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アマチュア野球名物記者ドラフト対談〜隠し玉編

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 スポーツ報知の加藤弘士氏と『下剋上球児』著者の菊地高弘氏という、名物記者によるドラフト対談。最後はふたりが推したい"隠し玉"的選手について、激論を交わした。



瀬田工業・平田大樹(写真左)と聖カタリナ学園・河内康介

【藤川球児クラスの逸材】

菊地 ドラフト上位候補にはならないかもしれないけど、加藤さんが今年のドラフト戦線で推したい、隠し玉的な選手はいますか?

加藤 私は寺地隆成(明徳義塾高)ですね。今夏のU−18ワールドカップでは1番バッターでご記憶の方も多いと思います。

菊地 本職はキャッチャーですが、ファーストを守ってバイプレーヤーとして光っていましたね。

加藤 代表監督が明徳義塾の馬淵史郎監督ですから、最初は「馬淵さんが監督だからメンバーに入ったのかな?」などと邪推してしまったんですよ。フタを開けてみたら、とんでもなかったですね。バッティングはシュアだし、誰よりも大きな声を出してチームを引っ張っていました。台湾では「チームみんなで小籠包を食べにいこう」という日がありました。服装は自由だったんですけど、ほとんどの選手がチームのポロシャツを着ているなか、寺地だけ白のタンクトップを着てきて(笑)。そんなユニークさも、チームをひとつにする要因だったと思います。

菊地 最後はなくてはならない存在になっていましたからね。

加藤 明徳義塾だから高知とか西日本出身だと思ったら、東京の錦糸町出身なんですよ。スカイツリーのふもとで育っていて。「ウチの会社(スポーツ報知)、両国だよ。隣駅だね」なんて話もしました(笑)。

菊地 僕としては、東京出身の選手が明徳義塾の環境で3年間を送っていること自体、尊敬してしまいます。ご存知の方も多いでしょうが、明徳義塾の敷地は谷底の僻地にあって一部の人間から「明徳村」と呼ばれているんです。周囲に街灯がないので、「夜逃げができないため昼逃げになる」という「明徳野球部あるある」があるくらいで(笑)。

加藤 すごく強いハートを持った選手だねぇ(笑)。本当に明るいキャラクターなので、プロでも元気にやかましくプレーしてもらいたいですね。菊地さんは、推しの選手は誰ですか?

菊地 僕は河内康介(聖カタリナ学園高)です。この前、取材に行かせてもらって度肝を抜かれました。僕のなかで今年の高校ナンバーワン右腕は彼だと思っています。というのも、ピッチャーとしての好みがドンズバだったので(笑)。

加藤 ドンズバだった!(笑)

菊地 常廣羽也斗(青山学院大)にも通じるところがあるんですけど、長身痩躯でしなやかな腕の振りから、最後に「ピチッ!」と指にかかる。ストレートが漫画みたいにキャッチャーのミットを下から押し上げるんです。ハマった時のストレートは藤川球児さん(元阪神ほか)クラスになるのでは? と思わせるほどすばらしいボール。近年の高校生でこれほどのストレートを投げ込むピッチャーにはお目にかかれませんでした。取材中、ずっと鳥肌立ちっぱなしでした。

加藤 えぇ〜、今までたくさんのいいピッチャーを見てきた菊地さんが、そこまで言うんだ!

菊地 びっくりしました。聞いたら、今夏の愛媛大会が終わってからさらによくなったみたいです。全12球団から調査書が来ているそうです。評価は分かれているようですが、僕としては2位とか、上位指名があっても全然おかしくないと感じています。

【滋賀に潜む極細版ギータ】

加藤 育成か、支配下か......という微妙なラインの選手で言うと、私は早坂響(幕張総合高)に期待しているんです。

菊地 あぁ〜、すっかり話題になりましたね。

加藤 まだ投手歴の浅いピッチャーだったのが、夏には150キロ台の強いストレートを投げて注目されました。彼も夏の大会が終わったあとにコンディションを整えて、すごくいいボールを投げているんです。現在11球団が調査書を求めています。春先の段階では「育成指名じゃないか?」という感じだったのが、最近スカウトに聞くと「育成では獲れないんじゃないか?」という人もいて。

菊地 夏にかけて、どんどんピッチャーらしくなっていった印象です。

加藤 そう。それだけじゃなくて、プロの世界で体をつくっていけばまだまだボールは速くなりそうです。ここまで伸びるなんて、信じられないでしょう?

