ドラフト候補とひと口に言っても、いろんなタイプの選手が存在する。高校生であっても完成度が高いタイプもいれば、大学生であっても遅咲きの素材型タイプもいる。 寺西成騎(日本体育大)という投手は、どちらかと言えば「大学生であっても素材型」に分類…

 ドラフト候補とひと口に言っても、いろんなタイプの選手が存在する。高校生であっても完成度が高いタイプもいれば、大学生であっても遅咲きの素材型タイプもいる。

 寺西成騎(日本体育大)という投手は、どちらかと言えば「大学生であっても素材型」に分類されるだろう。身長186センチ、体重85キロの恵まれた肉体、美しく整った投球フォーム、最速153キロの快速球と高速で落ちるフォーク。

 現段階での能力も十分に高いのだが、投手としての本格的な実績はエースとして活躍した昨年くらいしかない。星稜高2年時から3年以上も右肩痛でマウンドから遠ざかった時期があり、今春も右手中指の腱を痛めた影響で大きく出遅れたのだ。

 それでも、寺西は6月22日から神奈川県平塚市で3日間実施された大学日本代表候補合宿に招集された。


最速153キロを誇る日体大・寺西成騎

 photo by Kikuchi Takahiro

【奥川恭伸から学んだ柔軟性と瞬発力】

 久しぶりに寺西の投球を見て、ある変化に気づいた。左足の上げ方が二段モーションになっていたのだ。

「この上げ方のほうが、力が出しやすいと感じていて。春のシーズンが終わってから、『(右足で)立ってから勢いを与えたい』と思って変えてみたんです」

 合宿初日に組まれた紅白戦での最高球速は147キロに留まり、好調時と比べるとスピードも球威も物足りなく映った。2イニングの登板で3安打を許したうえ、初回は1イニングあたり20球の球数制限(特別ルール)に達して3アウトを取りきれなかった。同じくドラフト候補右腕である中村優斗(愛知工業大)が最速154キロを叩き出し、2イニングで5奪三振をマークした投球と比べるとインパクトに欠けた。

 登板後、寺西はこんな実感を語っている。

「これから150キロを出したいですし、まだ改善点ややりたいことがもう少し残っているので。秋までに完成したいですね」

 合宿2日目には、中村とキャッチボールのペアを組むシーンがあった。中村は最速159キロを計測する速球派だが、投球フォームはやや変則的だ。カカト重心で立ち、ややぎこちない腕の振りでボールを叩きこむ。

 軽い力感でのキャッチボールながら、寺西は衝撃を受けたという。

「すごく軽いキャッチボールだったんですけど、148キロくらい出ていたと思います。すごく独特な投げ方で中村にしかできない感じはありましたね」

 寺西は今秋のドラフト会議でのプロ入りを目指している。ということは、中村のような存在と投手としての価値をかけて争っていかなければならない。そんな現実について尋ねると、寺西は「差は感じるんですけど」と前置きをしてこう続けた。

「ひとつでも上の順位で呼ばれるように、すべてをアピールしていきたいです」

 現段階での実力と注目度は、中村には及ばないかもしれない。それでも、寺西には前述したとおり恵まれた肉体と、類まれな運動能力がある。

 寺西の優れた身のこなしは、代表合宿でのウォーミングアップ中から目を惹いた。長身にもかかわらず動作が柔らかく、瞬発力が高い。自分の肉体を意のままにコントロールして扱っていることがうかがえた。

 そんな印象を伝えると、寺西はうれしそうに笑ってこう答えた。

「それは高校時代に奥川さん(恭伸/ヤクルト)をずっと見てきたのが大きいと思います。柔らかく、しなやかに体を使える動きを目に焼きつけてきたので」

【アクシデントからのスタート】

 寺西にとってドラフトイヤーとなる今年は、アクシデントでスタートした。関東地方が大雪に見舞われた2月上旬。日本体育大の野球部員は、グラウンドに降り積もった雪かきに追われた。その際、スコップで雪を掘っていた寺西は右手の中指に痛みを覚える。病院で診察を受け、中指の腱の故障で全治2カ月と診断された。

 右肩の不安がなくなり、ようやく万全に投げられるようになった矢先の故障。右肩のリハビリに辛抱強く寄り添ってくれた日本体育大の辻孟彦コーチからは「何やってんだ」と叱責を受けたという。だが、辻コーチは寺西の将来を最優先するため、無理をしないよう指導してくれた。

 4月に入ってから痛みなく投げられるようになったが、寺西を欠いたチームは開幕6連敗と低空飛行を続けていた。リーグ優勝どころか、最下位を争う苦境。寺西は4月28日の桜美林大戦で復帰し、5月5日の城西大戦では先発登板。5回1安打無失点と上々の結果を残している。チームは4連勝と巻き返し、なんとか最下位を回避した。

 まだ潜在能力の底は見えていない。それだけにもどかしさも募るが、近未来への夢は無限に広がる。寺西は自身の可能性について、こう語っている。

「今までいろんな指導者の方々から『ポテンシャルが高い』と言われてきて、大学に入って練習の質が変わって顕著に成長に表われていると感じます。その流れを止めたくないですし、体だってまだまだ大きくなれると感じています。その意味では、自分で自分に期待しているところは大きいですね」

 大学日本代表の首脳陣も、寺西の可能性に大きな期待を抱いたのだろう。6月24日に発表された大学日本代表24選手のなかに、寺西の名前があった。

 7月にヨーロッパを転戦したプラハベースボールウィーク(チェコ)、ハーレム・ベースボールウィーク(オランダ)では、寺西は2試合に先発登板。計11回を投げて4失点とまずまずの内容で優勝に貢献している。

 国際舞台での経験が、寺西成騎という大器にどんな成長をもたらしたのか。その進化の過程はドラフト戦線にも大きな影響を及ぼすはずだ。