東京2020オリンピックで最も注目を浴びた競技のひとつにスケートボードがある。大会中から急速に社会へ認知が広まり、今や全国各地にスケートパークが建設されるようになった。そんなスケートボードが今、学校の部活動として導入され始めているのをご存知…
東京2020オリンピックで最も注目を浴びた競技のひとつにスケートボードがある。大会中から急速に社会へ認知が広まり、今や全国各地にスケートパークが建設されるようになった。そんなスケートボードが今、学校の部活動として導入され始めているのをご存知だろうか? そこで今回はいち早く校内にスケートボード部を設立し、活動している開志国際高校を取材。その活動の内容や生徒たちの様子を紹介する。
部活設立のきっかけは、卒業生・平野歩夢選手のオリンピック挑戦今回取材した開志国際高校は、新潟県胎内市にある全日制の私立高校で、医学科進学コース、国際情報コース、アスリートコース、国際アスリートコースと、一般的にはない学科を設けた特化型の高校。世界に通用するリーダーを育てたいという意志のもと、新しいものを取り入れていく柔軟なスタイルと、志をもった意識の高い生徒が多いのが特徴だ。
現在公共スケートパークの有効活用、部活動民間委託の一案として、スケートボードの部活化が各地で検討され始めているが、前例はほぼない中、開志国際高校ではスケートボード部をどのように設立し、活動しているのだろうか。
現在スケートボード部とスノーボード部の顧問を務める横山幹雄先生は、
「先んじて設立していたスノーボード部を共に作ってきた仲である常務理事と平野英功さん(スノーボード部一期生、平野歩夢選手の父親)が話を進める中で、今度はスケートボードがオリンピック種目になることが分かりました。そして卒業生の平野歩夢自身がチャレンジを表明している、ということでこれは作らなくてはいけない、と思い立ったのが設立の発端です」と話してくれた。
プロコーチの指導から裏方経験まで、充実した部活動当初はスノーボード部と合同で設立し、その後に独立したというスケートボード部だが、今年度は両部合わせて10名の生徒が在籍、活発に交流しながら活動を続けている。特にスノーボードがシーズンオフとなる夏季は、共にスケートボードを楽しむ光景も見られる。
「活動場所は、村上市スケートパークを利用させていただいています。平日は放課後、毎日19時まで2時間半近くスケートパークで練習をしていて、水曜と金曜は外部コーチの平野英樹さんに指導していただいています。また水曜日は19時から21時まで村上市がスケートボードのスクールを行っているので、生徒がそのお手伝いをさせてもらっています。マイクを持って進行役を務めるなど、平野さんにフォローしてもらいながら運営側の仕事を経験し、将来にもつながる社会性ある活動を行うことも心がけています」(横山先生)
また最近では土日の活動も活発だ。村上市スケートパークは第1・2週を全日本強化指定選手、その他はアスリートコース(スクールの最上級クラス)で貸し切り、着地にエアーマットを使った特別な練習をしている。その手伝いという形で現場に入り、練習させてもらっているとのこと。
部員が上記条件に当てはまらずとも、国内最高峰の選手を直に見ることができて、一緒に練習ができる。これは開志国際高校ならではの特徴と言えるだろう。
さらにこのような経験があると、将来プレイヤーになっても裏方の苦労がわかるので、また違った気持ちで大会に臨めるようになる。そうして視野を広げて物事を見れるようになってほしいとのこと。そういった意味で、将来的に遠征も検討しているという。スケートボードは遠征先でのライディングを映像や写真に残す文化も発達しているので、そのジャンルのプロの方を招き、レクチャーを受けながら撮影の経験をすることも、また違う裏方体験になるだろう。
部員が語るスケートボード部の魅力魅力的な環境が整っている開志国際高校だが、実際、スケートボード部で活動する生徒はどんな生徒たちなのだろうか。通常の高校では、入学後に部活を決めることが多いが、開志国際高校は基本的に推薦入学になるため、自己推薦で出される面接や作文でスケートボードへの想いや実績を述べて入学してくる生徒が多い。
もともと12歳からプロとして活躍していた甲斐穂澄さんは、1学年上の松本浬璃さんから誘われたこと、そして住環境が整っていることもあり、開志国際高校に入学したそうだ。
「浬璃くんとは同じ会社からスポンサードされている仲だったのもあり、寮のことも色々聞いていました。それに強化指定選手でもある彼と一緒に練習できるのは、自分のモチベーションも上がるので、入学の大きな決め手になりましたね。入学してからは想像通りというか、以前から部活の風景は見ていたので何の違和感もなく溶け込めました。実家のある和歌山にいた頃は毎日1時間半かけて大阪まで練習に行ってたのがバスで送迎してもらえるようになったので、より練習に集中できるようになりました」
