元日本代表キャプテン・篠山竜青が分析パリ五輪に挑む男子バスケ日本代表の実力(後編)八村塁が加わることで「可能性は無限大に広がる」 トム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)率いる男子バスケットボール日本代表が、いよいよ48年ぶりに自力で出場権を獲得…

元日本代表キャプテン・篠山竜青が分析
パリ五輪に挑む男子バスケ日本代表の実力(後編)

八村塁が加わることで「可能性は無限大に広がる」

 トム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)率いる男子バスケットボール日本代表が、いよいよ48年ぶりに自力で出場権を獲得したオリンピックの舞台に立つ。その主役となる「チームの顔」は、NBAの世界を知る八村塁(PF/ロサンゼルス・レイカーズ)や渡邊雄太(SF/千葉ジェッツ)だけではない。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 若き司令塔として攻撃のタクトを振るう河村勇輝(PG/横浜ビー・コルセアーズ)、長距離を苦にしない3Pシューター富永啓生(SG/前・ネブラスカ大)、ゾーンにハマると止まらないベテラン比江島慎(SG/宇都宮ブレックス)、インサイドを制する巨人ジョシュ・ホーキンソン(C・PF/サンロッカーズ渋谷)......いずれも主役となり得る逸材ばかりだ。

 それぞれ異なる才能を持つ彼らが、パリオリンピックでどんな活躍を見せてくれるのか。元日本代表キャプテンの篠山竜青(PG/川崎ブレイブサンダース)に見どころを語ってもらった。

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河村勇輝は優勝候補ドイツに一矢報いることができるか

 photo by AFLO

── パリオリンピックでファンが注目しているのは、八村選手と初めて一緒にプレーをする河村選手や富永選手との融合です。

「コンビネーションはすごく楽しみにしています。不安は少ないと思いますが、河村選手には序盤からアグレッシブに攻めてほしいですよね。韓国との強化試合の初戦を見ていても、序盤はパスを散らして、第4クオーターでやっとエンジンがかかってアタックモードになりました。

 でも、パリでは世界が相手なので、序盤にパスを散らして様子を見ていたら試合が決まっちゃう。なので、試合の出だしからアグレッシブにかき回してほしいですし、八村選手や渡邊選手がいればそこに集中できると思います。河村選手には自分のよさを、もっと突き詰めてほしいです。

 富永選手に関しても、彼が世界からリスペクトされればされるほど、スペースを作れる選手になっていくと思う。相手ディフェンダーが彼から離れられなければ、渡邊選手、河村選手、八村選手にアタックしていくスペースが生まれるわけです。ちょっとでもスキがあれば富永選手は3Pシュートを打てるので、積極的にやってほしい。

 若いふたりには、誰々がチームに入ったからじゃなくて、とにかく自分のよさを出してほしいです。『(八村選手や渡邊選手という)ケツを拭いてくれる』人たちがいるんだから、よりアグレッシブな姿勢を見せてほしいですね」

【五輪直前にドイツと戦えるのは精神的に有利】

── 昨年のワールドカップで富永選手は、ドイツやオーストラリアといった世界トップレベルのチームを相手にシュートが入らず苦労しました。八村選手のような相手のディフェンスを引き寄せる選手がいると、よりシュートが打ちやすくなりそうですね。

「変わると思いますよ。八村選手も渡邊選手もディフェンスリバウンドを取って、自分でそのままプッシュ(ドリブルで前に運ぶ)できるので、富永選手がコーナーまでしっかり先に走っておけば必ずチャンスは出てくると思います。

 また、富永選手のシュートが2、3本決まれば、今度は彼からディフェンダーが離れなくなってくる。そうなれば、逆にそのスペースを使って比江島選手などがアタックできれば、日本のリズムになるんじゃないかと思います」

── パリオリンピックで日本(世界ランキング26位)は、ドイツ(3位)、フランス(9位)、ブラジル(12位)と対戦します。決勝ラウンド進出を目標に掲げている日本にとって、どのチームとの対戦がカギになると思いますか?

「初戦のドイツでしょう。でも、初戦の入りの悪いのが、日本なんですよ。ほんと、ちゃんとやってほしい(笑)」

── ドイツとは昨年のワールドカップの初戦で対戦し、今回のオリンピックでもまた初戦。五輪直前にもベルリンで強化試合をやります。これはどう見ればいいのでしょうか。

「さすがに慣れるんじゃないですか。やっぱり日本は慣れたほうがいいと思いますよ」

── 相手の実力がわかっている状態でオリンピック本番に入るほうがいいと。

「ワールドカップの優勝チーム(ドイツ)とオリンピック本番で『初めまして』でやるよりはいいと思います。『ワールドカップでは20点差(81-63)だったな』『後半は意外とやれていたな』と思えることのほうが大事。最初からビビらずに試合をイメージできるのは、日本にとってはめちゃくちゃ有利だと思います。

 結局のところ、カギはこっちが握っていると思うんですよね。ワールドカップの初戦では、自分たちが出だしで緊張したり、気負ったり、固くなったりしたのが大きかったんじゃないかなと思うので」

