サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マ…

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は試合の合間、「15分間の戦場」について。

■2つのハーフがあるゲーム

 カタールで開催されているAFCアジアカップの初戦、日本はベトナムに苦戦し、前半の半ばで1-2とビハインドの状況に立った。前半終了間際に南野拓実と中村敬斗が見事なシュートを決めて3-2でハーフタイムを迎えることができたが、1-2のまま進んでいた十数分間、森保一監督の頭脳は、後半をどう戦うか、そのための指示をどう出し、選手をどう代えるかなど、目まぐるしく回っていたに違いない。

 逆転してハーフタイムを迎えたものの、前半の過ちを後半繰り返すわけにはいかない。そして後半、試合は明らかに変わった。前半のバタバタしていた状況が大幅に減り、日本代表はより安定した形で試合を進めることができたのだ。派手な突破が増えたわけではないが、ハーフタイムの森保監督の指示がチームを落ち着かせ、不要なボールロストが大幅に減ったことが試合を勝利に導いた。

 サッカーは「2つのハーフがあるゲーム」と呼ばれる。前半と後半で大きく様相が変わってしまうことは、この競技では珍しくはない。2005年の欧州チャンピオンズリーグの決勝戦で、前半ACミラン(イタリア)に0-3と大差をつけられたリバプール(イングランド)が後半に3点を返して追いつき、延長・PK戦の末に優勝を飾った試合はあまりに有名だ。その背景に、「ハーフタイム」の存在がある。

 試合時間は90分、45分間が終わったらハーフタイムを挟み、エンドを入れ替えて後半の45分間を行う…。サッカーファンなら誰でも知っている試合の流れだ。この組み合わせは、1870年代初め頃までに定着したらしい。日本で言えば明治の初年である。「廃藩置県」が明治4(1871)年、江戸時代から使われていた「太陰暦」が廃止されて太陽の動きに合わせて1年を365日とする太陽暦が採用されたのが明治6年、1873年のことと言えば、ずいぶん昔のことだなと思ってもらえるに違いない。

■「休息」以外の重要な意味

 ただ、当時の「ハーフタイム」には、「休息」以外の重要な意味があった。19世紀の前半、英国のパブリックスクール(全寮制の私立中等教育学校)で行われていた「フットボール」で、他校との試合を円滑に進めるために考案されたのが「ハーフタイム」だったのだ。

 当時の「フットボール」には、主として2つの「人気ルール」があった。イートン校で使われていたもの(現在のサッカーに近い)と、ラグビー校で使われていたもの(もちろん、現在のラグビーに近い)である。異なったルールでプレーしているチーム同士が対戦するときには、たとえば「前半をイートン・ルールで、後半をラグビー・ルールで」というような取り決めをして競技を行ったらしい。「ハーフタイム」は、そのルール変更のタイミングの目安として使われたのである。

 1863年に「フットボール・アソシエーション」が誕生して今日の「サッカー」に近い統一ルールの下で試合が行われるようになったときには、当然、上記の意味でのハーフタイムの必要性は消えていた。実際、この年に書かれた最初のルールには、試合時間の規定もハーフタイムの規定もなかった。

 当時、試合時間は、対戦する両チームの話し合いで決められた。そして試合のなかでは、両チームが得点するごとにエンドが入れ替えられた。現在も、「ハーフタイム」の重要な機能のひとつは、エンドの入れ替えである。しかし得点のたびに入れ替えられるなら、ハーフタイムは不要ということになる。

■公平にする理由

 サッカーでエンドの入れ替えを行うのは、「公平」の精神の表れだ。太陽の向き、風の向きやピッチの状態など、どちらのゴールを攻め、守るのか、条件は公平とは言えない。サッカーの母国イングランドでは、高山もないが、平地も少なく、ゆるやかな丘陵地が続いている。ピッチに傾斜があることは珍しいことではないのである。

 イングランドを旅行していると、ときどきとんでもないサッカーのピッチに出くわす。私は一度、片方のゴールが数メートルは高いのではないかという斜面につくられたピッチを見たことがある。上から下に攻めれば有利だなと思いながら、それとも、下から上に攻めるほうが、パスのコントロールはしやすいのだろうかとも考えた。しかし一見、不公平きわまりないピッチでも、エンドを入れ替えれば試合は「公平」になるのである。

 やがてゴールごとのエンドの交代がなくなり、エンド交代はハーフタイムに限られるようになる。1871年にサッカーの最初の公式戦である「FAカップ」が始まったとき、試合時間が90分であることと、ハーフタイムに「インターバル」、すなわち選手の「休息」の時間を取ることが認められるのである。

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