【攻撃の幅、組み立ての変化】 東京・国立代々木競技場で開催されているバレーボール女子の「FIVBパリ五輪予選/ワールドカップバレー2023」で、日本は開幕から4連勝を飾った。しかも、失ったセットはゼロ。完璧とも言っていい前半戦を終え、B組ト…

【攻撃の幅、組み立ての変化】

 東京・国立代々木競技場で開催されているバレーボール女子の「FIVBパリ五輪予選/ワールドカップバレー2023」で、日本は開幕から4連勝を飾った。しかも、失ったセットはゼロ。完璧とも言っていい前半戦を終え、B組トップを快調にひた走る。

 五輪切符の行方は、同じく全勝をキープしているトルコとブラジルとの"三つどもえ"の争いになりそうだ。9月22日から始まる最後の3連戦を前に、日本の好調の理由を探ってみよう。



バレーW杯で開幕4連勝を飾り、笑顔の女子バレー日本代表の選手たち

「あれ? いつもとちょっと違うぞ」

 初戦のペルー戦で日本のプレーを見た人の中に、そう思った人は少なくなかったはずだ。攻撃の幅、組み立てが7月までのネーションズリーグの時とは明らかに変わっていた。

 象徴的だった場面がある。第1セット、7-3でペルーのサーブを日本がレセプションした後の攻撃だ。リベロ福留慧美(デンソー)が見事なAパスをセッター関菜々巳(東レ)に返球。そこから、コートの幅を目いっぱいに活用した、流れるような攻撃が始まった。

 ミドルブロッカー山田二千華(NEC)がライト側にブロード攻撃を仕掛けるべく走り出す。前衛のエース古賀紗理那(NEC)は、レフトからのスパイクを放つために助走を開始。後衛にいたオポジット林琴奈(JT)はセッター後方からのバックアタックに備えて切り込み始めた。同じく後衛だった井上愛里沙(日本バレーボール協会)は、パイプと呼ばれるセッター前方のコート中央エリアからのバックアタックへ動いていた。

 相手ブロッカー3人に対し、日本のアタッカーは4人。それも、ブロード攻撃の山田からレフトの古賀まで、コート幅9メートルを最大限に活用した攻撃だった。

 相手のライト側のブロッカーは、レフトの古賀に張りついて動けない。ミドルブロッカーとレフト側のブロッカーはセッター後方の林と山田に意識がいっていた。関が選択したのは、コート中央からの井上のパイプ。相手ブロックをあざ笑うかのように完全にノーマークで放ったバックアタックは、当然のように日本の得点になった。この場面までに、日本のライト側から井上や林が得点を挙げていたという布石も効いた。明らかにペルーの守備は日本の攻撃に対応できていなかった。

 この試合では「真ん中からライトゾーンの攻撃を使うことを意識していた」と関は言った。その理由は明確だった。

「日本はレフトの攻撃がすごく多い。相手チームもレフトを警戒してきているし、レフトは1番打数が集まるところなので、相手チームもディフェンスの練習をたくさんしている。いい攻撃をしたとしても、ディフェンスではめられやすいので、ライト側の攻撃を意識している」

【克服しつつある2つの弱点】

 これまでの日本の攻撃の弱点は、主に2つあった。ひとつは、攻撃枚数が少なくなってしまうこと。特にセッター前衛時に浮き彫りになり、9メートルの幅が使えなくなることにもつながっていた。もうひとつは1ローテ当たりの攻撃で、持っている手札が少なかったこと。わかりやすく言えば、「ワンパターンに陥りがちだった」ということだ。

 今の日本にはそこからの脱却が見て取れる。セッターの対角に入る林は、後衛でも常にバックアタックで攻撃に参加するようになった。同じライト側を使った攻撃の中でも、多数のパターンが用意されていた。セッターの真後ろにミドルブロッカーが攻撃に入れば、後衛にいる林はバックライトの位置からバックアタックを放ったり、井上や古賀が後衛にいる際に入るバックアタックの位置も複数あったり、というように。

 現代バレーにおいて、相手守備を突破するためには、相手ブロックの3人を上回る4人の攻撃枚数を確保することと、その4人全員が9メートル幅を活用して違う位置から攻撃を仕掛けることが必要とされる。今の日本には、その形ができつつある。

 さらに、チームとしての総合力の高さも表れていた。第2戦のアルゼンチン戦では、エース古賀が苦しい状況で打たざるを得ないケースが多く、スパイク効果率は極めて低かった。それでも、井上がスパイクで17得点し、失点はゼロ。60%超のスパイク効果率をマークして攻撃を引っ張った。

 第3戦のプエルトリコ戦は、関に代わって出場したセッター松井珠己(マリンガ)が流れを変えた。高さがあり、アンテナまでしっかりと伸びるトスを両サイドへ供給し、攻撃を蘇らせた。先発での出場がない石川真佑(フィレンツェ)や和田由紀子(JT)も強烈なサーブやスパイクで、出番があれば着実にチームに貢献している。ブロックとレシーブの関係もよく、ベストディガー部門で4位につける福留を筆頭に、相手の攻撃を簡単に決めさせない守備力も光る。

 今の日本は、この数年の中で最も完成度が高いチームと言っても過言ではない。

 焦点は、眞鍋政義監督が「ヤマ場」と表現する、9月22日からの最後の3連戦をいかに戦うか、だ。世界的なアタッカーであるブリット・ヘルボッツが来日していないベルギーには確実に勝ちたい。その上で、パリへの2つの椅子をトルコ、ブラジルと争うことになるだろう。

 ネーションズリーグを制したトルコ、百戦錬磨のブラジル相手には、これまでの4戦のような戦いにはならないはずだ。当然、日本の攻撃の選択肢を狭めるべくサーブでさらなるプレッシャーをかけてくるだろうし、ブロックの圧力もこれまでの比にならないだろう。トルコの二枚看板であるメリッサ・バルガスとエブラル・カラクルト、ブラジルのガブリエラ・ギマラエス(通称ガビ)やタイーザ・メネセスといった、高い攻撃力を持つ選手を封じるのも簡単ではない。

 しかし、今の日本ならそれさえもやってのけるかもしれない。それだけの期待を抱かせるチームに仕上がっている。強く、たくましく進化を遂げた日本には、どんな結末が待っているだろうか。