写真提供=共同通信

 

■同僚・ハーマンからの助言

 名門・ハーバード大学出身という異色の経歴を持ち、ここまでチームトップの28ホールドを挙げている楽天のフランク・ハーマン。先日、彼が日本球界で見聞したことをつづったコラムが、米データサイト「ファングラフ」に掲載された。その中で、ハーマンは同僚の則本昂大に対して「カットボールかシンカー(日本で一般的なシンカーではなく、シュート系のシンキング・ファストボールを指すと思われる)を習得して球数を減らせば、メジャーの先発2番手クラスになれる」という見方を示している。

 則本に関しては、いまさら多くを語る必要もないだろう。新人から5年連続で2ケタ勝利を挙げ、今季は8試合連続2ケタ奪三振という日本記録も樹立した楽天のエースである。ただ、三振を多く奪えるがゆえに球数がかさんでしまう点を、ハーマンは次なる課題と捉えているようだ。確かに、バットに当てさせれば1球でアウトを取れる可能性があるが、三振を奪うには最低でも3球を要してしまう。事実、メジャー通算355勝を挙げたグレッグ・マダックスのように、「27個のアウトを27球で取るのが理想」とする投手は少なくない。

 だが、三振を減らして打たせて取ることに徹するのが、必ずしも得策とはいえない。三振はほぼ間違いなくアウトが取れるのに対して、フィールド内に飛んだ打球がアウトになるかどうかは、極めて不確実だからだ。実際、打ち取ったはずの当たりが内野安打やポテンヒットになってしまうのはよく見る光景だろう。しかし、アウトになりやすいゴロ打球を多く打たせることで、その確率を高めることはできる。そこで有効になるのが、ハーマンが言及したカットボールやシュート系のボールだ。

■データを基に仮想・則本を形にする

 では、もし則本がハーマンの助言通りに投球スタイルを変化させたら、一体どうなるのだろうか。その考察の前段階として、ひとまずモデルチェンジ後の則本を以下のように仮定した。

・2ストライクに追い込むまでは打たせて取り、追い込んでからは従来通り三振を奪いに行く
・追い込む前の配球は、今季の一塁側に投じられたスライダーを全てカットボールに、三塁側に投じられたストレートを全てツーシームに置き換えたものとする

 この条件に基づくと、球種別投球割合は表1のようになる。追い込む前のストレートは4割弱がツーシームに変わり、スライダーよりもカットボールの方が多くなる計算だ。傾向としては、持ち球やウイニングショットの違いはあるものの、菅野智之(巨人)に近いといえばイメージが湧きやすいだろうか。

 これを基に、ツーシームとカットボールの各イベント(見逃し・空振り、ファウル、ボール、インプレー打球など)の発生確率を仮定し、打席結果の内訳と1イニングあたりの球数を推定していく。詳しくは割愛するが、推定には過去5年における、球種・カウント別の各イベントの発生確率を求め、重回帰分析によって得られた近似式に仮定した数値を代入する、という方法で行った。

 また、1イニングあたりの球数については、「1打席あたりの球数」と「1打席あたりのアウト数」という、2つの要素に分けたうえで算出している。これは、1イニングあたりの球数を減らすには、「より少ない球数で打者との対戦を終わらせる」か、「より高い頻度で打者をアウトに取る」という、2つの手段が存在することを反映したものだ。

■CASE1:平均的なボールを当てはめる

 手始めに、習得したツーシームとカットボールが過去5年のNPB平均と同等のクオリティーであると仮定して考察を進めていこう。まず、推定される打席結果の内訳と、1イニングあたりの投球数を表2、3に示した。

 推定値と実際に今季の則本が残している数値を比較すると、三振が4ポイント以上減り、その分ゴロが増えることが分かる。それに伴い、1打席あたりのアウト数はわずかに減少したものの、代わりに1打席あたりの球数が0.09球減ったことで、現状より0.27球少なく1イニングを投げられるという計算になった。

