7月7日の午前11時、横浜ビー・コルセアーズから一通の知らせが届いた。河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)がNBAのメンフィス…

 7月7日の午前11時、横浜ビー・コルセアーズから一通の知らせが届いた。河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)がNBAのメンフィス・グリズリーズとの「エグジビット10」契約に合意したという内容だ。

 以前から海外挑戦に意欲を見せていた本人と日本バスケ界にとっては朗報だが、一部のファン・ブースターにとっては複雑なリリースだったかもしれない。河村がアメリカでも結果を残せば、国内で彼のプレーを見る機会が一気に減ってしまうからだ。試合当日にこの発表があったため、「SoftBank CUP 2024(東京大会)」の第2戦で河村がコートに入ってきたときの声援、拍手は、5日の第1戦よりも大きかったように感じた。

 国内最後となる韓国代表との強化試合に臨んだ背番号5は、この日もコートで躍動した。先発ポイントガードとして試合を組み立て、17得点9アシストの活躍。日本を勝利へ導いたが、パリオリンピックへ向けた強化試合は4試合で1勝2敗1引き分けで終了した。

「(チームの完成度は)まだまだ十分ではないですし、足りないことばかりだなという気持ちが一番大きいです。この2ゲームの出来だとベスト8という目標は難しくなるんじゃないかなと思うので、これが本番じゃなくてよかったというのも正直な気持ちです」

 12カ国が出場するパリオリンピックでは、FIBAランキング3位のドイツ代表と9位のフランス代表、そして最終予選を勝ち抜いた12位のブラジル代表とグループステージを戦うことが決まった。日本のFIBAランキングは26位。実力を考えれば、強豪国相手に快勝を収めることは至難の技である。

「10点、15点差で勝つことができれば最高ですけど、クロスゲームになる」と予想する河村は、競り合いをものにして勝利するために、強化試合を通しても一つひとつのプレーの精度を意識してきた。

「パリオリンピックで対戦するドイツやフランスに勝つことを常に想定してプレーしないといけないと思っていて、1秒、ワンプレー、1個のターンオーバーをなくすこと、一つひとつのディフェンスの強度などはより意識してプレーするようにはしていました」

 司令塔として、いかにチームメートの強みを引き出せるかどうかも河村の大きな役目と言える。韓国との2試合では富永啓生の3ポイントシュートが1本の成功にとどまったが、その1本は河村のボールプッシュとパスから生まれた。

「この2試合、なかなかうまく使ってあげることができず、彼の良さを引き出してあげれなかったですし、フランスやドイツに勝つためには彼の3ポイントだったり爆発力が必ず必要になってくると思っています。そういった意味でもこの試合で1本でも絶対にシュートを決めてほしいという思いがありました」

 チームは今後、八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ)と渡邊雄太の両エースを含めることが予想される強化試合などを行い、本番へ急ピッチで強化を進める。河村も「ここから塁さんと雄太さんも入ってくるので、悲観するのではなく、今日出た課題をまた明日から修正して取り組んでいければいいと思っています」と前を向く。

 日本で行うオリンピック前最後の一戦には、福岡第一高校の恩師である井手口孝コーチも観戦に訪れた。U22日本代表メンバーも会場のモニターに映し出され、高校時代の後輩にあたるハーパー ジャン ローレンス ジュニア(東海大学)と佐藤涼成(白鷗大学)も偉大な先輩のプレーを目に焼き付けた。

「もう少し背が伸びてくれればいいんだけど(笑)」

 これは、河村へ向けたいつかの井手口コーチの言葉だ。韓国との第2戦、コートに姿を現した河村は真っ先に恩師のもとへ駆け寄った。あいにく、5年前から身長は変わっていない。けれど、その背中は当時よりも遥かに大きくなった。

 3週間後、河村は自身初となるオリンピックの舞台に立つ。日本の期待を背負う小さなポイントガードは、再び世界に衝撃を与えるはずだ。

文=小沼克年