暑い夏場は、つい外を走るのが億劫になりがち。熱中症や脱水などの危険性を考えて、早朝や夜などの涼しい時間帯を選んで走る方も多いでしょう。安全面で考えると、確かにこれは賢明な判断です。 しかし時間だけでなく、“走る場所”を工夫している方は少な…

 暑い夏場は、つい外を走るのが億劫になりがち。熱中症や脱水などの危険性を考えて、早朝や夜などの涼しい時間帯を選んで走る方も多いでしょう。安全面で考えると、確かにこれは賢明な判断です。

 しかし時間だけでなく、“走る場所”を工夫している方は少ないかもしれません。私は夜走るのが嫌いなので、夏でも日中を好んで走ります。とはいえ暑さによる危険は皆さんと同じ。ですから走る際は、気温や練習内容などに応じて走る場所を変えています。特に暑い時期、よく練習に利用するのがトラックなどの周回コース。今回はその理由について、具体的な練習メニューと合わせてご紹介しましょう。

距離が短いことによる安全対策

 なぜトラックなど、距離の短い周回コースをよく利用するのか。その理由は早朝や夜に走るのと同様、暑い時期に起こりがちなトラブルの回避にあります。

 ランニング時はもちろん、買い物などの外出から就寝中でも、熱中症や脱水などが起こります。そのため、暑い時期は水分補給が重要。まして走ることで大量の汗をかくランナーは、より多くの水分(厳密には塩分も)を補給しなければいけません。水分不足は場合によっては倒れてしまうだけでなく、練習時のパフォーマンス低下にも繋がります。

 では、どのようにして走りながら水分を補給するのか。おそらく最初に思いつくのは、水分をボトルなどで持ち運んで走る方法でしょう。実際、ボトルを入れられるポーチやバックパックを利用し、走っているランナーをよく見かけます。もちろんこれも1つの方法ですが、例えばスピード練習などには向きません。ボトルの重さがフォームの崩れなどを引き起こすほか、本来のスピードを出し切れない可能性があるためです。

 そこでオススメなのが、レースの給水所のように、必要な際にだけ水分を取って補給する方法。周回コースであれば何度も同じ場所を通るので、これが可能になります。しかも走っている際は手ぶらですから、走りを妨げるものはありません。特に400mトラックのような短い距離では、とても細かに水分補給が可能。常に自身の身体状態へ気を配りつつ、何か違和感があればすぐに給水できます。

 なお、以前に利用した陸上競技場では、トラックのすぐそばに涼しく保たれた冷却室が設けられていました。給水だけでなく休憩の取りやすさやその環境という意味でも、トラックでの練習はとてもオススメです。

 もちろんトラックだけでなく、近所の公園などでも良いでしょう。公園には木々があり、木陰に水分を置いておけばトラックと同じように給水・休憩環境が整います。あるいは自宅を拠点として、見通しの良い歩道コースを作ってみる。私は自宅周辺で、おおよそ400m・600m・1000m・1500mの距離が取れるコースを見つけています。

仲間と走る際にはぐれにくい

 暑さでなかなか練習に身が入らないという方は、ぜひ仲間を誘ってみてください。仲間と走るといえば、LSDやジョギングなど長い距離をイメージする方が多いかもしれません。しかしトラックなどで行う練習も、実は仲間との練習に向いています。

 具体的な練習方法は後ほど少しご紹介しますが、例えばスピード練習。仲間と走る際には、どうしても走力の違いを気にされる方が多いのではないでしょうか。私もよく知り合いを練習に誘うのですが、「自分ではついていけないから」「足手まといになってしまうのではないか」などネガティブな言葉をよく受けます。

 しかし心配無用。周回コースでは、たとえ遅れても常にお互いが見えています。そのため、お互い“誰かと一緒に走っている”というモチベーションは維持しやすいでしょう。

 また、遅れたところで短い距離を周回しているわけですから、相手を待たせる、あるいは待つことも不要。さらに練習内容を工夫すれば、走力に関係なく、お互いのレベルで一緒に走り続けることは十分に可能です。

オススメの練習メニュー

 それでは最後に、トラックで行うオススメの練習メニューをご紹介しましょう。ランニングの練習といえば、ペース走やビルドアップ走、インターバル走などご存じの方は多いはず。ここでは、そういった一般的な練習メニューではなく、よりトラックのような周回コースに特化したオススメの練習、また“仲間と走る”ための工夫などについて取り上げておきます。

<時間設定で走るインターバル走>

 インターバル走をトラックで行う際、レスト(繋ぎ)を工夫してみましょう。通常、例えば1000m走って200mをジョギングで繋ぐなど、常に進み続ける形で行う方が多いはず。そうなると、遅い人がどんどん遅れていってしまいます。

 そこでオススメなのが“時間設定”という方法。例えば1000mのインターバル走なら、1本あたり5分半などと決めます。1本目のスタートから5分半後に2本目がスタート……、つまり4分半で走った人は1分のレスト、5分で走った人は30秒のレストで走り続けるのです。これなら、よほど走力に開きがない限り、常にスタートを一緒に行えます。スタートする際に誰かがいるだけで、「よし、やるぞ」という前向きな気持ちが芽生えるでしょう。

<負荷の高いバウンディング>

 バウンディングという練習をご存知でしょうか。着地した際に生じる地面からの衝撃に反発し、飛び跳ねるように移動する運動です。よく短距離向きの練習として行われますが、私はマラソンにもオススメします。なぜなら“走る”という運動では、距離に関わらず、常に地面への反発が生まれているから。そしてこの反発によって身体は前に進みます。

 バウンディングは、着地した際の反発を強制的に大きく生み出します。すると必然的に反発によって身体が進むことを感じ取れるでしょう。いかに効率的に反発を生み出し、推進力に変えていくか。これが身に付けば、より速く、楽に走れるようになるはずです。ただしバウンディングは、足への負担が大きな練習メニューとなります。そのため、アスファルトよりタータントラック等の方が良いでしょう。

<動画を撮影しながらペース走>

 最後にオススメしたいのがペース走。周回コースは距離が決まっているため、一定ペースで走り続けるペース走に向いています。しかし、ここに“動画撮影”を加えると、より効果的な練習になるでしょう。

 まずどこか一定の場所に、スマートフォンやビデオカメラを設置します。そして録画状態にしたまま、ペース走を開始しましょう。練習の中身は、通常のペース走と同様。ただし、できれば目標となるレースペースを意識してください。これによって、後から自分のランニングフォームを見直すことが可能。特に「目標ペースで走ったとき、どれだけフォームを維持できているか」を確認することは、改善点を見つけるうえで非常に有効です。周回コースでは何度もカメラの前を通りますから、この動画撮影によるフォームチェックに最適と言えるでしょう。

 市民ランナーの中には、トラックのような短い周回コースを走った経験がない方がいるかもしれません。例えば皇居でも周回5kmはありますし、ここでご紹介したような練習メニューには不向きです。理想は1km以下、できれば見通しの良い場所をオススメします。安全に、かつ効果的に練習するために、ぜひトラック練習を取り入れてみてください。

[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。また、ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表
【HP】https://www.run-writer.com

<Text:三河賢文/Photo:Getty Images>