【性質が異なるパリロンシャンの馬場】 現地時間10月1日、フランス・パリ近郊のパリロンシャン競馬場で、欧州芝2400m路線の最高峰、GI凱旋門賞が開催される。 今年は、日本からはただ1頭、スルーセブンシーズ(牝5歳)が参戦する。GI勝ちこそ…

【性質が異なるパリロンシャンの馬場】

 現地時間10月1日、フランス・パリ近郊のパリロンシャン競馬場で、欧州芝2400m路線の最高峰、GI凱旋門賞が開催される。

 今年は、日本からはただ1頭、スルーセブンシーズ(牝5歳)が参戦する。GI勝ちこそないものの、この春にGIII中山牝馬S(中山・芝1800m)を勝利し、6月のGI宝塚記念(阪神・芝2200m)ではイクイノックス(牡4歳)に迫る2着。クビ差はこの1年でイクイノックスが最も迫られた着差で、参戦することに恥じない成長曲線を描きながらここへと駒を進めてきた。



凱旋門賞に向けて調整を進めるスルーセブンシーズ

 父ドリームジャーニーは、勝ちに等しかった2012年を含めて、2年連続で凱旋門賞2着となったオルフェーヴルの全兄。そのDNAも受け継がれているとすれば、楽しみも尽きない。
 
一方で、9月27日に行なわれたスルーセブンシーズの共同会見の席では、オンラインで参加した海外ジャーナリストから、こんな疑問が呈された。

「日本調教馬による凱旋門賞制覇は日本競馬サークルの悲願であるのに、なぜイクイノックスをはじめとしたGI級の参戦が今年はないのか」

 スルーセブンシーズ陣営にしてみれば、他陣営の事情について問われても困ってしまうところだが、確かに昨年は、ドウデュース、タイトルホルダー、ディープボンドといった、日本国内で結果を出している一線級が参戦した。

 イクイノックスは今年3月のGIドバイシーマクラシック(メイダン・芝2410m)で鮮烈な世界デビューを果たし、目下のところ世界ランキング1位(IFHA/国際競馬統括機関連盟の「ロンジンワールドベストレースホースランキング」)の評価を受けている。これまで凱旋門賞に挑戦してきた日本馬たちの顔ぶれを考えれば、世界ランキング1位の馬が悲願の達成に向けて参戦しないことに物足りなさを感じる、というのは理解できるところだ。

 大きな要因として考えられるのは、圧倒的に性質が異なるパリロンシャンの馬場。とりわけこの3年は、他の欧州調教の有力馬でも苦戦するところが見られたような、極端な重馬場が続いた。この時期のパリは天候が渋りやすく、馬場はてきめんにその影響を受けやすい。

 これを理由のひとつとして、ディープインパクトのラストクロップで、アイルランド調教馬として英ダービー(エプソム・芝2420m)を勝利したオーギュストロダン(牡3歳)らも、今年は参戦を見送っている。さらに、ドバイなどの国際招待競走と異なり、遠征経費の負担も大きい。円安が進む昨今、勝てば勲章だけでなく実入りも大きいが、例年以上にリスクは伴う。

【ジャパンCで報奨金を狙う】

 さらに関係者などへの取材を進めてみると、イクイノックスについては後ろ向きな理由で凱旋門賞を回避したわけではなく、秋の国内出走に前向きなことが理由であることが見えてきた。



凱旋門賞を回避したイクイノックス

 イクイノックスは9月28日に美浦トレセンに帰厩。GI天皇賞・秋(東京・芝2000m/10月29日)からGIジャパンカップ(東京・芝2400m/11月26日)へと向かうプランがすでに明らかにされている。この2つのうち、よりメインターゲットにしているのはジャパンCとのことだ。その理由は、ドバイシーマクラシックを勝ったことで、報奨金の権利を得たことが挙げられる。

 ジャパンCは、海外の一流馬の参戦を促すため、24ある海外の指定競走を勝った馬がジャパンCに出走する際、着順に応じたインセンティブとして報奨金の交付が設定されている。これは日本調教馬も対象になっており、外国調教馬と額(1着300万ドル、4着以下は20万ドル)は違うものの、イクイノックスが勝てば200万ドル(約3億円)、4着以下でも10万ドル(約1500万円)を、賞金やほかの付加賞とは別に獲得することができる。

 今年から1着賞金が5億円に増額され、さらに約3億円の報奨金。つまり、勝てば合計で約8億円が得られるのだ。クラブ馬という"金融商品"であることを考えれば、利益の最大化として当然の選択だ。

 そして天皇賞・秋を使うことになったのは、宝塚記念(6月25日)の後に以前のような消耗が見られなくなってきたことから、「ジャパンCを大目標に据えつつ、その前後で使えるレースを」という背景があるとのことだ。むしろ完成の域に近づいたことで、「ロマンよりも実利」を取りにいった形だ。バックアップするノーザンファームとしても、闇雲に挑戦するのではなく、より適性を考慮して結果の精度を高めていく、という方向性の表れでもあるのだろう。

 となれば、同じようにノーザンファーム傘下と考えれば、凱旋門賞におけるスルーセブンシーズも適性や能力を見極めた上での参戦であるはず。

「以前に乗った時よりも成長しているな、と思いました。宝塚記念でイクイノックスに次ぐ2着となった走りからも、日本ではGⅠレベルになっています。凱旋門賞に挑戦するのに相応しい馬です」

 これは、9月27日朝の追い切りを見守ったクリストフ・ルメール騎手の弁。今回は天気もよく、ここ数年のような馬場の悪化を免れそうな点も追い風だ。

 同じように下馬評が決して高くなかったナカヤマフェスタも、キャリア最高のパフォーマンスを発揮して2着(2010年)となった。同じステイゴールドの血を持つだけに、"瞬間最大風速"を吹かせられれば、世界を驚かせることができるだろう。