衝撃の事故からわずか1年で再起を遂げたトゥルーイット(左)。(C)Getty Images卒業旅行先のカリブ海で起きた悲劇 現地時間8月28日に壮大な開会式が行われ、いよいよ幕開けとなったパラリンピック。史上最多となる167の国と地域に、8…

衝撃の事故からわずか1年で再起を遂げたトゥルーイット(左)。(C)Getty Images

卒業旅行先のカリブ海で起きた悲劇

 現地時間8月28日に壮大な開会式が行われ、いよいよ幕開けとなったパラリンピック。史上最多となる167の国と地域に、8人の難民選手団を加えた約4400人の選手が出場予定となっている今大会は、2大会ぶりに有観客開催となり、大きな盛り上がりが期待されている。

 さまざまなアスリートたちの挑戦に注目が集まる。その中で、小さくない存在感を放つのが、米競泳代表のアリ・トゥルーイットだ。競泳女子100メートル自由形、400メートル自由形、100メートル背泳ぎの3種目に出場する24歳は、壮絶な経験を経て、パラリンピックの舞台に立つ。

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 幼少期から競泳を続けてきたトゥルーイットがアクシデントに見舞われたのは、わずか1年前だった。

 昨年5月、トゥルーイットは、自身が所属していたイェール大学の卒業旅行で、カリブ海のリゾート地であるタークス・カイコス諸島で羽を伸ばしていた。そこで友人と海水浴を楽しんでいると、彼女はサメに遭遇。なんと右足の一部を食いちぎられてしまったのである。

 卒業を祝うはずの旅行が悲劇となった。居合わせた友人と共に自力で安全なボートの上まで逃げ切り、搬送先の病院で2度の救命手術を受けたトゥルーイットは、一命こそとりとめたものの、右足の膝から下の切断を余儀なくされた。そこで彼女の人生は一変した。

 米ニュース局『NBC News』で、トゥルーイットは当時の心境を次のように振り返っている。

「私たちは必死に抵抗をし、迫ってきたサメを突き飛ばしたり、蹴ったりした。だけど、すぐにサメは私の足を口に入れ、気がつくと足の一部を噛み切っていたんです。私にとっては本当につらい光景だったわ。でも、瞬間的に命懸けで逃げなきゃいけないと行動に移せた」

 周囲からも競技への復帰は厳しいと思われた。しかし、「恐怖に人生を支配されないように努めた。私は十分に失ったと思ったし、取り戻せるものがあれば、それを取り戻すために戦うつもりだった。何よりも水への愛も失いたくなかった」という24歳は、事故からわずか3か月半後にプール内での競泳訓練を始めたのである。

 無論、全てがうまくいったわけではない。

 立って、歩き、そして走るという日常生活への復帰から練習を重ねた。さらに義足となった右足の感覚を水中でどう養うか。浮き輪をつけて始めたというトレーニング中には事故のトラウマにも苛まれたという。それでも「プールサイドに戻って、競技に戻ったらどんな気分になるのか、本当に興味があった」というトゥルーイットは、みるみるうちに上達。「努力をすればするほど、フラッシュバックも減って、痛みも和らいだ」という。

「私は『サメに襲われた』という点では特殊だとも思う。でも…」

 大学時代に競泳チームに属していた才覚もあるが、トゥルーイットの不屈の努力は見事に実を結ぶ。

 昨年末にフロリダ州オーランドで行われた全米大会の自由形と背泳ぎで優勝すると、今年6月にミネアポリスで行われた米パラリンピック代表の選考会では、100メートル背泳ぎ、100メートル自由形、400メートル自由形で優勝。圧巻の泳ぎでパリへの切符を掴み取った。

 リハビリと競技復帰をサポートしたコーチのジェイミー・バローネさんは、米紙『Today』で「彼女は間違いなく私が今まで会った中で一番の努力家だ。練習を休んだことは一度も、本当に一度もない」と強調。復帰に向け、一度も諦めなかった本人を称えた。

 その苦労は想像に難くない。それでもトゥルーウィットは、こう言っている。

「1年ちょっと前の自分の状況を考えると、信じられない気持ちではありますね。そして、たしかに私は『サメに襲われた』という点では特殊だとも思う。でも、苦労やトラウマを抱え、人生で困難な時期を経験したという点では特殊ではない。誰もが立ち上がる力を持っているわ」

 どこまで前向きに取り組んでいるトゥルーイット。彼女がパラリンピックの大舞台でいかなる泳ぎを見せるかは大いに注目だ。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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