「良い環境で毎日スケボーがしたかったので、公立高校ではなく開志国際を選びました。県内の出身ですが、今は寮生活を送っています。すでにプロとして活躍している浬璃(松本)さんと穂澄(甲斐)さんと一緒の部屋なのでスケボーの話も本当に刺激になります。当初は上手すぎて圧倒されていましたが、一緒にいるうちに刺激になってきて、最近は自分も頑張ろうと思えるようになりました。それからスクールも面白いです。自分が教えて、子どもが初めてトリックを成功させた時はこちらも嬉しくなります。その感覚が初めてわかりました。これから全国で部活が増えれば、部活をきっかけにスケボーを始める人も増えるだろうし、同じ時期に始めた部員と一緒に技術を学べるのは素晴らしいことだと思います」
夏はスノーボード部員も一緒に練習ウィンタースポーツのオフシーズンは、スノーボード部員もオフトレとしてスケートボードに取り組んでいるという。競技の違いはもちろん、部員にはプロとアマチュアが混在するがその垣根を超えて自然と皆が同じ目線で「楽しくやろうよ!」 という雰囲気ができているそう。スノーボード部員にもその様子を聞いてみた。
元々スノーボードをやっていて、競技としてしっかり取り組みたいと思っていたところ、開志国際が平野歩夢選手の母校というだけでなく、全日制で勉強もしっかりできることから入学を決めたという望月大河さん。オフシーズンに積極的にスケートボードを楽しんでいる1人だ。
「コロナ自粛でスケボーが流行ったのもあり、開志国際には中2の初めには入ろうと決めていました。ただスケボーをやってはいたんですけど、当時は1人でわからないことも多くモチベーションが保てませんでした。でも今は土日も10時から15時までスノーボードの練習をした後、それ以降はスケボー部員がいれば一緒に滑ってます。部活がない平日も学校が持っているパークで滑ったりもするので、本当に楽しませてもらってます」
スノーボード歴と同じくらいスケートボード歴も長い石田さんは、2つの競技にどのように取り組んでいるのだろうか。
「もともと中学校1年生ぐらいまではスケートボードの大会も出ていました。ただコロナで開催されなくなった時にスノーボードの方で結果が出たので、今はそちらをメインにスケートボードはパークスタイルをオフトレに取り入れてます。月・火・木が筋トレやラン、水・金がバグジャンプとスケートボードというライフスタイルなのですが、いつもスケートボードをしているわけではないのに、いつ行っても楽しく滑れるのですごく雰囲気は良いと思います。
ただスノーボードもスケートボードも、こうやってしっかりやっていても世間的なイメージがよくないところがあるので、そこはもっと評価してくれる人が増えてくれたら嬉しいなと思いますし、そのためにも部活は増えてほしいですね」
平野英樹さんが思うスケートボード部の今後の課題開志国際高校のスケートボード部はとても良い雰囲気で活動できているが、現在は、すでにプロとして活躍している選手やスケボーに熱心な生徒がスキルの向上を目指して入学してきている状況がある。そのため今後は「部活からスケートボードを始めたいというような人に向けた環境作り」に取り組まなくてはいけないと外部コーチの平野英樹さんは話す。
「開志国際は未来の可能性に満ちた子がこれからどんどん入ってくると思います。ただ今は受け入れ側として少しスキルにフォーカスしすぎていると感じていて。それだと『上手くないと入れないんでしょ?』 と考えてしまう子も多いのではないかと。そういった躊躇が生まれないよう、どんな子でも気持ちよくスケートボードをスタートできるようにしてあげたいんです」
スケートボードの場合、学校の部活でも統一されたトレーニングウェアを着て練習することはない。見方によってはダボっとしたシルエットが私服のように見えるのか、競技とは違うところで「なにか怖そう」というイメージが先行しているのではないか?何も知らない人はそれだけで距離を置いてしまいがちなので、そこも入部しづらい原因にもなっているのではないか? という懸念があるという。
もちろん入ってしまえば全くそんなことはないのだが、こうした「スケートボードをする人としない人の距離感」を縮めることは、これからのスケートボード部の全国的な普及、さらには社会的イメージの向上にも繋がっていくのではないだろうか。
今や十分に認知されたスケートボードだが、これからは「スケートボードやスノーボードをやってきた生徒たちが、将来それらを職業にできるような社会を作っていく」必要がある。これは取材中に出てきたフレーズだが、今回のスケートボードの部活化は、その第一歩となるのではないだろうか。今年はパリオリンピックイヤーでもあり、自ずと世間からの注目も集まる。競技や選手はもちろん、スケートボードのこうした地域社会との関わり方にも今後注目していきたいものだ。
text and photo by Yoshio Yoshida(Parasapo Lab)