井端弘和「イバらの道の野球論」(24) 今年9月7日に神宮球場で行なわれたヤクルト戦で、巨人はショートにルーキーの門脇誠…
井端弘和「イバらの道の野球論」(24)
今年9月7日に神宮球場で行なわれたヤクルト戦で、巨人はショートにルーキーの門脇誠を、サードに坂本勇人を起用した。坂本はプロ17年目にして初めてサードの守備に就いたが、その試合以降もサードでの出場が続いた。
現・日本代表監督の井端弘和は、「サード・坂本」をどう見たのか。直接話をして伝えたというアドバイスについても聞いた。
(インタビューは日本代表の監督就任前に実施)

巨人でプレーしていた頃の井端氏(写真右)と坂本
【"生涯ショート"も見たかったけど......】
――シーズン終盤でのコンバートについて、タイミングとしてどう思いましたか?
「来季もサードで起用すると考えると、今季中のコンバートはいい面もあると思います。急だったので、連係プレーやバント処理、サインプレーなどの練習はあまりできていなかったでしょうし不安はあったはず。コーチなどの話を聞きながら、ショートを守っていた時に見ていたサードをイメージしつつ、『こうやって動くのか』と試行錯誤の日々だったでしょうね。
自分なりの"サード像"はある程度できたでしょうから、来季の春季キャンプからその質を高めていくことになる。34歳にして新たな挑戦ができるということは、いい刺激になっていると思いますよ」
――来季もサードでの起用が濃厚のようですね。
「でも、個人的には"生涯ショート"でいく姿も見てみたかったですけどね。たいてい、ショートはベテランになると他のポジションに移ってしまいますし、引退までショート一本でやれたのは(デレク・)ジーター(元ヤンキース)くらい。僕は坂本を"和製ジーター"と思っていましたから。
ただ、坂本の気持ち、体の状態などは本人じゃないとわからない。今年は開幕からしばらく調子が上がらずにケガもしましたが、7月末に復帰してからはコンスタントに結果を残して、最終的には打率.288、22本塁打まで持ってきました。3000本安打も見据えて、まだまだやってもらわないといけない選手であることは間違いないです。
サードを守っていた岡本(和真)がファーストかレフトになるのか、というところも気になりますが、『僕が勝負するところは打席なんで』と言い切るあたりはさすがですよ(笑)」
【坂本に会って伝えたアドバイス】
――坂本選手に代わってショートを守った、ルーキーの門脇選手の守備についてはいかがですか?
「1年目の選手ですから、あれこれ課題は言いたくないですね。もともとの守備のレベルが高いことは間違いない。特に"捕る"という感覚がいい選手なのかな、という印象です。タイミングや捕球の姿勢が悪くても、打球をグラブに収める能力は高いですよ。
来季、1年間ショートを守るとなれば、キャンプからプレッシャーもかかるでしょう。気持ちや体力的にもかなりキツくなるでしょうが、それも経験して成長していってほしいです」
――井端さんもサードを守った経験がありますが、その際はグラブを変えましたか?
「あまり大きな変更はなかったですが、グラブの先を0.5cm長くしました」
――0.5cm長くすることで、どんな違いが出るのでしょうか。
「言葉で説明するのが難しいんですが......サードで打球を捕る時のバランス、といった感じでしょうか。練習をする中で『このくらいがちょうどいいかな』と思ったので。ファーストを守ったこともありますが、市販のファーストミットだと長すぎて『自分のバランスには合ってないな』と思ったので、外野手のグラブくらいの長さでファーストミットを作ってもらいました。
重さも同じで、軽すぎるとサードの速い打球に対応できないかもしれないし、重すぎると動きが鈍くなる可能性がある。最も大事なのは、本人にとっての"扱いやすさ"。選手はみんな、そういった感覚を確かめながらグラブを選んでいると思いますよ」
――今回のコンバートについて、坂本選手と話をしましたか?
「坂本が初めてサードの守備をした試合の翌日、東京ドームでの試合前に話をする機会がありました。自分の経験もふまえてアドバイスはしましたが、それが坂本にどれだけ当てはまるかはわかりません。表現のニュアンスが違えば動きも違ってしまいますしね。僕の言うことが絶対ではなく、あくまで参考程度に捉えてほしいと前置きした上で伝えました」
――差し支えなければ、そのアドバイスの内容を教えていただけますか?
「ひとつは、『あんまり早く動かないほうがいい』ということです。例えば、左バッターの打球はスライスして切れていくこともあるし、反応よくパッと動いてしまうとグラブを出し遅れてしまうこともあるので。
あとは、『捕ってから投げるスピード』についても話しました。各ベースとの距離や打球も速さが変わりますから、ショートの時のように捕球してからすぐに送球しようとすると、まだ相手が捕球体勢に入っていない場合もある。そういった意味では、リズムも変わってくると思います」
――実際に、坂本選手のサード守備を見た印象は?
「坂本が初めてサードを守ったヤクルト戦で、僕は解説だったので生で見ることができましたが、問題なくやれていたと思います。動きもよかったですね。それでも、初めてのポジションなのでミスは出るでしょうが、いろんな打球を捌く中で慣れていってほしいです」
【プロフィール】
井端弘和(いばた・ひろかず)
1975年5月12日生まれ、神奈川県出身。堀越高から亜細亜大を経て、1997年ドラフト5位で中日に入団。2013年には日本代表としてWBC第3回大会で活躍した。2014年に巨人に移籍し、2015年限りで現役引退。現役生活18年で1896試合出場、1912安打、56本塁打、510打点、149盗塁。ベストナイン5度、ゴールデングラブ賞7度、2013年WBCベストナインなど多くのタイトルを受賞した。2016年から巨人内野守備コーチとなり、2018年まで在籍。侍ジャパンでも内野守備コーチを務め、強化本部編成戦略担当を兼務。2022年の第6回WBSC U-12ワールドカップでU-12日本代表監督を務め、2023年10月3日に日本代表のトップチームおよびU-15監督に就任した。