新人だが、危機感を抱いている。  日本最高峰のラグビートップリーグでマン・オブ・ザ・マッチを受賞した夜も、取材スペースではこの通りだった。「出られていることに満足するのではなく、いつメンバーから落とされるかわからないというプレッシャーを自…

 新人だが、危機感を抱いている。
 
 日本最高峰のラグビートップリーグでマン・オブ・ザ・マッチを受賞した夜も、取材スペースではこの通りだった。

「出られていることに満足するのではなく、いつメンバーから落とされるかわからないというプレッシャーを自分にかけ続けたいです」

 帝京大から神戸製鋼入りして1年目の重一生は、開幕からアウトサイドCTBの先発に定着。9月8日に東京・秩父宮ラグビー場でおこなわれた第4節では、NECを相手に先制点を決める。

 チームはキックオフ直後、敵陣中盤左で自軍スクラムを獲得。連続攻撃が同22メートル線付近左まで進んだところで、重が光を放った。相手防御と間合いを取ってパスを受け、防御の死角をえぐる。追いすがるタックラーの真下を潜り抜け、インゴールを割る。

 直後にFBのコディ・レイがゴールキックを決め、スコアを7-0とする。試合は29-12で制し、ルーキーの重がマン・オブ・ザ・マッチを獲得したのである。しかし、身長170センチ、体重88キロの当の本人は「自分にプレッシャーを…」と強調。自らのトライシーンについても、殊勝に振り返るだけだ。

「あそこまで運んでくれたチームのおかげです。あのゾーンに来たら絶対に取りきって終わることがチームの流れを作ると思っていた。コースが空いていたので、思い切って勝負しました。新人らしく勢い付けられるプレーをしようとしていて、それがトライにつながってよかったと思っています」

 大阪・常翔学園高時代は2年時から高校日本代表に入り、2012年度の全国高校ラグビー大会で優勝。大学選手権8連覇中の帝京大ではレギュラー定着こそならなかったが、勤勉なクラブにあって有数のカンフル剤だった。

 春先は新入社員としての研修があったため、灘浜のクラブハウスに行けるのは日が暮れてから。先輩部員たちの練習にはあまり加われない。他に4人いる同期のうち渡邉隆之、森田慎也は日本代表などに招集されたこともあり、重はよく1人で汗を流したという。

 ここで活きたのは、入社前から抱いていた「1年目から試合に出よう、試合に絡めるような位置にいよう」という思いだった。共同取材を終えてチームバスに乗り込むさなか、こう話を続けた。

「春は1人で練習することも多かったんですけど、そこで心折れてサボるんじゃなく、他と差をつけてやろうと思っていました。(チームへ本格合流後は)練習試合で数十分は使ってくれていたので、そこでアピールして…」

 加入1年目にして、レギュラー獲得への勝負のシーズン。7月に秩父宮であったジャパンセブンズで肉離れを起こした影響で、8月の北海道合宿ではアピール機会を作れなかった。開幕直前まで、爪痕を残そうと必死だった。

「夏合宿明けのトヨタ自動車との練習試合2戦(8月5、11日に両軍本拠地で開催。いずれも敗戦)が、自分にとっての最後のチャンスだと思って、首皮一枚の気持ちでプレーをしていました。ずっと、危機感はありました」

 その延長線上でつかんだのが、いまあるポジションだった。トニシオ・バイフや山中亮平ら前年度の主力組に混ざるなか、「アタックではトニさんみたいな強い選手も、器用な山中さんもいる。僕はディフェンスを見せるしかない」と自らのセールスポイントを明確化。NEC戦でも大男へ果敢に刺さった。

 加速力をラインブレイクとキックチェイスに活かす33歳のWTB、大橋由和には「春からわかっていますけど、フィジカルは相当、強い。最近の大学生はすごい」と言わしめる。トップリーグ初年度以来14季ぶりの優勝を目指す神戸製鋼にあって、礼節に隠れたがむしゃらさを芝で表現する。(文:向 風見也)