ブラインドサッカーのクラブチーム日本一を決める「第21回アクサブレイブカップ  ブラインドサッカー日本選手権」のFINALラウンドが3月9日、町田市立総合体育館で開催され、決勝戦でfree bird mejirodaiが前回覇者のパペレシア…

ブラインドサッカーのクラブチーム日本一を決める「第21回アクサブレイブカップ  ブラインドサッカー日本選手権」のFINALラウンドが3月9日、町田市立総合体育館で開催され、決勝戦でfree bird mejirodaiが前回覇者のパペレシアル品川を3-1で下し、2大会ぶり2回目の優勝を果たした。free birdは今季、トップリーグの「LIGA.i2023」も制しており、二冠達成で真価を示した。

優勝した、free bird mejirodaiの選手とスタッフ。左端が山本夏幹監督

全国から過去最多の24チームが参加した今季の頂上決戦は、パリパラリンピック出場を決めている日本代表の強化指定選手たちを複数擁するチーム同士の好カードとなった。序盤からスピーディーで激しい攻防の応酬となったが、前半6分、free birdが園部優月からのパスを自陣右サイドで受けた鳥居健人がドリブルでゴール左前に運び、左足を振り抜いて先制点を奪う。前半はそのままfree birdが1-0とリードして折り返したが、後半開始早々にパペレシアルが森田翼のゴールで追いつき、ゲームは振り出しに。だが、わずか2分後、free birdは左コーナーキックから園部がゴール前に持ち込み、勝ち越し点を上げた。さらに5分後、北郷宗大が相手守備を交わし、狙いすましたようにキーパーの頭上を抜くループシュートで加点し、突き放した。

3点目を決め、大会MVPにも輝いた北郷宗大(中央/#15)

ハイパフォーマンスを支えた戦術と実行力

激闘を終え、free birdの山本夏幹監督は、「これが“トータルフットボール”です」と胸を張り、選手たちを称えた。トータルフットボールとはfree birdが目指すサッカーのスタイルで、「全員で攻めて全員で守るサッカー」のことだ。相手ボールにプレッシャーをかけて奪い、そこから素早い攻めを繰り出す。チーム全員に得点チャンスがあり、チーム全員が守備の要になる。

このチームコンセプトをベースに、山本監督はさらに、これまでほぼ互角の戦績というパペレシアルとの決戦へのゲームプランとして、「見る」「強く出る」「動く」の3つのキーワードを授けたという。「見る」と「強く出る」は守備に関してで、声や足音などあらゆる情報を拾い、「しっかり見て、マークする相手を明確化」し、ボールがマーク内に入ったら「強く出てプレスをかける」こと。山本監督はとくに、「相手のエース、川村怜選手を全員で見るように」指示したという。

「動く」は攻撃についてで、ボールを持ったら前を向いてゴールを目指すことを求めた。「試合を通して、この3つをしっかり実行できたことが勝因」と手応えを口にし、さらに、「北郷の3点目」を、「我々がやりたかったこと」と話した。ピッチ中盤でボールを持った川村に対して北郷が強いプレッシングでボールを奪い、そのまま攻め込んでゴールを決めたが、まさに3つのキーワードを体現するプレーだった。「この大会で本当に成長した。よくがんばった」と山本監督が称えた北郷は大会MVPにも選ばれた。

パペレシアル品川の川村怜(左から2人目)の突破を、体を張って止めようとする鳥居健人(右)と北郷宗大(左)

free birdの勝因には山本監督が授けたち密な戦術と、それを実行しきった選手全員の力があったことが、選手たちのコメントからも分かる。先制点を上げた鳥居は、「チームスローガンとしてトータルフットボールを掲げているなかで、3人で3得点し、守備でも全員が相手のマークをもち、攻撃も守備も全員でやって優勝できたことが何よりも嬉しい」と充実の表情で喜びを語った。先制点は、「うちはスロースターターなので、なるべく早く点を獲りたかった。自分にたまたまチャンスがめぐってきた。少し距離があるかなと思ったが、確実に左足で振り抜けると思って蹴った結果が得点につながってよかった」とうなずいた。通算6ゴール(*)で得点王も受賞し、「自分はいつも守備と攻撃の両方で貢献したいという思いでやっているが、得点王をいただけたのは成長できているのかなと、自分自身の可能性を感じた」と喜びも口にした。(*:大会規定により、準決勝ラウンド以降の結果のみ)