菊地 幕張総合という高校自体、高校野球ファンには馴染みが薄いですよね。

加藤 吹奏楽部の名門ですから(笑)。野球部はタワマンが建つなかで練習しています。好奇心旺盛でアイデアマンの柳田大輔監督との出会いも大きかったのでしょうね。どんな野球人生を歩んでいくのか楽しみです。

菊地 僕も隠し玉的な選手をひとり紹介させてください。滋賀に平田大樹(瀬田工高)という外野手がいまして、僕は「極細版ギータ」と呼んでいます。

加藤 「極細版ギータ」! ということは少しスリムなのかな?

菊地 そうなんです。柳田悠岐(ソフトバンク)を彷彿とさせる豪快なスイングをするんですが、その腕がガリガリに細いんです(笑)。今夏は181センチ、70キロだったと聞いていたんですが、夏場に体重が減ってしまったらしく今は67キロだそうです。高校生野手のドラフト候補で、身長が180センチ以上あって体重が60キロ台って近年なかったと思うんですけど。

加藤 そうめんばかり食べているのかな(笑)。

菊地 でも、そこも彼の伸びしろだと思うんです。足は速いし、肩は強い、いわゆるアスリート型外野手。昨秋にコロナに罹患して、髄膜炎を併発したこともあって秋から春にかけて試合にほとんど出られなかったんです。今夏はスカウトが勢ぞろいして視察に訪れていたんですが、野球ファンの知名度はほとんどない原石です。今は極細版ギータでも、体ができてくればとてつもない化け方をするかもしれません。

加藤 和田康士朗(ロッテ)の独立リーグ時代を思い出しますね。いやぁ、あらためて10月26日は運命の扉が開く日ですね。

菊地 野球界の歴史が動き、地響きが聞こえてくる日です。スポーツ紙もドラフト当日は大変ですよね。

加藤 一生忘れられないのは、2011年ドラフト会議。このネット社会でもはや隠し玉なんかいないと思っていたら、日本ハム7位で大嶋匠(早稲田大ソフトボール部)が指名されて......。ギャーッ! と発狂しました。顔写真がないから、明日の選手名鑑がつくれない......って。すぐさま所沢まで飛んで、なんとか写真を撮ることができました。今年もソフトボール部とか、軟式野球部とかあるかもしれないですよね。そんなサプライズ指名もお待ちしています!

菊地 ドラフト1位から隠し玉が発掘される下位指名まで目が離せないですね。ドラフト当日を楽しみに待ちましょう!

加藤弘士(かとう・ひろし)/1974年4月7日、茨城県水戸市生まれ。幼少期は鍵っ子で近所の茨城県営球場にて高校野球を観戦して過ごす。小4だった84年夏、木内幸男監督率いる取手二の全国制覇に衝撃を受ける。茨城中、水戸一高、慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、97年に報知新聞社入社。「報知高校野球」の広告営業などを経て、2003年からアマチュア野球担当記者。アマチュア野球キャップ、巨人、楽天、日本ハム、西武の担当記者を務め、14年から野球デスク、20年からはデジタル編集デスク。9年間のデスク生活を終え、今年から編集委員として現場復帰。スポーツ報知公式YouTube「報知プロ野球チャンネル」のメインMCも務める。著書に「砂まみれの名将 野村克也の1140日」(新潮社)。趣味は昭和プロレスの考察

菊地高弘(きくち・たかひろ)/1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数