8月25日の巨人対阪神戦。巨人の2点ビハインドで迎えた5回裏、無死一塁。打席には2年目の捕手・宇佐見真吾が入った。…
8月25日の巨人対阪神戦。巨人の2点ビハインドで迎えた5回裏、無死一塁。打席には2年目の捕手・宇佐見真吾が入った。バントも考えられる場面ではあったが、ベンチからのサインは「打て」。宇佐見が阪神先発・青柳晃洋の内角140キロの球を振り抜くと、打球は雄大な放物線を描き、東京ドームのライトスタンド上段に突き刺さった。
その豪快な一発を見て、思い出したシーンがある。

8月18日のDeNA戦で放ったプロ1号は劇的なサヨナラ本塁打となった巨人・宇佐見真吾
今から3年前の2014年11月、愛媛県松山市にある坊ちゃんスタジアム。ここで大学日本代表チームの強化合宿が行なわれていた。全国のリーグから推薦された40人あまりの選手が参加し、学生ジャパンのメンバーを選ぶ、いわばセレクションだ。
スタジアムでは野手によるフリーバッティングが行なわれていたが、なかなか飛ばすヤツが現れない。明治大から高山俊(現・阪神)がいて、早稲田大から茂木栄五郎(現・楽天)がいて、慶應大から谷田成吾(現・JX-ENEOS)も参加しているのに、それでも打球が飛ばない。
しばらくして、ようやく飛ばすヤツが出てきた。左打席から力強いスイングを繰り返す。インパクトのあとのエネルギーが違う。明らかに遠くへ飛ばそうとしているスイングだ。
いったい誰だ!? ユニフォームの胸には”城西国際”の文字。名簿を見ると「捕手・宇佐見真吾」とあった。
「行きの羽田空港で飛行機のチケットを配っているとき、一緒にいるのは有名な選手ばかりじゃないですか。早くコイツらのプレーを見たいなと思って。合宿が始まってからも、周りにいるのは一緒にできないと思っていた選手ばかりでしたから……もう嬉しすぎて、自主練習なのにほかの選手ばかり見ていました」
当時、宇佐見は初々しくそう語っていた。
「高山が目の前でティーバッティングをやっていたんですが、ヘッドスピードがすごかった。背中がこんなふうに、きれいにクルッ、クルッと」
まるで少年がプロ野球選手を見るような眼差しで、嬉しそうに言う。だが、そんなすごいヤツらに囲まれても、「オレはやってやるぞ!」という、宇佐見の生命力の強さは感じられた。
2015年、宇佐見は夏季ユニバーシアードの日本代表に選出され、金メダル獲得に貢献。同年秋のドラフトで巨人から4位指名を受けた。
プロ1年目はファームで1本も本塁打が打てず、イースタンリーグでの出場機会も、先発の鬼屋敷正人、河野元貴と分け合っていた。
そして勝負の2年目、”開花の予感”に気づいた。それは今季、開幕してすぐの頃だったか、「宇佐見真吾、右有鉤骨骨折で離脱」という記事を目にしたときだ。
有鉤骨(ゆうこうこつ)とは手のひらにある骨で、この箇所を骨折する選手は、スイングが速くてインパクトが強烈なあまり、その衝撃的に耐えられずに損傷するケースがほとんどだ。だからこの記事を見たときに、宇佐見の成長を感じとった。
それだけに8月19日にプロ入り初、しかも劇的なサヨナラ弾を放ったときは、正直、「ついにこのときが来たか……」と妙に納得したものだ。
DeNAの左腕・砂田毅樹の外角のスライダーをとらえたスイングは、体が開くことなく、しっかりと叩いた立派な一撃だった。
大学当時、宇佐見が注目され始めたのは、2年の終わり頃だったと思う。1年秋からマスクは被っていたが、見る者を惹きつけるようになったのは、打球が遠くへ飛ぶようになったその頃からだ。
ヒット欲しさに当てにいっていた宇佐見のスイングを、「それじゃ魅力ゼロ」と、飛ばせる打者にモデルチェンジしたのが、城西国際大の佐藤清監督だった。ちなみに、佐藤監督は天理から早稲田大、日本生命と進み、アマチュア球界屈指の長距離ヒッターとして名を馳せた人物だ。
「松山での合宿のフリーバッティングのときは、ほかの選手と比べて自分でもそんなに負けていないという実感がありました。今まで練習してきた成果が、上のレベルでも通用するんじゃないかって。そう思えるようになってから、結果もついてくるようになりました」
実は、宇佐見が市立柏高でバッテリーを組んでいたのが森和樹だ。森は高卒で巨人の育成選手として入団したが、3年で現役を引退。宇佐見が入団する前にプロの世界を去っている。
さらに、高校時代の同級生には当時、強肩・強打の遊撃手として注目されていた船越涼太もいた。船越は高校卒業後、社会人野球の名門・王子(春日井市)に進み、捕手に転向。奇しくも宇佐見と同じ2015年のドラフトで、しかも同じ4位で広島から指名を受けた。
ドラフト前、「もし自分がスカウトだったら、宇佐見と船越、どっちを指名する?」という質問を宇佐見にしたことがある。そのとき、宇佐見はこう答えた。
「厳しいっすねぇ。自分なら船越ですね。きっと……。だって、アイツ、会って話すたびに考え方が変わっているんですよ。高校のときは『オレが、オレが』みたいな感じで、自分のことばっかりしゃべっていたのに、今は人の話をすごく聞きたがるんですよ。船越の方から野球の話を引き出そうとするんです。それに、もともと身体能力も抜群だし……」
自分のことよりも、人の”いいところ”ばかりを教えてくれる。打てば響く――そういう即戦力タイプの人間ではなかった。それでもバットマンとしての未来は、明確に見えていた。
「振れるバッターになりたい。たとえ空振りでも、スイングスピードで投手を威圧できるバッターを目指したいんです」
そのバットマンとしての”志(こころざし)”は、プロの世界でもまっとうできているようだ。あとは”捕手”として、どれだけチームの信頼を担える存在になれるか。
大学時代の4年間、宇佐見を根気よく鍛え上げてきた佐藤監督の”檄”に、いま一度、心して耳を傾けてもらえばと願う。
「素材は問題なし。体格、肩、長打力。やる気だって、ほんまはものすごいものを持ってるんや。けど、もっと大人にならんと。キャッチャーは、試合になったらグラウンドマネージャーや。監督の代行やで。どんどんきついことを言われて、気づいて、理解して、少しずつ気分で気づけるようになって。そうやってだんだんと立派なキャッチャーになっていくんや。なぁ、頼むで、宇佐見!」