日本代表では大黒柱としてコート内外で存在感を発揮していた渡邊。(C)Getty Images帰国を決断した最大の理由は何か 渡邊雄太がいよいよキャリアの新章をスタートさせる。 昨季まで6シーズンにわたって世界最高のバスケットボールリ…

日本代表では大黒柱としてコート内外で存在感を発揮していた渡邊。(C)Getty Images

帰国を決断した最大の理由は何か

 渡邊雄太がいよいよキャリアの新章をスタートさせる。

 昨季まで6シーズンにわたって世界最高のバスケットボールリーグであるNBAでサバイブを続けてきたサウスポーは、29歳にしてBリーグへの移籍を決断。メンフィス・グリズリーズとの契約に含まれたプレイヤーズオプションを行使せず、千葉ジェッツ入団を発表した。

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 筆者は、渡邊がジョージ・ワシントン大1年生だった2014年以降、カレッジ、Gリーグ、NBAと進んでいく過程で数え切れないほど取材する幸運に恵まれた。そして1年ごとに着々と成長する若者に様々な形で興奮し、感動させられた。日本、アメリカと距離が離れた今、現場取材の機会は減るはずだが、それでも渡邊のプレーに注目していることに変わりはない。

 NBAでの契約を破棄してまで帰国を決断した最大の理由はおそらくは非常にシンプル。“もっとコートに立ちたい、プレーをしたい”という渇望を抑えきれなくなったのだと認識している。アスリートにとって何よりも辛いのは、そもそも試合に出られないことである。

 毎年確実に成長しながらも、渡邊はNBAで、その力を披露するまでには至らなかった。超ハイレベルのリーグで大きな役割を勝ち取れなかったのは仕方ないが、本人から“安定した形でのプレー機会を得たい”という強烈な欲求を感じるのは難しくはなかった。

「これまでNBAで学んできたことを見せられる機会が増えると思うので、Bリーグはめちゃくちゃ楽しみ。(パリ五輪は)NBAで試合ができないと思ってからそこを目標にやってきた。強化試合も含めてたくさん試合に出ると思う」

 4月中旬、NBA引退と日本帰国を発表したインスタグラムで語っていた言葉は、正直な想いの吐露だったはずだ。爆発的な注目度で降り立つBリーグ。そこではフル回転するチャンスが得られるのは間違いなく、活躍が今から楽しみである。

 気になるのは千葉での渡邊がどんな役割を担い、どういったプレーをしてくれるかというところだ。NBAでも一時はローテーションに入っていたほどの選手なら、大黒柱的な立場が予期されるのは自然。NBAでは典型的な3-Dプレイヤー(3Pシュートと守備に特化したロールプレーヤー)だったが、Bリーグではよりわかりやすい形での高得点を連発する支配的な働きを予期しているファンもいるのかもしれない。実際、必要に応じて多くの得点を挙げるのも彼なら可能なはずだ。

出場機会も限られていたNBAで研鑽を積んだ日々をどう生かすか。渡邊のパフォーマンスは大いに注目される。(C)Getty Images

大好きなバスケを楽しみながら、千葉を勝利に――

 もっとも、プレーに馴染みのファンなら熟知しているはずだが、渡邊はもともとボールを支配し、強引に点を取りにいくタイプの選手ではない。カレッジ時代も3年時にはエース格、4年生時には断然のエースとして平均16.3得点をマークしたが、当時も「僕は1人で得点を稼ぐっていうタイプではない。常に周りを巻き込むことを考えています」と語っていた。

 サイズ、シュート力、ボールハンドリング、ディフェンスなどをすべて兼ね備えたオールラウンダー。日本代表でも見せてきた通り、もちろん20得点以上を取る力はあるが、シュートが不調の日でも、別の形でチームに貢献できるのが長所でもある。

 Bリーグファンならご存知のはずだが、創設からトップクラスのチームとして成長を続けてきた千葉では、渡邊にだけ大車輪の働きが期待されているわけではないだろう。スポーツライターであり、Bリーグをカバーする牧野豊氏はこう語る。

「昨季のジェッツの課題はサイズ不足でした。渡邊には高さのあるSFとしてトランジション、アウトサイドシュート、ディフェンスなどが期待されているのでしょう。ただ、今オフに渡邊以外にも身長206cm〜209cmの走れる選手を獲得しており、渡邊1人に負担がかかるチーム構成ではありません」

 千葉はチームの看板である冨樫勇樹を軸に昨季も東アジアスーパーリーグ、天皇杯の2冠を達成した。牧野氏の指摘通り、オフに補強は渡邊だけではない。そんな中で渡邊に要求されるのは、状況に応じた好バランスの貢献。展開に応じてチームを勝利に近づける仕事。それが求められる職場はまさに渡邊に適した環境であり、千葉ではオールラウンダーぶりを存分に見せることができるのではないか。

「元NBA選手としてのプレーを皆さん、期待してくれる部分があるんじゃないかと思います。そういう期待に応えられるようなプレーをコート上で発揮できたらなと思っていますが、これはいつも同じ考え方をするようにしているんですけど、目の前のことを全力でやれば、結果はおのずとついてくるんじゃないかなと思っています」

 バスケットボールキャリアも後半に入って迎える千葉でのプレーを前に、8月27日の入団会見で、渡邊は自然体で臨む意向を話していた。

 その言葉通りなのだろう。パサー、シューター、リバウンダーとしても存在感を発揮し、トランジションのフィニッシャーとなり、ディフェンスでの頑張りが必要ならストッパーに――。そんなオールマイティな渡邊が見られる日が近づいている。

 日々得点力を爆発させずとも、大好きなバスケを楽しみながら、千葉を勝利に導くプレーができれば、多くのファンを歓喜させることができるはずである。

[取材・文:杉浦大介]

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