 しかし、せっかく球数を減らしても、失点のリスクが増えてしまっては本末転倒である。そこで、表2の各イベントから、tRA(True Run Average)という指標を使って失点率を推算した。さらに、リーグの平均的な先発投手に比べて1イニングあたりに抑止した失点を求め、それに表3から算出した3000球あたりの投球回を掛け合わせることで、RSAA(Runs Saved Above Average)を割り出している。要するに、「リーグの平均的な先発投手に比べて3000球あたりの失点が何点少ないか」という観点で、トータルの貢献度を比較していく。

 これをグラフにしたものが図1である。見ての通り、3000球あたりの投球回はモデルチェンジ後の方が多くなったものの、肝心の失点率が悪化したことで、トータルの貢献度では従来のスタイルの方が高いという結果になった。投手の貢献度は質と量によって決まるが、この場合は量が増えたことによる利得を、質が下がったことによる損失が上回ってしまった格好だ。

■CASE2:球速の要素を加味する

 しかし、CASE1はあくまでツーシームとカットボールをNPBの平均的なクオリティーと仮定した場合の結果である。則本の能力を鑑みれば、より優れたボールを操ると考えるのが自然だろう。そこで、新たに球速の要素を加えてみる。一般的なストレートとシュート系・カットボールの球速を基にすると、ストレートの平均球速が149.6キロの則本であれば、ツーシームは148キロ、カットボールは142キロくらいが平均値になると推測される。これを踏まえ、それぞれの球速帯を±5キロとし、過去5年のデータから同様の分析を行った。

 すると、ゴロの割合はCASE1からさらなる上昇を見せ、1打席あたりの球数とアウト数もそれぞれ良化する結果になった。1イニングあたりの球数は15.34球と、現在の則本と比べると0.37球少なくなり、球速がモデルチェンジに好影響を与えることを示唆している。

 失点抑止の面ではどうか。3000球あたりの投球回は195.6イニングに達したものの、失点率の悪化を抑えきれず、まだ現在の則本に軍配が上がる結果になった。

■CASE3:田中将大クラスのボールを身につける

 では、則本にとっては先代のエースにあたる、田中将大(ヤンキース)と同等のクオリティーのツーシーム、カットボールを投げるとしたらどうだろうか。それも、24勝0敗1セーブの活躍で日本一に貢献した2013年の田中が投じていたボールを、則本が操ると仮定した場合を考えてみたい。

 さすがというべきか、ゴロの割合は37.2%と、現在の則本に比べて7.4ポイントもの増加を見せた。また、四球の割合が1.5ポイント減少したのも注目に値する。1打席あたりのアウト数も今季の則本を上回り、1イニングあたりの球数は実に1球近くも減る結果となった。当時の田中が投げていたボールが、いかに傑出していたかを物語っているともいえよう。

 田中のボールをもってしても失点率ではわずかに及ばなかったものの、3000球で203.8イニングを消化することで、トータルの失点抑止ではついに現在の則本を上回った。もし則本がこの領域まで到達できたならば、ハーマンのいう通りメジャーでもトップクラスの投手になれるかもしれない。

■モデルチェンジを成功させるためのハードルは高い

 以上を踏まえると、モデルチェンジによって球数を減らし、より長いイニングを投げることはできても、失点のリスクを抑えるには相当に精度の高いボールをものにする必要があるといえそうだ。また、今回は考慮していないが、ボールを動かそうとするあまり腕が横振りになり、決め球であるフォークの落ちが悪くなるなどの副作用があるかもしれない。そして何よりも、則本自身が「今のところ動く速球を覚えるつもりはさらさらない」と明かしている。その言葉通り、現在のスタイルにさらなる磨きをかけていくのか、あるいは思い直し、リスクを承知で路線変更をするのか。希代の奪三振能力を生かすも殺すも、則本次第だ。

【出典】
ファングラフ
http://www.fangraphs.com/blogs/frank-herrmann-on-pitching-in-japan/
河北新報オンラインニュース
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201706/20170616_14019.html

※データは2017年8月27日現在

文:データスタジアム株式会社 佐藤 優太