決勝戦で先制点を決め、自身も得点王に輝いたfree bird mejirodai、鳥居健人

勝ち越しゴールを決めた園部は、「今日のテーマはゲームメークだった」と振り返り、「攻撃では左の低い位置でボールを受けて運び、前の二人、(北郷)宗大と鳥居さんに配球することや状況を見て自分から仕掛けられれば仕掛ける。守備では(川村)怜さんを全員でマークしてパスを渡さないとか、(川村の)得意なドリブルでスピードを上げて侵入してきてシュートを打つプレーをやらせないように徹底して守備をコンパクトにし、パスが出たらボールを奪いに行くということを心がけた」と話した。

実は、山本監督は大会数週間前に園部にゲームメーカーの役割を与え、「勝つか負けるかは、あなたのパフォーマンスしだいだ」と明確に伝えていたという。「実際、試合の入り方がとてもよく、彼のところでボールが収まり、前を向いてフィニッシュまで行くという高い水準のゲームを彼がずっと続けてくれた」と評価した。

チーム一丸でより高みを目指す

free birdはこの日、主力選手の丹羽海斗と永盛楓人が欠場だったが、北郷と若杉遥が高いパフォーマンスでしっかりと埋めたことも大きかった。表彰式で優勝シャーレを受け取った園部は、「大きくて、優勝の重みを感じた」と笑顔を見せ、「フリーバードは選手層が厚く、誰が出ても強度の高いトータルフットボールができるということを証明できた試合だった。(LIGA.iと)2勝して、(来季は)挑まれる側になるので、この優勝を守っていけるように全員でより強いチームになっていきたい」と来季への意気込みを語った。

ゴールキーパーの泉健也は、「全員が同じプレーができるように意識して練習している。選手一人ひとりも、試合に出るときは『今までやってきたことを出すだけ』というマインドセットができている。そこは他のチームと比較して高いと思う」とチームの強さを話した。決勝戦については、「相手が因縁のライバル、品川だったので、みんな気持ちが入って、いい状態で(試合に)入れた。後半立ち上がり早々に失点したが、チームは慌てることなく、やるべきことを徹底してできた。それが勝因」と胸を張った。泉自身は準決勝までは無失点でベストゴールキーパー賞も受賞したが、「選手たちがコースをふさいでくれたので、僕は来たシュートを止めるだけでよかった。チーム全員で守ったゴールだった」とチーム一丸を強調した。

free birdは二冠も達成し、強さを示したが、山本監督は、「僕の描いているトータルフットボールとしてはまだ100%ではない」と話す。連係プレーなどチームとしての強化の積み重ねはまだ不十分であり、その背景にはチームに強化指定選手が多く代表活動参加のためクラブチームでの練習が制限され、積み上げがしにくいといったジレンマもあるという。自身も女子代表監督を兼務しているが、「これはクラブ側がもっと頑張らなければいけないし、代表側ももっとクラブを信頼しなければならない。互いにそういう話をもっとするべきだ。ここはブラサカ全体として課題感を持たなければいけない」とクラブチーム監督としての思いを語り、「今後もクラブとしての誇りをもって活動しつづけること」、そして、個人のスキルとクラブとして成熟度を高め、「勝ちつづけられるチームであること」を改めて誓っていた。

なお、前回初優勝から連覇を狙うも2位に終わったパペレシアルのエース、川村は、「後手に回って、もったいない失点をしてしまった」と振り返り、「試合中、(相手選手から)何度も(自分の)名前を呼ばれて、『マークされているな』という感覚はあったが、そこをさらに上回れる選手にならなければいけない。かわせたところもあったが、ゴールを決めたかった。また来年、どん欲に目指したい」と前を向いた。

また、決勝戦の前に行われた3位決定戦では埼玉T.Wingsが女子日本代表エースでもある菊島宙のハットトリックなどでAvanzareつくばを5-0と圧倒。3位に入り、初制覇を果たした第18回大会以来の表彰台となった。

free birdの連覇か、他チームが巻き返すのか、来季が早くも楽しみだ。