サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニ…

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回のテーマは、「あこがれの場所」。

■北澤、森島、相馬ら「日本代表」がサッカーの聖地へ

 日本代表はただ一度だけ、1995年にこの「初代」ウェンブリー・スタジアムでプレーしている。相手はイングランド代表。「アンブロカップ」という招待大会である。翌年の欧州選手権(EURO)のリハーサル大会として開催されたもので、日本のほかにスウェーデンとブラジルが招待され、4チームで総当たりの試合を行うという大会形式だった。

 当時のFIFAランキングでは、ブラジルが1位、スウェーデンは6位、イングランドは22位、そして日本は33位だった。そのアンブロカップの開幕戦が、ウェンブリーでのイングランド対日本だった。イングランドとしては、「格下」の日本を血祭りにあげて勢いをつけようというところだったのだろう。

 1995年6月3日、午後2時キックオフ。加茂周監督率いる日本代表は、GK前川和也、DFは柱谷哲二をスイーパーに置いて田坂和昭と井原正巳とともに3バックを形成し、右ウイングバックに名良橋晃、左に相馬直樹。中盤は、アンカーに山口素弘、インサイドMFは右に森島寛晃、左に北澤豪、そして2トップにはカズ(三浦知良)と中山雅史が並んだ。交代選手は、後半20分に中山に代わって黒崎比佐志、後半29分に相馬に代わって柳本啓成、そして後半35分に森島に代わって福田正博だった。

 試合は日本が固い守備から速攻をかけるという形で進み、前半は0-0。イングランドは後半3分に右タッチライン際でボールを受けたダレン・アンダートンがアラン・シアラーとのパス交換で中央に入り、ミドルシュートで先制。しかし日本は、そこから果敢に攻め、後半17分、カズの左CKをニアポストに走り込んだ井原が頭で合わせて1-1の同点に追いつく。なおも攻める日本。日本が相手ということもあったのか、この日ウェンブリーを訪れたのは2万1142人という記録的に少ない観客だったのだが、日本人ファンが多く、スタンドは沸きに沸いた。

■対イングランド代表「通算戦績」は1分2敗

 だが、後半42分、日本陣、日本から見て左のコーナーにイングランドのDFガリー・ネビルが上がってきたのを阻止しようとした北澤のプレーがファウルに取られ、イングランドにFKが与えられる。蹴るのは左利きのスチュアート・ピアス。ファーポスト前のデイビッド・プラットの頭にピッタリと合ったが、GK前川が鋭く反応、はじかれたボールは激しくバーを叩いてはね返る。そこにいたのがシアラー。ジャンプしながらの右足ボレーシュートはグラウンドに叩きつけられ、ワンバウンドして日本のゴールに向かう。

 前川は倒れたままでボールに手を伸ばすが触れられない。そこに左ポストの外から柱谷が戻ってきて、ボールをポストの外にかき出した。明らかなハンド。オランダのヤープ・ウィレンベルク主審は迷わずペナルティースポットを指し示し、柱谷にレッドカードをつきつけた。このPKをプラットが決め、日本は「聖地」ウェンブリーでの勝点を逃した。

 日本代表はこの9年後、2004年にマンチェスターでイングランドと対戦して1-1で引き分け(得点=小野伸二)、2010年にはオーストリアのグラーツで3回目の対戦をして1-2(得点=田中マルクス闘莉王)と通算3戦で1分2敗の成績。しかし、「2回目のウェンブリー」はまだ実現していない。

■2代目の「こけら落とし」でドログバが決勝点

「初代」ウェンブリーはこの後2000年のFAカップ決勝戦を最後に取り壊され、2007年にはまったく新しい「第2代」のウェンブリーが誕生する。収容9万人。一部開閉式の屋根をもつ世界最大クラスの競技場で、「初代」のようなトラックはなく、完全なサッカー専用スタジアムになっている。

 通常、スタジアムは西側をメインスタンドにして、ゴール裏が南北になるように建てられる。しかし、ウェンブリーは、メインスタンドを南側に置き、北側にバックスタンド、そして東西がゴール裏になっている。その北側スタンドの屋根の重さを完全に受け止めているのが、「新ウェンブリー」をロンドンのランドマークのひとつにしている鉄骨製の巨大なアーチだ。全長315メートル、最も高いところが133メートルにもなるアーチは、北側のスタンドの屋根だけでなく、通常は南側の屋根上に収容されている東西スタンドを覆う可動式屋根の総重量の6割も支えている。

 こけら落としは2007年5月19日に行われたFAカップ決勝戦、チェルシーマンチェスター・ユナイテッドが激突し、延長後半にチェルシーのディディエ・ドログバが決勝点を挙げてチェルシーが1-0で勝利を収めた。

いま一番読まれている記事を読む