3月末、渋谷区内でクボタスピアーズ船橋・東京ベイの岸岡智樹選手がラグビー体験を開催した。第2回となった体験会は、前回に続く参加者そして新たに加わった仲間同士の絆が深まる時間となった。(写真 / 文:白石怜平:以降敬称略)1月以来2回目の開催…

3月末、渋谷区内でクボタスピアーズ船橋・東京ベイの岸岡智樹選手がラグビー体験を開催した。

第2回となった体験会は、前回に続く参加者そして新たに加わった仲間同士の絆が深まる時間となった。

(写真 / 文:白石怜平:以降敬称略)

1月以来2回目の開催が実現

現在スピアーズでプレーする岸岡智樹。リーグワンでも試合を重ねるごとに注目度が高まっている選手である。

第7節の花園近鉄ライナーズ戦では、2トライを含む13得点。そして第10節の横浜キヤノンイーグルス戦(以下、横浜E)では、最大18点差・試合終了残り1分という中での大逆転勝利の立役者となり、プレーヤー・オブ・ザ・マッチ(POM)にも選ばれた。

クボタスピアーズ船橋・東京ベイで活躍する岸岡智樹選手

グラウンドでも結果を出す岸岡は、スピアーズに入団した直後の20年4月からラグビーサークル「トモラボ」を立ち上げ、運営を行っている。

20代〜60代までの約40名が参加しているコミュニティで、オンラインミーティングやオフ会を通じて交流を深める場となっている。

自身もシーズン中であってもその場に積極的に参加し、ファンとの関わりを増やしてきた。

本体験会もその1つ。コミュニティに参加している方々から声が挙がり、そのリクエストに岸岡が応え実現した。

今活躍している現役選手がシーズン中にファンとラグビー体験を行うという異例の企画。

「選手がシーズン中に行う活動はラグビー界で例があまりなかったので、新しい風を吹き込みたいと考えていた」と、開催の意図を前回開催時に語っていた。

今回は23名が参加。前回参加したメンバーから声をかけてもらった方や一般募集からも参加希望があるなど、前回の15名を超える参加者が集まった。

第2回は前回以上の参加者が集まった

第2回のゲストは同期の島田悠平選手

今回もスピアーズをはじめ、ジャージを身につけ参加した方も見られた。

前回開催した1月20日以降の岸岡の活躍はめざましく、特集を組まれるなど各所で報道されていた。再会した方や初めて目の前で会った方も嬉しさを隠さなかった。

さらにこの日もゲストが登場。前回の山本剣士に続いたのは同じく岸岡の同期である島田悠平だった。

岸岡の同期でもある島田悠平

島田も岸岡と同じく、注目度が高い選手の一人。

主にFBを務め、上記の横浜E戦では岸岡のトライ後や試合終了のホーンが鳴った最後のショットを決めるなど、劇的勝利に大きく貢献した。

まさに今スピアーズを熱くしている2人がつくり上げる空間に、参加者もワクワクが止まらない様子だった。

この日のメニューを事前に考えたという2人。始めのウォーミングアップからラグビーの動きを取り入れた。

ボールを渡す際や、タッチを避ける際に積極的に声がけされるなど、各所で会話が生まれアップから活気があふれていった。

ディフェンスで大切な2つのポイント

続いてアタックとディフェンスの練習体験に移り、岸岡がアタック・島田がディフェンスを担当した。

前回は山本と共にパスとスクラムの体験を展開し、今回はメニューをさらにアレンジして行った。岸岡はその意図を明かした。

「今後、コミュニティとしてラグビーの大会に出ることを目標に置いています。そこを見据えて、今回はアタックとディフェンスを主にしました。ラグビーの試合に挑むための練習をしよう。そういう狙いです」

今回はより試合を想定した体験をつくった

島田はディフェンスにおいて大切なことを2つ挙げた。

「まずはコミュニケーション、もうひとつはディフェンスのラインをお互いに1つの線上にいることです」

その根拠として、ディフェンスが横に一つに並ぶことによってアタック側の進路を塞ぐことができると説いた。

実践ではアタック1人ーディフェンス2人と同2人ー3人のケースで行われた。

ここで、島田はディフェンス陣に「左がプッシュアップ3回、右がランアップ2回!」などと互いに違う動きをすることで、異なるタイミングでディフェンスをスタートさせた。

相手がボールを持って前に来た時、コミュニケーションを取りながら1本のディフェンスラインを結ぶことで、先に述べた2つのポイントを体感してもらう狙いだった。

ディフェンスラインを1つのラインで結ぶ実践を行った

 

