パリ2024パラリンピックは9月6日に競技9日目を迎え、パリ・ラ・デファンス・アリーナで行われたパラ水泳では、男子100mバタフライS11(視覚障がい)で木村敬一が男子50m自由形に続く金メダル、富田宇宙も銅メダルを獲得。東京2020パラリ…

パリ2024パラリンピックは9月6日に競技9日目を迎え、パリ・ラ・デファンス・アリーナで行われたパラ水泳では、男子100mバタフライS11(視覚障がい)で木村敬一が男子50m自由形に続く金メダル、富田宇宙も銅メダルを獲得。東京2020パラリンピックに続くワンツーフィニッシュとはならなかったが、2大会連続でそろって表彰台に上がった。


木村のパラリンピック新記録を生み出した“ひと搔きめ”

午前に行われた予選では、お互いに組1着で決勝進出を決めた木村と富田。特に木村は1分01秒48の好タイムで全体でもトップとなり、自身でも「いい感触を得ていた」という。

予選から約9時間後に行われた決勝のレースでは、4コースに木村、5コースに富田、そして2コースには世界記録を持ち、2人とは良きライバルである世界記録保持者のダニーロ・チュファロフ(ウクライナ)がいた。

スタートして25m地点ではまだほぼ横一線の状態だったが、そこから木村が徐々にリードしていった。「前半の50mは予選と同じように泳げば大丈夫」と考えていたという木村は、想定通りに50mの折り返しのターンの時には、すでに完全にトップに立っていた。木村が最大のポイントとしていたのは、泳ぎ始めの“ひと搔きめ”だった。

「大事にしなければいけないという話をコーチとしていたのは、ひと搔きめなんです。スタートして浮き上がった直後のひと搔きめと、ターンをした直後のひと搔きめ。やっぱり泳ぎ出しが崩れてしまうと、そのまま崩れていってしまうので、そこは本当に注意をして泳ぎました」

一方の富田も木村に続いて2着でターン。3年前の東京2020パラリンピックに続いて、2大会連続でのワンツーフィニッシュ実現が目の前に迫っていた。


「後半も予選の時に自信をつかんでいた」という木村は、残り25mの時点で、ほぼ体一つ分をリードし、独走状態に入った。そこから「最後の苦しいところを少し耐えれば、ベストが出るという自信があった」という木村は、ひと搔きめで作った姿勢が崩れないようにすることだけに集中し、最後にスパートをかけることもなかった。チュファロフが持つ世界記録(1分00秒66)更新も期待される最高の泳ぎを披露し、会場を沸かせた木村は、そのままトップでフィニッシュ。結果は、1分00秒90。世界記録にはわずかに届かなかったものの、パラリンピック新記録での金メダルに輝いた。

富田も75mまでは2着につけていたが、そこから「足がつくかと思うくらい急に体が動かなくなった」と言い、少しずつ後退。それでも2位争いをしていたチュファロフには敗れたものの、デッドヒートの末にわずか0.01秒差で3位を死守。同種目では2大会連続、今大会としては400m自由形に続く2つ目のメダル獲得となった。

自信と誇りを手にしたパリでの成果

木村は、東京2020パラリンピックまでは金メダルに強いこだわりを持っていた。しかし、東京大会以降は自分自身の泳ぎを良くして、もっと速く泳ぎたいという水泳本来の楽しさ、やりがいへとマインドが変わっていった。

「パラリンピックというものがある以上、スイマーとしてはそこで勝つことが一番だと思っています。それは今までもそうですし、今回も金メダルが取れたことはとても嬉しい。でもスイマーとしてはやっぱり記録を上げていくというところに、もう一度気持ちを戻すことができたというところが大きかったと思います」

フィジカル強化よりも技術的な面を重視してフォームの改良に取り組み、1年半前からは元競泳日本代表でロンドン、リオと五輪で2大会連続で銅メダルを獲得した星奈津美コーチに師事。二人三脚で理想のフォームを追い求めてきたなかでの金メダルに、「これまでのレースの時よりも、体力的な練習というのはつめていないなか、技術というところでここまで記録を伸ばすことができたというのは成果として自分に自信を持ちたいと思います」と胸を張った。

木村とのワンツーフィニッシュを狙っていたという富田は、「皆さんの期待に応えられず、不甲斐ない結果となってしまった。待っていてくださっていた方には申し訳ないと言う気持ちもあります」としながらも、パラリンピックへの思いをこう語った。

「自分の志、信念というのは、ソーシャルインクルージョンのための機会としてパラリンピックのパワーに期待をして選手をやってきました。スイマーとしては未熟なのかもしれませんが、自分としてはこの3年間やってきたことにはまったく悔いはないですし、結果を誇らしく思いたい。そして木村くんと同じ表彰台に上がれることもすごく光栄に思っています。木村くんのことを称えるとともに、自分のことも少しだけ誇りたいなと思っています」

2人のパリでの戦いは、歓喜の笑顔で幕が下ろされた。