【フランスとの試合は「未知との遭遇」】

── ドイツはインサイドが強く、ワールドカップの対戦ではリバウンドで上回られています。ただし、今回は八村選手がいるので、そういった展開も変わってきそうですね。

「そうなんですよ。(八村選手が入ると)マジで違いますからね。だから、いかに本番の初戦までにワールドカップの時のドイツ戦の感覚を思い出して、慣れて、出だしで走ることができれば、(勝利は)なくはないんじゃないかと思うんですよ」

── ワールドカップとオリンピックとでは、メンツも違いますし。

「スタートは、河村選手、比江島選手、渡邊選手、八村選手、ホーキンソン選手でしょうか。ワールドカップの時より戦えそうです」

── 2戦目のフランスはどうでしょう。インサイドには、ルディ・ゴベア(C/ミネソタ・ティンバーウルブズ)やビクター・ウェンバンヤマ(PF/サンアントニオ・スパーズ)といったNBA選手がいます。

「まさに(ふたりとの対戦は)『未知との遭遇』ですね。楽しんでやってくれればいいなと思います。『こいつを越えていくためのフローターってどれくらい浮かせばいいんだろう......』みたいなことを考えながらね。

 日本は『史上最強メンバー』と言われますが、若い選手が多いので失うものはない。ウェンバンヤマは『次のNBAの顔』なので、彼と対戦するだけですごくいい経験になります。何も恐れず、思いっきりやってほしいですよね」

── それが日本の未来につながると。

「はい。日本の170cm台、180cm台、190cm台の選手、1番、2番、3番の選手......日本代表の12人だけじゃなくて、Bリーグの選手、アンダーカテゴリーの子どもたち、指導者の方々、みんなで今の日本の現在地を知って、日本が世界に追いつくために何をしなきゃいけないのかを考えないといけない」

── パリオリンピックは、日本バスケット界のさらなる発展における過程ということですね。

「そうです。だから、選手たちには思いきったチャレンジを、萎縮せずにやってほしい」

【比江島慎の集大成を見てもらいたい】

── 八村選手、渡邊選手、河村選手以外に注目している選手は?

「このオリンピックは『比江島慎の集大成』になるのではないかと思っています。彼は日本バスケ界が育てた"至宝"ですから。

 八村選手、渡邊選手、富永選手は学生時代から海を渡ってアメリカに挑戦し、河村選手もついに出ていきます(メンフィス・グリズリーズとエグジビット10契約を締結)。そういう選手たちがたくさんいるなか、比江島選手はずっと日本でプレーしてきた『生え抜き』で、大学生の時からA代表に呼ばれています。日本で育った天才の、長い代表生活の、おそらく集大成。ファンのみなさんには、そこを見てもらいたいですね」

── 比江島選手自身も「集大成」と発言しています。

「本当は(競争によって年長の選手たちは)追い出されないといけない立場なんですよ。下の世代に新たな才能がたくさんいるからもう代表メンバーに残れない、というのが一番の理想ですけどね」

── 篠山選手は比江島選手と同世代(篠山が2歳年上)です。ワールドカップのベネズエラ戦で比江島選手が次々と3Pシュートを決めて逆転勝利につなげたパフォーマンスを見て、どんな気持ちでしたか?

「ノリノリだな、と思って見ていましたよ(笑)。いやでも、うれしかったですよ」

── 最後に、日本代表にパリオリンピックで期待することは?

「勝つか、負けるか、結果はわからないです。ただ、世界のトップファイブに入るような強豪国であるドイツやフランスとの試合で、出だしからガーッと行って、相手が慌ててタイムアウトを取るような展開になったら、めちゃくちゃしびれますね。

 日本の勢いが最初からすごくて、会場にいる観客もビックリして、相手が動揺してタイムアウトを取る......みたいな。そんな"ファーストパンチ"が打てたら最高ですね」

【トム・ホーバスHCはやっぱりすごい人】

── 相手を慌てさせたい。

「相手がイライラしちゃったりするような、そういうエナジーで向かって行ってほしい。今回の代表チームは史上最強とはいえ、まだまだ世界の物差しで見たらチャレンジャーであることは間違いないので。鋭く襲いかかる姿勢は忘れないでほしいです。

 彼らのなかの秘められた熱さを、オリンピックの舞台で出してほしいなって思っています。心を動かすようなプレーで、『やっぱり日本のバスケって面白いんだ!』っていうのを、国民のみなさんにまた届けてほしいです」

── 東京オリンピックのような惨敗にはならないと期待していいでしょうか?

「トムさんがそうさせないと思います。そうさせないための準備をやってきたので、大丈夫です。トムさんが就任して初めての試合となった中国戦(2021年11月/第1戦63-79、第2戦73-109)、あの試合はひどくやられて、『これから大丈夫なのかな、ダメかもしれないな......』という雰囲気からここまで飛躍させてきたんですから、やっぱりすごい人だと思います」

<了>

【profile】
篠山竜青(しのやま・りゅうせい)
1988年7月20日生まれ、神奈川県出身。小学3年生から横浜でミニバスを始め、福井・北陸高校→日本大学を経て2011年に東芝ブレイブサンダース(現・川崎)に加入。日本代表には2016年から選出され、2019年ワールドカップではキャプテンを務めた。ポジション=ポイントガード。身長178cm、体重75kg。