島田は途中、「ペアの動きを見たり、左右いる位置の声を掛け合ったりというのができていて、良いと思います。僕らは試合中常にこれをやっています」とフィードバック。

さらに質を上げるため、自身が試合で行うケースを挙げながら解説を加えた。

「ボールを蹴って上がった際に、一人で走って追いかけてしまうと空いたところを抜かれてしまいます。その時に『俺左!』『俺は右OK』というように声をかけながら位置を示すのが一つのコミュニケーションです」

嶋田の解説に「なるほど」という声も多く聞かれた

また、異なるスタートの際に大切な動きについても補足した。

「(ディフェンス側で)先に動き出した方が待ってしまうと相手が前に来てしまいます。なので、とにかく先に前へ出ることが大事です。出ながら待つと相手は前に行けないですし、どちらに行こうか迷っている時に追いつくことができます」

解説の後みるみる堅実さが上がっていく。ディフェンスが成功すると島田からも「ナイスディフェンス!」と声がかけられ、皆で拍手で讃えるシーンが増えた。

走る・跳ぶに加えて腕立ても盛り込んだトレーニングとなり、終えてからは「今後はもっとキツくなります」とジョークを入れて笑いを誘った。

アタックは「受け身ではない」

アタックは岸岡が担当。まずはミニゲーム形式でアタック2ーディフェンス2で行い、その後動きについて解説した。

「もし相手ディフェンスがアタックの動きを見越して右に行ったら僕らは前に行く。簡単に感じますよね?まずやってみましょう!」

するとディフェンス2人に阻まれてしまい、その場で止まり迷ってしまう。ここでアタック側の考え方を説いた。

「アタックはボールを持って前に進めるので有利なんです。アタックは受け身だと思われがちなのですが、そうではなく先にボールを動かすために前に行きます。なので、アタックが前に行かないと始まらないんです」

ディフェンスがアタック側に1度タッチしたら守り成功という形式から、途中タッチを2回制にし、1度タッチしたらそのディフェンスがスタートラインに戻るルールにするなど、工夫を凝らした。

「この後の試合を行うので、そのための練習です」と先の実戦を見据えた指導だった。

アタックに必要な考え方を説いた

岸岡は体を多く動かすことをテーマに、こまめにミニゲームを織り交ぜながら進めた。それにはある考えがあった。

「前提として頭では分かっていても実践するのは難しいことを感じていただこうと。試合を観ていて『ここは前に行かないと』って分かっていても行かないもどかしさがあると思います。実際は前に行けないので、それをやってみることで難しさが分かると考えました。

ただ、その中でどのように前に進めるのか。試合でいかにできるかが勝負になります。もちろんコンタクトスポーツなのでぶつかることがありきなのですが、それ以外で戦術やスキルをどう使うのかを体感できる場面になったと思います」

「目の肥えた方が増えている」

最後は教わったテクニックを踏まえた実戦に。前回同様、タッチラグビーでの試合を行った。

2人から教わったテクニックを早速試合で行い、ディフェンスをかいくぐってトライを決める・前に来る相手を一列で囲み守るなど早くも実践の成果が表れた。

グラウンディングの際には相手チーム問わず全員で喜び合い、コートを駆け回る笑顔がたくさん見られた。

最後はタッチラグビーで試合を行った

約2時間のラグビー体験会は今回も盛り上がりながら終了した。帰り際に「ぜひまたお願いします!」と早くも3回目に向けて期待がかけられた。

参加者の方々も皆充実した表情で、

「現役選手からこんなに教えてもらえるのに感激しました」

「普段ラグビーできる機会がなかなかない中、選手とできるなんて特別な時間でした」

「自分で体感することで、観る時さらにイメージできるようになりそうです」

などと喜びのコメントが数々挙がった。

終了後、まず島田に開催の意義と共に振り返ってもらった。

「本当に雰囲気が明るくて、僕らも一緒にやれて楽しい時間になりました。ラグビーを見てくださっている方がスピアーズや岸岡・僕を応援してくれるきっかけになったら嬉しいなと思います。

とても有意義な時間だったと思います。みなさんも体を動かしたいと思うのと、実際にラグビーをやりたいと聞いたので、その両方を求めてメニューをつくりました」

島田も充実した時間だったと語った

岸岡も無事に終えて「開催できてよかったです」と安堵の表情を交えながら、今後に向けて語った。

「前回は普段体験できないことをリアルに教えてもらえることがメリットで、今回は試合に近づけたものにしました。

目の肥えた方が増えていると改めて感じましたし、こういった体験を通じてさらにコアな方が増えていくのは、ラグビー界として良い方向だと思います。

今回行うことで、参加してくれた方たちから輪が広がってもらえたら嬉しいですし、僕らも継続していきたいです」

7日の12節、東芝ブレイブルーパス東京戦に岸岡は途中出場した。プレーオフトーナメント進出に向けて、今回参加した方々も更なる活躍を応援している。