プレイヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたナイカブラ。好プレーで優勝に貢献した(C)産経新聞社 ラグビーリーグワン2023−24シーズンのプレーオフ決勝が5月26日(日)に行われ、シーズン2位の東芝ブレイブルーパス東京(以下BL東京)が、同首位…
プレイヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたナイカブラ。好プレーで優勝に貢献した(C)産経新聞社
ラグビーリーグワン2023−24シーズンのプレーオフ決勝が5月26日(日)に行われ、シーズン2位の東芝ブレイブルーパス東京(以下BL東京)が、同首位で今シーズン、プレーオフ、クロスボーダーマッチ全てで無敗だった埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下埼玉WK)を24-20で降して初優勝を飾った。日本一に輝いたのは前身のトップリーグ時代の2009-10シーズン以来14シーズンぶりのことだ。
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この試合は、ラグビーワールドカップに4回出場し、日本代表を長く支えたHO堀江翔太、長く埼玉WKを支え、日本代表経験もあるSH内田啓介の現役最後の試合でもあった。埼玉WKとしては両選手に有終の美を飾ってもらうことを強く心に刻んで試合に臨んだはずだが、シーズンの深まりとともに、HO原田衛、FL佐々木剛、WTB桑山淳生といった若手選手とFLシャノン・フリゼル、SOリッチー・モウンガの現役オールブラックスプレーヤーとの息が合い、チームとして急成長を遂げたBL東京が、その想いを見事に吹き飛ばし、80分間相撲の立ち会いをずっと続けるような、過酷なフィジカルバトルを制した。
試合は埼玉WKの猛攻から始まった。キックオフ直後から、BL東京ゴールに度々迫り、勢いそのままに5分、20分とSO松田力也が2本のPGを決めて6点を先行。ただし、この上潮だった時間帯にトライを奪えなかったことが、結果としては敗戦につながったようだ。2本目のPGの後から、BL東京の逆襲が始まった。ブレイクダウンの攻防は、やや埼玉WKの方が優勢で、BL東京は何度かミスしてボールを奪われたが、すぐにそのミスをカバーして致命的な状況を作らせなかった。
この善戦を引き出したのは、スクラムでの優勢だ。埼玉WKも強力スクラムには定評があるが、この試合では前半3回、後半1回スクラムで押し負けて反則を取られた。スクラムでの優劣は、スクラム以外の場面でのFWの士気に大いに影響する。「俺たちの方が上回っている」という心理状態で各局面でのコンテストを有利に進め、ボールの奪い合いで力負けしなかった。
そして、埼玉WKに致命傷を与えたのが、WTBジョネ・ナイカブラだ。前半27分にライン際を激走したナイカブラは3人の選手を弾き飛ばしてトライを挙げる。さらに前半終了間際にもライン際を独走。トイメンの豪州代表マリカ・コロインベテが必死に追いすがって何とかトライは防いだが、この際のタックルが危険なものだったとして10分間のシンビンを宣告された。そして後半5分、ラインアウトのこぼれ球を拾ったナイカブラは、コロインベテ不在の右ライン際を鋭くついて2本目のトライを奪ったのだ。まさに自分自身でお膳立てしたようなトライだった。
フィジー出身で、ニュージーランドのケルストンボーイズ高から摂南大に入学するため来日。決して強豪校ではない摂南大にあって、ナイカブラは7人制日本代表に選ばれるなど、それなりの選手ではあったが、決して突出した存在ではなかった。2018年に入部したBL東京も当時は低迷期の真っ只中。それでも腐らずに修練を重ねた結果、2023年のW杯でジャパン入りし、直前のテストマッチでトライを量産し、本戦でもアルゼンチン戦で追撃のトライを挙げるなど活躍した。ラグビー選手としては「高齢」な30歳を目前にしてようやく花開いた苦労人なのだ。ナイカブラの成長と軌を一にしてBL東京も復調。下位に低迷していた順位を、徐々に上げ、リーグワン発足後は3シーズンで2度プレーオフに進出した。
この試合では先に紹介した2トライ以外にも、終了間際には堀江のパスをスローフォワードにしてしまうビッグタックルを見せ、終了のフォーンが鳴った後の最後の最後のブレイクダウンではジャッカルを決めて、文字通り埼玉WKにトドメを刺した。「引退の花道」という予定調和を許さないこの活躍で、ナイカブラはプレイヤー・オブ・ザ・マッチを手にした。
6月からに行われる世界ランキング上位国とのテストマッチの出場選手に選ばれる可能性の高いナイカブラ。次は、世界ランキング上位国相手に「空気を読まない」プレーでジャイアントキリングの主役を演じてほしいものだ。
[文:江良与一]
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