どうなるパリ・サンジェルマン(後編) 世界屈指のトップスター3人を擁していたパリ・サンジェルマン(PSG)。しかし、その…
どうなるパリ・サンジェルマン(後編)
世界屈指のトップスター3人を擁していたパリ・サンジェルマン(PSG)。しかし、そのチームは消えてなくなってしまった。今回はかろうじてキリアン・エムバペを引き留めているが、その彼も来夏にはほぼ出て行くことは間違いないだろう。
「エムバペは気に入らない選手を追い出すことに成功したが、その結果、チームは弱くなるという矛盾に陥った」と前編に書いたが、これは事実である。昨シーズンまでのPSGは崩壊したと言っていい。リオネル・メッシ、ネイマールのほかにもマウロ・イカルディ、アブドゥ・ディアロ、レアンドロ・パレデス、ジョルジニオ・ワイナルドゥム、レナト・サンチェスなど、レンタルを含めて実に20人の選手がこの夏パリをあとにした。
しかし、私は決してPSGの今後を悲観してはいない。それどころか、新しくなったPSGを高く買っている。
これまでのPSGはサッカーチームというよりは「ショー」のようなチームだった。チームがカタール資本になって以来、煌びやかなスターたちが名を連ねた。デイビッド・ベッカム、ズラタン・イブラヒモビッチ、エディンソン・カバーニ、ネイマール、メッシ......。
湯水のように金を使い、次々に新しいスターを連れてくるので、選手ひとりひとりを大事にしてこなかった。例えばGKケイロル・ナバスを獲得した2年後にジャンルイジ・ドンナルンマを獲得するというようなことも平気でやっていた。選手だけではない。メッシを連れてきて、ネイマールを残留させるという離れ業をやってのけたスポーツディレクターのレオナルドも、その功績を評価することなくクビを切った。
揉め事も絶えなかった。「俺にボールが回ってこない」「あいつがボールをよこさない」......。試合後には毎回、そんな不協和音が聞こえてくる。PKを誰が蹴るかを、これほどピッチで言い争うチームも珍しかっただろう。特にカバーニ対ネイマール、ネイマール対エムバペの諍(いさか)いは世界中に知れ渡った。スターばかりを集めたら、こうなることは目に見えていた。
【新たなフィロソフィー】
監督も4年で3人が入れ替わった。トーマス・トゥヘル(現バイエルン)もマウリシオ・ポチェッティーノ(現チェルシー)も決して悪い監督ではないが、高額選手を集めているだけにすぐに結果を出すことが求められ、そのプレッシャーは半端なかった。メッシは好きなようにプレーさせねばならず、ネイマールはどんな時も使わなくてはならず、エムバペは何にでも口を出してくる。
『フランスフットボール』誌のインタビューでエムバペが「このチームはバラバラだ。ここではチャンピオンズリーグ(CL)は勝てないかもしれない」と言ったのも、決してウソではなかったと思う。
PSGの目標はCL優勝だ。しかしいくらスターを集めても、結果は出なかった。そこでこの夏、PSGは新たなフィロソフィーを持ってチーム作りを始めている。名前だけではない、本当に勝てるチームを目指して。
その中心となるのは新監督ルイス・エンリケだ。

今季からパリ・サンジェルマンを指揮するルイス・エンリケ監督 photo by Reuters/AFLO
エムバペの去就がわからず、来年以降もどうなるかわからないPSGは、エムバペがいなくても勝てるチームを作ろうとしている。若手を育てるのがうまく、ロッカールームもうまくまとめることができるルイス・エンリケを連れてきたのは正解だったと思う。
新監督は、スーパースターではないが確実に実力のある選手を集めている。ウスマン・デンベレ(←バルセロナ、フランス代表、26歳)、ランダル・コロ・ムアニ(←フランクフルト、フランス代表、24歳)、マルコ・アセンシオ(←レアル・マドリード、スペイン代表、27歳)、ミラン・シュクリニアル(←インテル、スロバキア代表、28歳)、リュカ・エルナンデス(←バイエルン、フランス代表、27歳)。
また、これからのことを見据えて、若く優秀な選手も多く集めている。マヌエル・ウガルテ(←スポルティング、ウルグアイ代表、22歳)、イ・ガンイン(←マジョルカ、韓国代表、22歳)、シェ-ル・ンドゥール(←ベンフィカ、イタリアU21代表、19歳)、ゴンサロ・ラモス(←ベンフィカ、ポルトガル代表、22歳)、シャビ・シモンズ(←アイントホーフェン、オランダ代表、20歳)。
【エムバペも勝手なことはできない】
新加入ではないが、PSGの下部組織出身のウォーレン・ザイル・エメリも今後、出番が増えそうだ。昨年なんと16歳でトップチームに昇格し、すでにゴールを決めている才能の持ち主だ。
フランス人を多く獲得したのもよかったと思う。同じ言葉でしゃべれる集団がいるのは大事なことだ。「スター」である必要がない彼らは、エムバペが「PKを蹴りたい」と主張すれば、言い争わずに彼に蹴らせるだろう。
ただし、エムバペも今年はそうそう勝手なことはできないはずだ。ルイス・エンリケが許さないだろうし、あまりイメージを損なうと、レアル・マドリードが彼の獲得をためらう危険性もある。
こうしてPSGはここ数年で初めて、本物のチームになろうとしている。
ただしすぐに結果を出すのは難しいだろう。新しい監督、新しい選手、新しいフィロソフィー。これほど大きく変わったチームに時間が必要なのはサッカー界の常だ。今はまだ建設中というところだろう。だがそれがうまく軌道に乗った時、どんなチームを見ることができるのか楽しみである。
新しくなったのはチームだけではない。PSGはポワシーに3億ユーロ(約480億円)をかけて新しいトレーニングセンターを建設した。74ヘクタールの広大な敷地に、17のコート、ジム、プール、シアタールーム、選手が泊まれる宿泊施設にレストラン、メディカルセンターを完備。今後は3000人収容のスタジアムも建設予定だ。
新しいPSGと古いPSGの境目はジャパンツアーであったと思う。日本でPSGは1勝もできなかったが、ネイマールもエムバペもいないチームだった。そこから新たな一行が書き始められたのだと、私は信じている。