) プリキュアになることを夢見ていた普通の女の子、遠藤有栖(えんどう・ありす)。アイドルグループ「Cheer♡1(チアワン)」を経て東京女子プロレスに入門し、2年先輩の鈴芽とタッグを組む。勝てない日々が続いたものの、鈴芽と力を合わせて着実に…

 プリキュアになることを夢見ていた普通の女の子、遠藤有栖(えんどう・ありす)。アイドルグループ「Cheer♡1(チアワン)」を経て東京女子プロレスに入門し、2年先輩の鈴芽とタッグを組む。勝てない日々が続いたものの、鈴芽と力を合わせて着実に"強さ"を身につけていく。そんな中で悩みを抱くも、それを乗り越えてプリンセスタッグ王者に輝いた。

 初代プリキュアで活躍するような"バディ"、タッグパートナーとの絆で辿り着いた頂点。遠藤有栖の"リアル"プリキュアストーリーとは――。


今年3月にプリンセスタッグ王座を手にした遠藤有栖

 photo by 東京女子プロレス

【「ひとりでは何もできないんじゃないか?」】

 デビューから1年後の2022年1月4日、鈴芽とのタッグで自力での初勝利を飾るも、有栖の心の中に暗い影が生まれ始めていた。「ひとりでは何もできないんじゃないか?」――。

「タッグでは勝てたものの、それは2人で協力して勝てたわけじゃないですか。シングルでは勝てなかったですし、『私は鈴芽さんがいないとダメなのかな?』と落ち込んだりもしました」

 そんな中、同年4月9日の後楽園ホール大会にて、坂崎ユカ&瑞希の持つプリンセスタッグ王座に鈴芽とのタッグで挑戦することになった。それまで有栖と鈴芽は「ありすず」と呼ばれていたが、正式にタッグチーム名をつけることに。鈴芽が好きな花「デイジー」に、語呂がいいからと「モンキー」をつけて、「でいじーもんきー」。略して「でじもん」。

 坂崎と瑞希のタッグチーム「マジカルシュガーラビッツ」(以下、マジラビ)は、当時の東京女子プロレスを代表する超人気タッグ。マジラビの2人は記者会見で有栖と鈴芽にこう言った。「死ぬ気でかかってこい」――。

「マジで死ぬ気でいきました。でも敵わなかった。マジラビさんってタッグ力がすごいし、私はシングル初勝利もできていなかったから、『自分が原因かな......』という気持ちにはなっちゃいましたね。マジラビのお2人が『またやろう』と言ってくれたのが救いでした」

 有栖が考えるタッグ力とは、ひと言で言うと「絆」。

「瑞希さんはユカさんが『わかってくれている』と思うからこういう動きをする、とかですね。お互いをわかっているからこそ、『こうやりたいんだな』と思うことが合致する。マジラビさんはタッグ力が最強だと思います。絆が本当にすごい」

【鈴芽と二度目のシングルマッチ「この人じゃなきゃダメだ」】

 2022年5月3日の後楽園ホール大会、才木玲佳の引退セレモニー前のエキシビジョンマッチで、有栖は才木の最後の対戦相手に選ばれた。3分間、最後とは思えぬ激しい試合をしたあと、才木はマイクでこう言った。「私が知ってる遠藤有栖ではなくて、もう立派なプロレスラーの遠藤有栖でした」――。才木の試合映像を見て、その闘う姿に憧れてプロレスラーになった有栖は、涙が止まらなかった。

「正直、引退と言われてから才木さんとは試合できないと思っていたので、なおさらその言葉が響きました。『プロレス人生、マジで楽しもう』と思いましたね。体が動かなくなるまでプロレスをやろうと決めました」

 7月22日に会津若松市観光大使に就任し、10月21日には、会津若松市で夢だった凱旋興行を開催。超満員札止めだった。

 有栖は会津を心から愛している。「鶴ヶ城」「磐梯山」「什の掟」など会津にちなんだ技を使い、コスチュームの法被(はっぴ)は新選組をモチーフにしている。背中には新選組と同じ「誠」の文字。「誠っていいですよね」と満面の笑みを浮かべる。

「会津は本当にいいところなので、ずっと『もっと魅力を伝えたい』と思っています。観光大使という肩書をもらった時、『会津を広めてやる!』と決めました」

 2023年2月11日の後楽園ホール大会で、宮本もかと対戦。デビューから2年が経っていたが、まだシングルでは一度も勝てたことがない。有栖は感情がストレートに表出するタイプだが、この試合はまさに真骨頂。「どうしても勝ちたい」という気持ちがひとつひとつの動き、体中から溢れ出ていた。有栖はキャメルクラッチで宮本を下し、ついにシングルで初勝利を手にした。

「勝てなかったことにあんなに悩んでいたけど、努力が報われたと思いました。頑張るって大事なことなんだって......。急に自信がつきました。『自分ひとりでもやれるぞ!』とようやく思えた」

 3月18日、有明コロシアムにて鈴芽と二度目のシングルマッチを行なう。スタミナ配分など関係なし。技を返されてもすかさず攻める。一瞬一瞬にすべてを賭けた。結果は負けてしまったが、「遠藤有栖はここまで来たのか」と誰もが思った試合だった。

「負けたのはもちろん悔しかったけど、本当に楽しかった。鈴芽さんともっと闘いたいし、ずっと組んでいたい。あらためて『この人じゃなきゃダメだ』と思いました。絆が一気に深まった気がします」

