9月5日からシャン・ド・マルス・アリーナで始まるパラリンピックの柔道は、オリンピックの柔道と同様に日本選手の活躍が期待される注目競技だ。組んで始まる視覚障がい者の柔道は、2021年東京パラリンピックの後、波乱が起きた。クラス分けや階級の大き…
9月5日からシャン・ド・マルス・アリーナで始まるパラリンピックの柔道は、オリンピックの柔道と同様に日本選手の活躍が期待される注目競技だ。
組んで始まる視覚障がい者の柔道は、2021年東京パラリンピックの後、波乱が起きた。
クラス分けや階級の大きな変更があったのだ。
男女別の体重階級で行われていた試合が、J1(全盲)J2(弱視)クラスに分れることになり、男子7階級、女子6階級で行われていた試合がそれぞれ4階級に絞られた。
そんな中で選手たちは、なぜパラリンピックに出場したいのか、この柔道の魅力は何なのか、自身に問いかけてパリパラリンピックの選考レースを戦い抜いたことだろう。
――「金メダルを獲りたい」
7月2日に行われたパリ2024パラリンピックのパラ柔道・代表候補選手発表記者会見では、いつにも増して目標を明確に語る選手たちの姿があった。
前回銅メダルの瀬戸「必ず金メダルを」リオ大会、東京大会と金メダルがなかったパラリンピックの柔道日本代表は、ロンドン大会以来の金メダルを目指す。
その筆頭が男子の瀬戸勇次郎(J2クラス -73kg級)だ。
初出場だった東京2020パラリンピックで銅メダル獲得後、66kg級から73kg級への変更を余儀なくされた。会見では「ようやくパリのスタートラインというか、またパラリンピックに挑める機会をいただけたことをありがたく思う」と実感を込めて語った。
昨年8月のバーミンガム世界選手権で惨敗し、一念発起。マシンジムに通うなどして肉体改造をした。成果が出始めたのは、12月。パワーがついて、相手をコントロールできるようになり、技をかけたあとの技術にも磨きがかかった。「IBSA 柔道グランプリ大会 東京2023」で優勝するなどしてパリまでの階段を一気に駆け上がった。
「ずっとしんどかった。(結果につながる体づくりが)何とか間に合ってよかったと思います」
世界ランキングは1位。「そこに満足せず、必ず金メダルを持って帰れるようにがんばります」
「金メダルを目指す」廣瀬遠藤義安監督がもうひとり金メダル候補に挙げたのが、女子の廣瀬順子(J2クラス -57kg級)。
リオ大会銅メダリストの廣瀬は、東京大会の3位決定戦でジェイネプ・ジェリク(トルコ)から先に技ありを奪いながら、ゴールデンスコア方式の延長で一本負け。その悔しさを原動力にパリを目指して歩んできた。
パリはクラス分けの影響でジェリクは出場できない見込みだが、他にも勝ったり負けたりのライバルがいるため「拍子抜けはない。ただ勝つために練習する」。
研究合戦の渦中にいるため、詳細は明かさなかったが、練習で強化した技が結果につながっているという。東京大会後にパラの国際舞台から退いた夫の廣瀬悠コーチも、ライバル選手の動きを忠実に再現して練習相手になるなど全面的にバックアップ。十分な対策ができている。
金メダルを獲得すればパラの柔道女子選手では初の金メダルになる。「金メダルを目指して精一杯練習して頑張りたい」と充実の表情で語った。
半谷は「勝ちにこだわりたい」4大会連続出場の半谷静香(J1クラス -48kg級)も勝利にこだわるメダル候補のひとり。
東京大会後、ひざのケガの手術で出遅れたが、しっかりと大舞台に間に合わせた。
「ケガをしたということはすごく残念でもあり、よかったこと。リハビリ期間に新しい体の使い方を覚えたことで柔道を基礎から見直すことができた」
J1クラスでは、比較的動きの振れ幅が狭く、以前よりも相手を見失う時間が減ったと言い、相手の対策は立てやすいという。
「ただ一方で私もちゃんと目が悪くなっている。そこは大変」
それでも、「私自身、勝ちにこだわりたい」と言い、記者会見ではオリンピックの柔道日本代表監督に「勝つために一番必要なこと」について質問する一幕も。「勝ちたいを極めたときに緊張とどう向き合うか知りたかった。しっかり向き合い、後悔なく出しきれば優勝できると考えて取り組んでいる」と笑顔の中に強い気持ちをのぞかせた。
また、海外武者修行のため記者会見に参加できなかった小川和紗(J2クラス -70kg級)は、世界選手権3位など結果を残しており、2大会連続のメダル獲得に期待がかかる。
text by Asuka Senaga
photo by Hiroyuki Nakamura