プレミアリーグ開幕から2試合目にして、今季初となる4人抜きの華麗なスーパーゴールを決めた三笘薫。相手陣地を切り裂き、世…

 プレミアリーグ開幕から2試合目にして、今季初となる4人抜きの華麗なスーパーゴールを決めた三笘薫。相手陣地を切り裂き、世界を沸かせ続ける彼の代名詞“ドリブル”の秘密は、川崎フロンターレ時代の独自練習法にあったという。

 そんな彼の原点に迫るべく、川崎フロンターレで監督を務めた風間八宏氏にインタビューを敢行。現在は、セレッソ大阪にて育成年代の指導にあたる名指導者は、当時を振り返り何を語るのか――。

――まずは、川崎フロンターレユースに携わった経緯を教えてください。

 私が川崎フロンターレの監督に就任した際に、当時強化本部長だった庄司春男さんや、フロンターレ前会長の武田信平さんらとともに話し合ったのが、いかに自分たちのチームで選手を育てるかでした。当時のフロンターレは、他チームと比べて競争力が強いわけではなく、ユースとプロのつながりもなかったので、育成面の改革が必要不可欠だったんです。そのため、監督就任の1年目からユースの合宿に顔を出して、目についた選手をプロの練習に呼んだり、試合をさせたりしながら、彼らを指導するようになりました。

 そんな経緯で、ユースのほうの改革に乗り出したんですが、まず最初に取りかかったのが、指導者たちに「止める」「蹴る」という概念を伝えること。当時在籍していた50人弱の指導者の全員にレクチャーしましたね。のちのち、それがチームの方針として根づき、脇坂泰斗選手や三好康児選手、板倉滉選手、田中碧選手、そして三笘薫選手といった選手たちが、その指導法で育っていったんです。

風間八宏氏

■選手の“目をそろえる”指導法

――三笘薫選手の著書『VISION 夢を叶える逆算思考』でも、三笘選手自身「U-12時代に一番よく練習したのは“止める”“蹴る”だった」と語っています。この「止める」「蹴る」とは、どのような考えなのでしょうか?

 グラウンド上の選手たちの“目をそろえる”ための指導法です。同じグラウンド上にいても、見えている景色は各個人で違います。それをそろえるためには、技術を定義づけることが必要でした。

 例えば、「自分の一番良い位置でボールを止めなさい」と教えるとき、その一番良い位置とは、具体的にどのような状態を指すのかを定義づける。そうやって選手たちに定義を教えたら、その次は「基準」を教えます。基準とは、正確に何回できるのか、どれくらいの速度でできるのかといった具体的な数値です。これらを積み重ねて、選手たちの目が揃うようになると、「このタイミングで動けば、中村憲剛からパスが出る」といった感じで、チーム全体で高度な連携ができるようになり、高スピードのサッカーができるようになります。

 はじめはなかなか理解されませんでしたが、トップ選手から下に徐々に浸透していき、最終的にユースの選手にも伝わるようになりました。ただ、私個人の功績ではなく、チーム全体でこの指導を継続し、徹底した結果だと思っています。

■止める=ボールを完全静止させること

――三笘選手の著書には、「フロンターレでは、止める=ボールを完全静止させること」とありました。

「止める」「蹴る」はサッカーの基本中の基本ですが、私が言う「止める」という状態は、「一度のタッチでボールがまったく動かない状態」というのが大前提です。そのうえで、止めた位置が「一番強く、一番遠くへボールを蹴られる位置」、さらには、「次のプレーで一番早くボールが運べる位置」でなければいけないと指導してきました。

 その意識を持つと、蹴ることを考えたとき、自分がしっかり蹴れる場所を把握し、そこにボールを止めないといけないということに気づきます。逆もまた然りで、この2つは相関関係にあります。なので、選手によっては蹴ることを最初に指導することもあります。その良い例が、大島僚太選手です。彼はキックの指導を受けたことで、ボールをしっかり止められるようになり、結果的に、試合中、相手にボールを取られなくなりました。

 そして、先にも述べたように、指導する際は、次のプレーまでどれくらいの時間がかかるのか、何メートル先までボールを蹴るのか、目標地点まで何秒で到達する必要があるのかといった基準も伝えます。そこまで突き詰めると、練習で習得した定義や基準を試合で再現すればよいので、正確でスピードがあるプレーができるようになりますし、試合でも慌てなくなるんです。

■「止める」「蹴る」を実践する三笘のプレー

――現在の三笘選手をご覧になられて、その教えをどこまで体現していると思われますか?

 実践できていると思います。彼が慌てたところを見たことがないですよね? なぜなら、彼は自分の場所を持っていて、そこで、しっかりとボールを止めているから。ボールをちゃんと止めることができれば、相手を見る余裕が生まれるので、冷静に次の動きを選べるんです。

 私から見て、三笘選手のドリブルのすごさが分かるポイントは、2つあります。まず1つ目は、自身の体とボールを離しても運ぶことができる。ここで言う、「運ぶ」というのは、“次のタッチでなんでもできる位置までボールを動かす”ことです。これまでの彼のプレーを見て分かるように、彼は、ボールをポンと蹴って出すような独特の“長いドリブル”を駆使していますよね? あれは、相手とスピード勝負をする運び方で、それがプレミアリーグでも通用しています。

 そんな彼のドリブルが警戒されるようになると、次は、2人を相手にする場面が増えました。つまり、これまでよりも選手が密集していて、ボールが出しにくくなる場面ですね。すると、彼は、今度は自身の体とボールを離さずに運ぶようになったんです。これが、2つ目のポイントです。

 相手の状況を見て判断し、この2つの運び方を使い分けられることが、三笘選手のすごさと言えます。この武器をもっと高い次元に持っていければ、さらなる活躍が期待できるでしょう。

かざま・やひろ
1961年10月16日、静岡県生まれ。清水商業高校時代に日本ユース代表として79年のワールドユースに出場。筑波大学在学時に日本代表に選出される。卒業後、ドイツのレバークーゼン、レムシャイトなどで5年間プレーし、89年にマツダ(現サンフレッチェ広島)に加入。97年に引退後は桐蔭横浜大学サッカー部、筑波大学蹴球部、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。2021年よりセレッソ大阪のアカデミー技術委員長に就任。

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