バレーボール全日本女子は、9月5日から東京で開幕するグランドチャンピオンズカップ(グラチャンバレー)に出場する。しかし、1日に発表された14名の登録メンバーには、”ポスト・木村沙織”の筆頭と目される古賀紗理那(21歳)の名前がなかった。その決断について、中田久美監督は「最後まで悩みました」と明かした。

「(古賀の故障は)ヒザなのですが、靭帯とかそういうことではなく炎症。コンディションは通常の半分以下だろうと判断して、今回は本当に残念だけど外そうと。もちろん、古賀がいないことによる戦力ダウンは否めませんが、そこは、今いる選手でやるしかありません」




アジア選手権の優勝に大きく貢献した、セッターの冨永こよみ

 今年の5月に始動した中田ジャパンは、7月のワールドグランプリで、12連敗中だった前年覇者のブラジルや強豪ロシアを破り、12チーム中5位に入った。続く8月のアジア選手権では10年ぶりに優勝を果たすなど好調なスタートを切ったが、その大会期間中に古賀からコンディションの不安を伝えられたという。

 アジア選手権が行なわれたフィリピン・マニラから帰国した際、空港での囲み取材で中田監督に「(タイとの)決勝は2セットを取られてからの大逆転でしたが、古賀選手を使わなかったのは、コンディションの問題でしょうか」と聞くと、中田監督は表情を曇らせ、「そう……ですね」と言葉少なだった。グラチャンバレーまでの準備期間が短いこともあったが、古賀の将来も考えた上での苦渋の決断だったのだろう。



ブラジル戦で多彩な攻撃を披露した佐藤美弥

 若きエースを欠くことになったチームの”キーマン”について、中田監督は「セッターの2人です」と即答した。その2人とは、佐藤美弥(27歳)と冨永こよみ(28歳)だ。

 竹下佳江の引退後に司令塔を務め、リオデジャネイロ五輪にも出場した宮下遥(22歳)はメンバーから外れた。宮下も古賀と同じくヒザの腱の炎症で、ワールドグランプリの初めから痛みを伝えていた。中田監督は「痛いと言ってくれてありがとうと思いました。本人ともよく話して、今回は無理をしないようにという結論に至りました」と話す。

 佐藤と冨永は、過去にも全日本に招集されたことはあるものの、佐藤は公式戦に出場したのは今季が初めて。冨永も3大大会(オリンピック、世界選手権、ワールドカップ)でのプレー経験はなく、しばらく全日本から遠ざかっていた。

 今季、中田監督は2人を交代で起用してきているが、先に存在感を示したのは佐藤だった。ワールドグランプリのブラジル戦に先発し、古賀にボールを集めて得点を重ね、古賀のマークがきつくなってきたと見るや、得意のミドル攻撃にシフト。最終セットまでもつれた激戦を制し、正セッター争いは佐藤が一歩リードしたかと思われた。

 しかし、アジア選手権の決勝で冨永が巻き返す。この試合、スターティングメンバーは佐藤だったが、タイに攻撃が読まれて先制を許した。2セット目もミスが目立ったため、中田監督は冨永にスイッチ。荒木絵里香や鍋谷友理枝など、途中から投入されたメンバーと共に3セットを奪い返す大逆転を呼び込んだ。中田監督は大会後、「セッターって、本当に大事なんだと思わされた大会でした」としみじみと振り返っている。

 この試合は、”決勝戦に弱い”という佐藤の弱点が露呈した。過去に、Vリーグ決勝や皇后杯決勝でもトスを読まれ、焦りによるミスや被ブロックを多発して負けた苦い経験がある。また、中田監督をはじめ、日本女子のセッターはリベロ顔負けにディグ(スパイクレシーブ)がいいという伝統があるが、佐藤はそこにやや難がある。

 だが、速いトスでミドルブロッカーを使う攻撃は大きな武器だ。所属する日立での、バルセロナ五輪に出場した男子チームの正セッターを務めた松田明彦監督(今春で辞任)の指導の成果だろう。それに対して冨永は、アタッカーだった経験を活かして、鋭いツーアタックをバンバン打つことができる攻撃力が強み。ここまでは、それぞれの特長が出ているため、中田監督は1日の会見で「セッターをどちらに固定するかは、非常に困っています」と、嬉しい悲鳴を上げていた。

 その会見で、中田監督は「気になったのは、ワールドグランプリで被ブロックが130本1試合につき20本前後あったことです。それを減らすことによって、もう少し点数を取ることができると考えています」と課題も口にしている。被ブロックを減らすのは、アタッカーの技量ももちろんだが、ブロックを分散させ、打ちやすいトスを供給するセッターの問題でもある。そこがセッター争いの明暗を分けそうだ。

 その点について、佐藤は「自分が(トスを)上げている試合で、被ブロックが多いのは感じています。ネットからの距離もあるだろうし、速い攻撃をしている分、(ブロックに)2枚つかれると打つ範囲が狭められてしまうこともあると思います。そこは改善していきたいですし、そういうトスを上げてしまったら、自分がレシーブでフォローをして、被ブロックを減らさないといけない」と意気込んだ。

 一方の冨永も「どちらがスタメンなのかはギリギリまでわからないので、準備に苦労する面はあります。途中から出る時は劣勢の場面が多いですし、やりがいも大変なところもありますね。でも、とてもいい経験をさせてもらっているので、このチャンスを活かしたいです」と前向きなコメントを残した。

 かつて、史上最年少の15歳で日本代表に選ばれ、名セッターとして活躍した中田監督は誰を司令塔に据えるのか。宮下を含めたセッター争いの今後を大きく左右するだろうグラチャンバレーが、まもなく幕を開ける。