シーザーズ・パレス、ベラージオ、ベネチアン、ミラージュ、フラミンゴ......。 世界有数の煌びやかなカジノホテルが建ち並ぶラスベガスの目抜き通り『ラスベガス・ストリップ』を約1.9kmにわたって駆け抜ける──この世のものとは思えないレー…

 シーザーズ・パレス、ベラージオ、ベネチアン、ミラージュ、フラミンゴ......。

 世界有数の煌びやかなカジノホテルが建ち並ぶラスベガスの目抜き通り『ラスベガス・ストリップ』を約1.9kmにわたって駆け抜ける──この世のものとは思えないレース。F1が威信をかけて開催を目指してきたラスベガスGPが、ついに幕を上げる。


メディアの注目を集める角田裕毅

 photo by TAKAHIRO MASUDA(BOOZY)

 ラスベガスのど真ん中で開催する、それも"ストリップ"を走らせるという至上命題ゆえ、特設のサーキットは直線区間が異様に長く、4本のストレートを中低速コーナーでつないだだけの、極めて特殊なレイアウトとなっている。

 ただし、アゼルバイジャンGPの舞台、バクー・シティ・サーキットも実質的な最終コーナーから2km以上に及ぶ全開区間があり、それ自体は特別なことではない。

 角田裕毅は言う。

「ストレートが長いのと低速コーナーが多いので、そのバランスとできるだけストレートで稼げるかというところが重要ですね。少しバクーに似ていますが、コーナーのキャラクターはバクーとは少し違っていると思います。ここは(バクーの90度コーナーと違って)回り込むような180度のコーナーが多いので」

 アルファタウリのマシンは、メカニカル性能が求められる低速コーナーでは高いパフォーマンスを発揮する。バクー、モナコ、シンガポールでは好走を見せてきた。ラスベガスでも、それは同じはずだ。

 ただし、長いストレートはどうなるかわからないと、角田は警戒する。ランキング7位争いの相手であるウイリアムズが、"直線番長"として知られるマシンだからだ。

「僕たちのマシンはコーナーでとてもいいと思いますし、コーナリング性能についても心配していません。ただ、ストレート性能は今シーズンずっと苦戦してきているので、その点が唯一の懸念材料です。そこはウイリアムズのパフォーマンスを心配しています」

【日本とラスベガスとはイレギュラーな時差17時間】

 たしかに距離にすれば、全開区間は1周の80パーセント近くに達するほど長い。だが、時間で言えば約1分30秒のラップタイムのうち、全開となるのは66パーセントほどでしかなく、これは全22戦のうち9番目でしかない。

 というのも、F1が広大な土地を購入して常設のメインストレートとしたターン1〜2、巨大球体型アリーナとして一躍有名になったMSGスフィアの周りを走るターン7〜9、ラスベガスストリップの入口であるターン12、実質的な最終コーナーであるターン14〜15など、低速であるがゆえにそこで過ごす時間が長く、スロットルを踏みっぱなしで走る時間はそれほど長くはないからだ。これは1.2kmのストレートを誇るメキシコシティが、全開率ではモナコに次ぐ2番目に低いというのと同じことだ。

 もちろん決勝でのバトルという点では最高速は必要だが、ストレート走行のパフォーマンスだけで勝負が決まるようなシンプルなサーキットではない。

「ドライビング面で重要になるのはブレーキングと低速コーナーの走り方ですが、コーナーへの進入で攻めすぎてしまうとその後に長いストレートが続くコーナーが多いので、(ストレートへの)立ち上がりを意識してアプローチすることが重要かなと思います。

 スフィアのエリア(ターン7〜9)はブラインドコーナーでブレーキングポイントを掴むためのリファレンスがありませんし、横Gがかかりながらブレーキングすることになるので、トリッキーであることは間違いないでしょうね。でも低速コーナーなので、僕たちとしてはラップタイムを稼げるエリアでもありますし、すごく重要だと思っています」

 現地は木曜の夜20時30分にセッションが始まり、FP2と予選は24時から。決勝は土曜の22時に行なわれ、「眠らない街ベガス」に合わせた変則スケジュールとなっている。

 日本とは時差が17時間もあるため、日本では金曜から日曜の昼間にセッションを見ることになる。だが現地では、このイレギュラーな時間軸にうまく対応することが必要になる。

【ストレートでオーバーテイク合戦になるか否か】

 それに加えて、この時期のラスベガスは気温が高くはない。セッションが行なわれる深夜の時間帯は10〜15度程度まで下がる。

 グランプリ開催に合わせて舗装されたばかりでグリップの低いアスファルトに、高速コーナーがターン3〜4しかなく、フロントタイヤに熱の入りにくいレイアウト。そしてこの低温と、チームやドライバーとしては頭を悩ます要素は多い。

 つまり、コースレイアウトの見た目ほど、シンプルなレースではなさそうだ。

「ここは初開催でグリップレベルがわからないので、シミュレーターは推測の域を出ません。それをもとに何かを判断するのは難しいですね。僕たちの想定どおりのグリップレベルならいいですが、そうでなければ準備してきたものに対してある程度の妥協を強いられることになると思います」

 角田はそう言う。だが、ラスベガス入りしてコースチェックをしたチーフエンジニアのジョナサン・エドルスは、ほぼ想定どおりだったと自信を見せて次のように話している。

「新舗装は構造材が石を覆っており、通常ならグリップは低い。これがウイングレベル選択に影響を及ぼす。もうひとつは縁石で、非常に低いため、乗り越えによるマシンパフォーマンスへの影響は小さい。このようにトラックウォークでわかったことをシミュレーションに折り込んで準備し、フリー走行に臨むのを楽しみにしている」

 長いストレートでオーバーテイク合戦になるのか、それともDRS(※)トレインで動きのほとんどないレースになるのか。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 いずれにしても、コンクリートウォールに囲まれた高速戦は荒れた展開になること必至。アルファタウリとしてはそのなかで生き残って、しっかりと4戦連続のポイント獲得を果たしたいところだ。