日本代表は2日、FIBAバスケットボールワールドカップ2023(W杯)の最終戦でカーボベルデに勝利し3勝2敗とW杯を初の勝ち越しで終えた。そして、1976年のモントリオール大会以来、48年ぶりに自力でパリ五輪の出場権を勝ち取った。 ◆「沖…

日本代表は2日、FIBAバスケットボールワールドカップ2023(W杯)の最終戦でカーボベルデに勝利し3勝2敗とW杯を初の勝ち越しで終えた。そして、1976年のモントリオール大会以来、48年ぶりに自力でパリ五輪の出場権を勝ち取った。

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■ホーバスHC「勝った時のみんなの顔を見るのが一番好き」

8月25日に開幕した今大会では、日本は初戦のドイツ戦で敗れたものの、第2戦のフィンランド戦で見事ヨーロッパ勢から初勝利を挙げて盛り上がりを見せた。残念ながら第3戦のオーストラリア戦では敗れたが、確かな成長を感じさせた。

17〜32位の順位決定戦に回った日本は、8月31日に行われた第1戦ベネズエラ戦でまたも逆転勝利を収めて、諦めない姿勢とさらなる成長を見せ付けた。

今大会に出場したアジア6カ国の中で1位の成績を収めたチームがパリ五輪への切符を手にする決まり。アジア1位につけていた日本は、パリまであと1勝と迫った2日、順位決定ラウンド第2戦のカーボベルデとの一戦に臨んだ。

試合開始1分、ベネズエラ戦のMVP比江島慎からパスを受けた渡邊雄太がダンクを決めると、会場は大いに盛り上がった。さらに、前半だけでスリーポイントシュート4本を放ちすべて沈めた富永啓生の活躍もあり、50-37と前半を13点リードし折り返す。3クォーター、さらに点差を広げた日本は、73-55のスコアで最終クォーターを迎えた。

しかし日本は4クォーターに入ると6分以上得点することができず、その間にカーボベルデが得点を重ねて、残り時間1分の場面では3点差にまで迫られた。なんとしても負けるわけにはいかない日本は残り50秒でこの試合フル出場のジョシュ・ホーキンソンがシュートをねじ込み、さらにスリーポイントシュートも成功させて勝負あり。80-71でなんとか勝利した。

試合後の会見でトム・ホーバス・ヘッドコーチ(HC)は、「第4クオーターは、疲労から大波乱が起きるところだったが、ありがたいことにそれを避けることができた。勝って我々の目標を達成できたのは素晴らしい」と振り返った。

ホーバスHCは試合を経るごとに成長していくチームについて「私が一番コーチングの好きなところは、こういうゲームに勝って、例えば五輪でも(女子代表が)銀メダルを獲得して、目標を達成したみんなの顔を見れること。もう本当に最高です。でも準備が大変。長期間、毎日いろいろやって、最後の最後に大きな試合を勝って、そして見る、みんなの顔、本当にあれが一番好きだと思う。 だから、このチームはみんな仲がよい」と笑顔で語ってくれた。

試合中の厳しい印象が強いホーバスHCだが、とても優しくあたたかい眼差しでも選手たちを見つめている。その瞳には目標を達成した選手たちへの愛情と信頼、喜びが溢れていた。

■「HCの言葉一つで今まで以上の力が出せる」

この日、日本代表は前半戦だけでスリーポイントシュートを8本放ちうち6本を沈め、スリーポイント成功率は驚異の75%を記録。試合を通して22得点と勝利に貢献した富永も「チームの雰囲気はすごくよかった。僕は若手の方だが、先輩はすごく話しやすくて、バスケットのこと以外も話せた。コミュニケーションがすごくよかったと思うので、それがチームワークの強さであり、戦っていけた秘訣だと思う」と、振り返った。

そんなチームを、そして各選手をここまで成長させ、最高の雰囲気を作り上げたのは他でもない、ホーバスHCである。キャプテンを務めた富樫勇樹は、「トムさんはすごい。日本バスケに愛があり、チームを作る上で、選手に自信を付けてくれる。女子を銀メダルへ導いた人、言葉に重みがある。一つの言葉で今まで持っている以上の力が出せる」と語った。

パリ出場権を得られなければ代表を引退すると明言していた渡邊も、「勝手に言ったことだが、公に言った手前、引くことはできなかった。今回負けたら本当に最後だと思っていた。無事、まだ代表活動を続けることができそうでホッとしている」と、明るい表情を見せた。

48年ぶりに自力で掴み取った五輪への切符。ここから1年間、さらに成長が求められ、選手たちも五輪の舞台に立つための新たな戦いが始まる。

原修太は、今年4月に取材した際、代表に入りW杯を目指していることを明かしてくれた。そして悲願の舞台に立った。「合宿中は正直、メンバーに残ることで精一杯で世界を見れていなかった。想像もできていなかったが、いざ立ってみるとチームメートも相手も全員が速く動けて体も強くてシュートも入り、クオリティの高さを見せつけられた。この1年でもっともっと自分を追い込まないと、この舞台には帰ってこられない。決してネガティブな意味ではなく、あと1年ある。もっと日本チームに貢献できる選手になりたい」と、課題と収穫があった憧れの舞台を振り返り、来年、パリの舞台に立つという新たな目標へ向け、より一層の意欲を見せていた。

ホーバスHCは「これでパリに行くことができる。まだまだよくなると思う。こうした試合は、自分たちが向上できると証明する機会だ。若いプレーヤーがステップアップして(僕自身)エキサイトしている。この機会にとても感謝しているし、パリが待ち遠しい」とも語っていた。

原の言葉通り、あと1年ある。代表選手はこのあと所属チームへと戻り、10月からBリーグが開幕する。同時にパリを目指す選手たちの新たな成長と挑戦がはじまる。

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■著者プロフィール

木村英里(きむら・えり) ●フリーアナウンサー、バスケットボール専門のWEBマガジン『balltrip MAGAZINE』副編集長

テレビ静岡・WOWOWを経てフリーアナウンサーに。現在は、ラジオDJ、司会、ナレーション、ライターとしても活動中。WOWOWアナウンサー時代、2014年には錦織圭選手全米オープン準優勝を現地から生中継。他NBA、リーガエスパニョーラ、EURO2012、全英オープンテニス、全米オープンテニスなどを担当。