今年初開催のUCI(世界自転車競技連合)認定の国際ステージレース「マイナビ ツール・ド・九州2023」は10月8日、大会最終日を迎え、大分県日田市で第3ステージとなる大分ステージを開催した。大分ステージは、大分県南部にある国際サーキット、オ…

今年初開催のUCI(世界自転車競技連合)認定の国際ステージレース「マイナビ ツール・ド・九州2023」は10月8日、大会最終日を迎え、大分県日田市で第3ステージとなる大分ステージを開催した。

大分ステージは、大分県南部にある国際サーキット、オートポリスをスタートし、日田市中心部に向かう129kmのコースを使用する。パレード走行後、オートポリスを3周したのち、標高差700mを降り、山岳賞が設定された峠を2つ通過しながら北上、日田市中心部に設定された1周11.5kmの周回コースを5周する。オートポリス内と、周回コースの1周、3周完了時にスプリントポイントが設定されている。全体的に下り基調ではあるが、随所に細かいアップダウンが散りばめられている。





オートポリスから日田市に向かう大分ステージ。2回の山岳賞と3回のスプリントポイントが設定されている

この日は、早朝まで雨が降っており、スタート地点のオートポリスは、深い霧に包まれていた。前日まで厳しいレースが続き、タイムアウトを宣告された選手もおり、最終ステージのスタートラインにつくことができたのは、87名のみだった。



スタート最前列に並ぶ各カテゴリー首位の「リーダー」たち

最前列に並ぶのは、前日の第2ステージを制し、水色のリーダージャージを着る個人総合首位のアンドレイ・ゼイツ(アスタナ・カザクスタンチーム)。ランキングでは、2位に同チームのアントニオ・ニバリ(アスタナ・カザクスタンチーム)が25秒差でつけている。3位に27秒差で留目夕陽(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム)が迫っており、逆転の可能性は残されていた。
上位は僅差で、7位までが1分差以内にひしめきあっており、展開によっては、順位の大きな入れ替わりも十分あり得ると言えるだろう。留目は新人賞の首位も守っており、エメラルドグリーンの新人賞ジャージでスタートラインについた。
山岳賞首位で水玉ジャージを着るのはベンジャミ・プラデス(JCLチーム右京)。留目が2ポイントで追っている。この日、最大8ポイント獲得できるため、ここにも逆転の可能性があった。
兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング)が首位を守るスプリント賞も、この日はスプリント賞とゴール着順で最大34ポイントを獲得できる設定になっているが、現状の保有ポイントは31。最終ステージだけで、ゼロからでも塗り替えられてしまう可能性があるのだ。

オートポリスのサーキットでリアルスタートが切られると、兒島のスプリント賞を守りたいチームブリヂストンサイクリングが、隊列を組み、兒島を引き上げた。兒島は見事に1位通過し、ポイント賞死守のために重要なポイントを加算した。



深い霧に包まれたオートポリスのサーキット。ポイント賞ジャージを着る兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング)を引き上げるべく、チームメイトが先頭を固める

集団は、霧のサーキット周回を終え、日田市内へ向けてのダウンヒルへ。だが、この下りの途中で転倒があり、ここになんと総合や山岳賞逆転をかけて走っていた新人賞首位の留目が巻き込まれてしまったのだ。留目は再スタートを切ることができず、ここで無念のリタイアとなった。日本人首位を行く若手選手の悲劇に、衝撃が走った。



松原ダムの横を抜ける集団



日田市中心部の周回コースに向け、北上

レースは山岳賞ポイントへ。最初の4級山岳に向かう中で、10名程度の集団が形成された。一つ目の山岳賞は、山岳賞ジャージを着るプラデスが一位通過し、ポイントを積み増し、山岳賞首位を決定づけた。
その後、先頭集団に合流する選手が相次ぎ、下りで集団は22名に。続く2つ目の山岳ポイントでは、ゲオルギオス・ボウグラス(マトリックスパワータグ)が首位追加したが、プラデスも3位通過し、ポイントを獲得。



2回目の山岳ポイントではゲオルギオス・ボウグラス(マトリックスパワータグ)が先頭通過

下りで、ベンジャミン・ダイボール(ヴィクトワール広島)、ライアン・カバナ(キナンレーシングチーム)、デクラン・トレザイス(ARAスキップ・キャピタル)の3名の実力者が抜け出した。思惑は異なるものの、ダイボールとカバナの強力な走りで、集団との差を開いていく。



ベンジャミン・ダイボール(ヴィクトワール広島)、ライアン・カバナ(キナンレーシングチーム)、デクラン・トレザイス(ARAスキップ・キャピタル)の3名が抜け出し、後続との差を開く

3名を追う先行していた集団と、大集団も日田の周回コースへ向かう。3名は周回コースに入る時点で、集団との差を1分40秒まで開いていた。大集団までは3分以上の差を付けていた。



周回コースには多くの観客が集まり、声援を送っていた

首位のゼイツは2番目の集団に取り残されており、このままフィニッシュすれば、総合は大きく入れ替わる。
先行する3名の中で、総合成績が上位にいるのは、トップから54秒差の7位にいるダイボール。もし、このままのタイム差で逃げ切れば、個人総合はダイボールに入れ替わる。

大集団に残されていたアスタナ・カザクスタンチームが、UCI登録カテゴリー最上位のワールドチームの底力を見せ、強力な牽引でペースアップし、前方の集団と合流した。だが、先行する3名との差は2分以上開く、絶望的な状況に。



