に入る流れになっていました。とはいえ、周りは初心者ばかりで、私も経験者とはいえ、プレーのレベルが高いわけではない。県大会に出るようなチームではなくて、私自身もそれほど熱が入るわけでもないまま、過ごしていました」

――そこから大阪の名門、金蘭会高校に進学します。

「なぜかわからないけれど、『(東京の下北沢)成徳高校に行きたい』なんて考えていたんですよ。その思いはいつの間にか消えていましたが、県選抜の合宿に(金蘭会高校の)池条義則先生がいらしていて、学校にも連絡があって、何度か練習に足を運ばせてもらって、金蘭会高校に進むことを決めました。

 当時の先輩方には、アンダーエイジカテゴリー日本代表に選ばれた選手がたくさんいて、ただただ『すごい』というか、有名人を見るような感覚でしたね」

【久しぶりに生で見た弟のプレーの変化】

――高校でいえば、弟の堅斗選手は京都の東山高校に進みました。姉弟そろって名門校でプレーすることになったわけですね。小さい頃はどんな姉弟でしたか?

「もう小さいころは仲が悪くて、ケンカばかりしていました(笑)」


早稲田大で活躍する弟・堅斗

 photo by 日刊スポーツ/アフロ

――どんなケンカを?

「たいだいは私からふっかけるんです。たとえば、何かを頼んでも、それをやってくれていなかったら、『なんでしないの!?』って怒って。ベランダに追い出したこともありました(笑)」

――お互いに年齢を重ねた今はいかがでしょうか?

「距離が離れた分、よく話すようになったと思います。今年の正月に家族で集まったときは、甥っ子や姪っ子と一緒に遊ぶなかで会話したり、という感じでした」

――普段から、そんなに会話することもない?

「堅斗からの連絡は、ほとんどありません。2022年にそろって日本代表に登録されたときも、堅斗からは何も連絡がなかったんですよ!? 私の誕生日くらいですね。『おめでとう』ってLINEがあるのは。私からも昨年の全日本インカレで優勝したときには『おめでとう』と伝えました」

――その全日本インカレでは観戦もされていましたね。決勝では、「ブロック、止めろぉ!!」という弟へのエールが話題になりました。

「いや、あれは......実は私ではなくて。一緒に観戦していた秋重若菜(早稲田大学4年)の声なんです。大声で応援していたら、その声がたまたま場内で響いたという」

――そうだったんですね(笑)。生でご覧になられた堅斗選手の姿はいかがでしたか?

「しばらくプレー姿を見ていなかったので、ずっとひょろひょろのイメージを持っていました。ですが、体もたくましくなっていたし、サイズのわりに左右の動きが機敏で、それにサウスポーからのワンレッグ(ブロード攻撃)も披露していて、本当に魅力的な選手に映りました。

 アタックに関しても、高さがあるからボールを打ちつけたくなるはずなのに、しっかりと誰もいない場所へ長いコースに打っていました。同じミドルブロッカーとして、純粋にすごいな、と思いましたね」

【いつか石川兄妹のように】

――(筆者にとっては)中学生時代の丸坊主が印象的でしたが、今では顔つきもイケメンに。人気を集める選手に成長しました。

「えぇ!?(笑) でも、それこそ今年の正月に実家に帰ったときに、全日本インカレ優勝のご褒美にプレゼントをしてあげたんですよ。『何が欲しい?』と聞いたら、高級ブランドのベルトか、なかなか値段の張る香水をおねだりされました。結局、香水をふたつ買ってあげたんですけどね。キャラが変わりすぎて......弟がよくわからなくなりました(笑)」

――堅斗選手が社会人・プロになったあかつきには、逆に何を買ってもらいましょうか?

「何にしようかなぁ。あんまり今、欲しいものがないんですよね。でも、いずれはひとり暮らしがしたいので、その時は堅斗に家賃代の面倒を見てもらおうかな(笑)」

――今年の3月にはイタリア・セリエAに渡り、石川祐希選手の所属していたミラノ(現在はペルージャでプレー)の活動に参加していました。そうした弟の姿をどのように感じますか?

「どんどん遠い存在になっていく、と言いますか......。すごく頑張っていますし、あの姿からはバレーボールに対する思いがひしひしと伝わってきます。私も負けないくらいの思いを持っていますが、堅斗は日本代表やイタリアでの活動などたくさんのチャンスをもらっていて。その背中が目の前にあるので、私も一緒になって励んでいきたい。それこそ姉弟で日本代表やオリンピックの舞台で活躍する、石川(祐希・真佑)選手の兄妹のような存在になれたらいいなと思います」

――ご自身がSVリーグでしっかりとプレーできているからこそ、日本代表への思いも強いのでは?

「そうですね。2022年に初めてシニアの日本代表に呼んでいただき、そこでは周りのすごい選手たちにただ圧倒されていました。紅白戦には出場しましたが、自分のプレーはまるでできませんでした。

 ですが、そこで速いトス回しなどに触れたり、同じポジションの先輩方から相手選手の見方などを学ぶことができて、それが今のパフォーマンスにつながっていると感じます。もう一回、自分のチームで頑張って、シーズンを通して活躍して、また日本代表に選ばれたいです。

 それに私も堅斗もまだまだ若いので、希望を持っていいと思いますから。姉弟そろって活躍することを願っています」

【プロフィール】
麻野七奈未(あさの・ななみ)

2002年12月13日生まれ、滋賀県出身。デンソーエアリービーズ所属。183cmのミドルブロッカー。金蘭会高校から2021年にデンソーに入団。2022年には女子日本代表に初登録された。2歳年下の弟は早稲田大学で活躍する身長207㎝のサウスポーミドルブロッカー、麻野堅斗。