勝負どころの9月に入って2分け1敗と、白星から遠ざかったまま迎えたレノファ山口との6ポイントマッチ。敵地・セービング陸…
勝負どころの9月に入って2分け1敗と、白星から遠ざかったまま迎えたレノファ山口との6ポイントマッチ。敵地・セービング陸上競技場へ乗り込んだベガルタ仙台の、森山佳郎監督がキックオフ前に授けた指示は単純明快だった。
「ゴールネットをひとつ揺らして、相手には揺らさせずに勝ち点3を取る」
無理もない。キックオフされた14時の気温が34度超。真夏のような日差しが降り注ぐピッチは芝生が荒れ放題で、下の地面が固すぎるので意味がないという、ちょっぴり不可解な理由で試合前やハーフタイムの散水も実施されなかった。
森山監督のもとで志向されてきた、パスをつなぐサッカーとの相性は、ピッチの条件的にも最悪といっていい29日のJ2リーグ第33節。山口が年に一度、下関で開催する一戦で仙台が選んだのは肉弾戦であり、そして空中戦だった。
両チームともに無得点のままエンドが変わった75分。青写真通りにピッチ状態には関係ない空中戦で、待望の先制点をもぎ取ったのは仙台だった。
ボランチの鎌田大夢が放った左コーナーキック。ニアサイドで宙を舞い、完璧なタイミングで頭をヒットさせたFW中島元彦が、強烈な一撃をゴールネットへ突き刺す。仙台が勝利から遠ざかっていた3戦は不発が続いていた25歳は、4試合ぶりに決めたチームトップの12ゴール目に表情をほころばせた。
「大事な試合は、セットプレーで決まるケースがけっこう多い。しっかり崩して、流れのなかで決めるのが理想ですけど、勝てたので、まあ結果オーライですね」
■「自分が中に入れば、絶対にゴールできる」
セレッソ大阪から2022年4月に育成型期限付き移籍で加入し、3年目の今シーズンからは通常の期限付き移籍に移行した中島は、意外な言葉を紡いでいる。
「当初は僕がセットプレーのキッカーでしたけど、いつも『自分が中に入れば、絶対にゴールできるのに』と思っていました。それで今シーズンの序盤に相談して、中に入れてもらえました。自分から中へ入れてほしいと言ったからには、絶対に決めなあかんと思っていたし、実際にけっこう決められているのでよかったです」
今シーズンが開幕した直後。第4節からブラウブリッツ秋田、ロアッソ熊本、徳島ヴォルティスと3試合連続でスコアレスドローが続くなど、チームが得点力不足に陥っていた状況で、セットプレーを担当する片渕浩一郎ヘッドコーチに、自分の決定力を生かす形でチームを助けたいと思いの丈を訴えた。
「そうしたら、片渕さんが『よし、じゃあやってみよう』と」
コーナーキックから中島がゴールを決めるのは今シーズンで3度目。これで6月19日の栃木SC戦、8月31日のいわきFC戦に続いて3連勝となった。酷暑で消耗し、81分にMF相良竜之介と交代した中島は表情に充実感を漂わせる。
「今シーズンは結果が伴っているなかで、自分としては90分間を通してさぼらないとか、チームのために走り続けることを継続しながら、1試合、1試合を戦えている。ただ、仙台はけっこう涼しかったので、この暑さはこたえました」
■勝利をもたらした“ちょっとしたミス”
仙台をJ1に昇格させたい、という熱い思いを抱きながら、セレッソからの期限付き移籍をさらに延長した今シーズン。中島はDF菅田真啓、MF郷家友太とともに、ここまでリーグ戦で全33試合に出場している。
ボランチより前目の、すべてのポジションでプレーできるユーティリティーぶりも合わせて、仙台に必要不可欠な存在となってひさしい中島はゴールを決めた直後に、アシストをマークした鎌田に苦笑しながら耳打ちしている。
「あれ、ミスキックだったよね」
鎌田も「そうですね」とうなずいた。敵地で開通させ、仙台に4試合ぶりの勝利をもたらしたホットラインは、実はちょっとしたミスから生まれていた。
(取材・文/藤江直人) (後編へつづく)