自ら先頭に立ち、先行する3名との差を縮めるべく、集団を引き上げるゼイツ



先行し、逃げ続ける3名

先行する3名の所属チーム以外も協力してペースアップし、3周目完了時点までに差は1分まで縮まった。
このまま最終周回へ。アスタナ・カザクスタンチームを中心に、決死の牽引で差を詰め、差は20秒まで縮まった。



先頭3名を追い上げる集団

一時は捕らえられるかと思われたが、終盤から先行する3名は協調し全力で逃げ、後続を振り切った。残り500mの最終コーナーへ突入し、勝負は3名でのスプリント勝負に託された。
最初に仕掛けたのは、カバナ。ここをトレザイスがかわし、雄叫びを上げながらフィニッシュに飛び込み、ステージ優勝を決めた。



スプリント勝負を制し、優勝を決めたデクラン・トレザイス

その8秒後、強烈に追い上げた集団がフィニッシュ。先頭は岡本隼(愛三工業レーシングチーム)が押さえ、4位に入った。
ゼイツもこの集団の前方でフィニッシュし、総合優勝が決定した。



ゼイツの総合優勝を笑顔で称えるGMのヴィノクロフ。過去にはトップ選手として活躍し、今回の来日も話題になった

ポイント賞争いは混戦となった。逃げ集団に入り、スプリントポイントを上位通過、3位でフィニッシュしたダイボールが21ポイントを獲得し、兒島に迫ったが、兒島は自ら9位に入賞したことで、4ポイント差で逃げ切り、ジャージを守り抜いた。新人賞はウィリアム・イーブス(ARAスキップ・キャピタル、オーストラリア)が獲得している。



確定した4賞ジャージ。新人賞以外は最終ステージまで守り抜いた



チーム総合で優勝し、笑顔を見せるEFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム

悲運の事故で留目はフィニッシュできなかったが、EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチームがチーム総合首位となった。

トレザイスは「早い段階から仕掛け、後続を引き離すつもりで走った」と語った。「(チームメイトの)イーブスを新人賞1位へと押し上げるというチームの意図もあり、体力を温存しつつ、控えていた」と言う。最後のスプリントに関しては「正直言って、自信があった」と語る。2度目の来日になったが「素晴らしいレース、素晴らしい経験だった」と振り返り「また来年も戻って来たい」と語り、日本語で「アリガトウゴザイマス」と21歳の若者らしい笑顔で締めくくった。



表彰されるデクラン・トレザイス



個人総合首位の表彰を受けるゼイツ



個人総合の上位3名。アンドレイ・ゼイツ、アントニオ・ニバリ(アスタナ・カザクスタンチーム)、ウィリアム・イーブス(ARAスキップ・キャピタル)は順位が上がり、総合の表彰台も獲得した

総合優勝したゼイツは「天候は少しストレスだったが、力を合わせ、優勝を勝ち取ることができた」。展開に関しては「逃げた3名との差も開き、厳しいものであったが、チームメイトが追い上げてくれて、総合優勝をすることができた」と感謝を述べた。「日本に来られてとても幸せだ。明日の午後には帰らなくてはいけないけれど、レース主催者にお礼を言いたい」と笑顔を見せた。
ワールドチームに籍を置き、世界のトップレースを転戦する選手だが、普段はアシストに徹することが多く、自らの個人総合優勝は16年のキャリアの中で初経験だと言う。忘れられない経験になったことだろう。



沿道で声援を送る市民



総合優勝を決めたゼイツを拍手で迎える。ハイタッチをせがむ子どもも



先行する3名の選手を旗で迎える地域の方々

初開催ながら、一般公道を使い、周回コースではなく、ラインレースを展開し、熱いレースで観客を引きつけたツール・ド・九州。多くの観客を集め、コース内は拍手と声援でいっぱいだった。運営もすばらしいものだったと、関わった皆が口を揃えて語る。これからも開催を継続し、世界に認知されるステージレースへとグレードアップしてくれることを期待したい。



レース終了後、激戦を走った選手たちをねぎらい、ハイタッチで交流する市民たち。日本の新しいレースのカタチが見えたような気がする

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【結果】マイナビ ツール・ド・九州2023 第3ステージ大分(129km)
1位/デクラン・トレザイス(ARAスキップ・キャピタル、オーストラリア)2時間57分32秒
2位/ライアン・カバナ(キナンレーシングチーム、オーストラリア)+0秒
3位/ベンジャミン・ダイボール(ヴィクトワール広島、オーストラリア)+2秒
4位/岡本隼(愛三工業レーシングチーム、日本)+8秒
5位/ベンジャミ・プラデス・レヴェルテ(JCLチーム右京)+8秒

【個人総合成績】
1位/アンドレイ・ゼイツ(アスタナ・カザクスタンチーム、カザフスタン)9時間13分30秒
2位/アントニオ・ニバリ(アスタナ・カザクスタンチーム、イタリア)+25秒
3位/ウィリアム・イーブス(ARAスキップ・キャピタル、オーストラリア)+33秒

【ポイント賞】
1位/兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング、日本)41p
2位/山岳賞1位 ベンジャミ・プラデス・レヴェルテ(JCLチーム右京、スペイン)49p

【新人賞】
ウィリアム・イーブス(ARAスキップ・キャピタル、オーストラリア)

【チーム総合成績】
1位/EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム 27時間51分36秒

※( )内の国名は海外チーム在籍選手の国籍
画像提供:ツール・ド・九州2023実行委員会

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【ツール・ド・九州2023開催レポート】
小倉城クリテリウム
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