【両国国技館のセミファイナル「最後は2人の絆」】

 今年2月10日、後楽園ホールで開催された「第4回"ふたりはプリンセス"Max Heart トーナメント」決勝戦にて「白昼夢(辰巳リカ&渡辺未詩)」を破り、でじもんは悲願の初優勝を果たした。全11チームの頂点に立ち、プリンセスタッグ王者の「ユキニキ(水波綾&愛野ユキ)」に挑戦表明した。

 3月31日、両国国技館大会のセミファイナルで、プリンセスタッグ選手権試合が行なわれた。2年前の両国国技館大会では、でじもんは第1試合に出場。2年かけてここまで辿り着いた2人を、観客は万感の思いで見守った。

 ゴングが鳴る。有栖が愛野にドロップキックで先制攻撃するも、愛野はいとも簡単に弾き返してみせる。

「一瞬、『えっ?』と混乱しました。私たちも燃えていたけど、王者の圧がすごかった。パワーもすごいし、『私たちはスタミナと速さで闘うしかない』と思いました」

 でじもんは息の合った連携技で、徐々にユキニキを翻弄していく。ユキニキはそれをパワーで強引に跳ね返す。息つく間もない攻防が続く。

 練習生だった頃、有栖の背中にはいつもロープの痣があった。しかし、今の彼女は違う。高速のロープワークでリングを縦横無尽に動き回り、水波を追い詰めていく。

 水波は試合前、「でじもんの動きは脅威」と話していた。"でじもんの動き"とは――「グルグルしてる。どこからでも飛んでいける」と有栖は言う。

 有栖と鈴芽がタッグを組んで、3年が経つ。勝てない日々が続いた。2人で苦い思いを味わってきた。どうしても勝ちたい。しかし、それはユキニキとて同じ。ユキニキの連携技を食らい、倒れ込む鈴芽。ここは有栖が頑張らなければいけない。渾身の磐梯山――。有栖の感情が爆発した。

「今までずっと悔しい気持ちが大きかった。でも今は、それ以上に喜びとか楽しさとか、この人には負けたくないという気持ちとか、いろんな感情があります」

 有栖に呼応するように、鈴芽の感情も爆発した。スタミナは限界。しかし愛野を睨みつけ、「来いよ!」と声を張り上げる。負けたくない。パワーでも。

 鈴芽が仕掛ける。水波が返す。愛野が仕掛ける。有栖が返す。最後は一瞬の隙だった。鈴芽のリング・ア・ベルが、愛野をマットに沈めた。1、2、3。

「やっぱり最後は2人の絆だったのかなと思います。長いこと組んできて、ようやく成果が出たと思う」

 ベルトを手にした2人は泣きじゃくり、そして笑顔で抱き合った。

【でじもん"らしさ"とは「カラフル」】

 5月6日、上原わかな&HIMAWARI組の挑戦を退け、ベルトを初防衛。7月20日には、後楽園ホール大会で二度目の防衛戦を行なう。挑戦者は荒井優希&宮本もか組。

「率直な気持ちとして、この2人ともう一度闘いたかった。鈴芽さんもそうだと思います。過去にはトーナメントとかでもけっこう負けていたので、私たちにも余裕はないと思うんですよ、絶対。でも(荒井と宮本の)2人が離れている間、私たちは2人で頑張ってきた。ベルトも獲った。だから私たちの力を見せつけたいです」

 有栖と鈴芽、2人の共通の目標は「マジラビのようになりたい」。マジラビのように強い絆で結ばれ、それでいて自分たちらしさ全開のタッグチームになりたい。でじもん"らしさ"とは、「カラフル」だという。

「私たちにはいろんな色がついていると思うんですよね。感情とか、わりと剥き出しにできるタイプだから。これからもっとカラフルな防衛ロードを歩んでいきたい。いろんな人と闘って、いろんなところに行って、いろんな美味しいものを食べて、いろんな思い出を作りたいです」

 幼い頃から極度の人見知りで、人前に出ることが苦手だった。友だちに自分の気持ちを話すこともできなかった。そんな彼女が今、大勢の人の前で、感情を剝き出しにしてリングの上で闘っている。「プロレスと出会って、人生が白黒からカラフルに変わった」と有栖は言う。

 いつか東京女子プロレスの"てっぺん"――つまり、プリンセス・オブ・プリンセス王座のベルトを巻きたいという夢がある。

 バディと見た景色を、いつかひとりで。遠藤有栖のプリキュアストーリーは続く。

【プロフィール】
遠藤有栖(えんどう・ありす)

1998年4月27日、福島県会津若松市生まれ。2019年3月、WRESTLE-1公式サポーターのアイドルグループ「Cheer♡1」に加入。2021年1月4日、東京女子プロレス後楽園ホール大会にてプロレスデビュー(対鈴芽)。2022年7月22日、会津若松市観光大使に就任。10月21日、会津若松市で凱旋興行を開催し、超満員札止め。2024年2月10日、鈴芽とのタッグ「でいじーもんきー」で「第4回"ふたりはプリンセス"Max Heart トーナメント」初優勝。3月31日、両国国技館大会にて、水波綾&愛野ユキが持つプリンセスタッグ王座に「でいじーもんきー」で挑戦し、勝利。第16代王者となる。150cm。