サッカー女子日本代表が女子ワールドカップ準々決勝まで勝ち進んだ。ラウンド16までの戦いと、ベスト8以降の道のりへ、サッ…

 サッカー女子日本代表が女子ワールドカップ準々決勝まで勝ち進んだ。ラウンド16までの戦いと、ベスト8以降の道のりへ、サッカージャーナリスト・後藤健生が目を凝らす。

■並べられたバス

 ゴール前にDFを並べて守備を固めることを「バスを並べる(停める)」と表現することがあるが、オーストラリアとニュージーランドで開催されている女子ワールドカップのラウンド16で日本代表(なでしこジャパン)と対戦したノルウェーは、身長170センチ台のまさに“大型バス”をゴール前に並べてきた。

 立ち上がりこそ、ボランチのイングリッド・シルスタット=エンゲンは守備時には最終ラインに入るものの、ボールを持っている局面では攻撃に出て4-3-3の形になる場面もあったが、ノルウェー・ベンチはすぐに「守りを固めるしかない」と決断したようで、その後は5バックが基本システムとなった。

 グループリーグ3戦目のスペイン戦では日本がポゼッションを諦めてゴール前を固めてカウンター攻撃に徹したが、ノルウェー戦では逆に対戦相手の方がポゼッションでの日本の優位を認めて守備を固めてきたのだ。

 ワールドカップの決勝トーナメントに入って、相手チームの方が日本を警戒して、「対策」を打ってくるのだ。初めて見る光景かもしれない。

■2011年との違い

 なでしこジャパンは2011年の女子ワールドカップ・ドイツ大会で優勝を飾っている。だが、あの大会はまさに「薄氷の勝利」の連続だった。

 準々決勝は開催国であり、また大会連覇を狙っていたドイツと対戦。日本はなんとか失点を防いでスコアレスのまま延長に突入し、延長後半の丸山桂里奈のゴールで競り勝った。続く準決勝はスウェーデンを3対1のスコアで破ったが、それにしても五分五分の勝負の中でよく3ゴールを決めて競り勝ったものだ。

 そして、決勝戦では日本は世界ナンバーワンの座を確立していたアメリカと対戦。ゲームを支配していたのは間違いなくアメリカだった。

 そのアメリカがアレックス・モーガンのゴールで先制したが、日本も81分に宮間あやがこぼれ球を押し込んで1点を返して延長に持ち込む。だが、ここで再びアメリカがアビー・ワンバックのゴールでリード。しかし、残り時間も少なくなった117分に、宮間のCKを澤穂希が決めた、あの奇跡の同点ゴールが生まれるのだ。

 サッカーという競技は番狂わせが多いスポーツだが、番狂わせには定番のパターンがある。最も多いのはスコアレスのまま推移して、残り時間が少なくなった時点で弱者側が得点して逃げ切るパターンだ。あるいは、開始直後に弱者側が得点し、その“虎の子の1点”を守り切って逃げ切るパターンもよく見かける。

 だが、ゲームを支配している強者側が2度先行して、2度とも追いつかれるというのはなかなかありえない得点経過である(2022年の女子アジアカップ準決勝の日本対中国戦では、あのアメリカ戦とそっくりの形で日本がPK戦で敗れたが)。

 いずれにしても、2011年の優勝は“薄氷の勝利”または“奇跡の勝利”の連続によるものだった。

“薄氷”あるいは“奇跡”といえば、昨年のカタール・ワールドカップでのドイツ、スペイン相手の勝利もそれに近いものがあった。

 どちらの試合も、前半は完全に相手にゲームを支配されてしまっていた。もちろん、日本は粘り強い守備で対抗したし、相手の拙攻もあった。だが、あの内容で失点が1点ですんだのは“奇跡”とまでは言わないが、明らかに“幸運”ではあった。

 後半に入って、戦術を転換して一気に反撃を仕掛けてどちらの試合も連続して2点を奪って逆転した森保采配は見事としか言えないが、もし前半のうちに複数失点をしていたら、逆転勝利は不可能だったろう。

■失点後の勇気

 さて、現在開催中の女子ワールドカップでの日本のこれまでの4勝を振り返ってみると、どの試合も“奇跡”でも“薄氷”でも“幸運”でもない。すべて“完勝”であり、“必然の勝利”だった。

 ゴール前に「大型バス」を並べてきたノルウェーを相手に、たしかに日本は攻めあぐねた。

 しかし、日本はアウトサイド、とくに左サイドでウィングバックの遠藤純とインサイドハーフの宮澤ひなたがポジションを変えながら突破の糸口を探り続けた。そして、15分に宮澤が上げたクロスを最終ラインに入っていたMFのシルスタット=エンゲンがクリアミスしてオウンゴールを誘発した。

 ただ、前半のうちにグード・レイテンにヘディングシュートを決められて日本は同点とされてしまう。日本にとってはたった1回の決定的ピンチだった。

 前半、日本の守備陣は相手の高さを警戒しすぎたのか、守備ラインが下がってしまっていた。だが、失点した後は勇気を持ってラインを高く設定。日本のセンターバック3人(右から高橋はな、熊谷紗希南萌華)が高い位置にラインを保って覚悟を決めて競り合うと、長身選手相手でもほぼ互角に勝負することができたのだ。

■スペイン戦からの変化

 こうして、同点に追いつかれたものの、日本は終盤まで相手にほとんどチャンスは与えなかった。

 そして、後半も左サイドでチャンスを作って、50分にはゴール前で長谷川唯田中美南が短いパスを交換するとボールは右サイドにこぼれ、最後はWBの清水梨紗が決めて日本は再びリードする。

 細かいワンタッチ・パスの交換はノルウェーのような大型DF相手には効果的だ。スペイン戦ではカウンターに徹した日本だが、ノルウェー戦ではそれとは違った狙いを持っていたのだ。

 終盤になってノルウェーは大型選手を次々に投入して最後の反撃を試みてきた。「高さ」が日本の最大の弱点であり、ノルウェーが同点に追いつくとすれば、それ以外の選択肢はなかった。

 しかし、日本のDFはゴール前に放り込まれても最後まで粘り強く競りかけてゴールを死守。GKの山下杏也加の好セーブもあって同点を許さず、そして81分、相手が攻撃に出た裏を取ってスペイン戦の際限のようなカウンターから、この大会のラッキーガールの宮澤が決めてノルウェーを突き放した。

「相手が総攻撃に出てきた裏を取ってダメ押し点を決める」というのはサッカーの定石の一つだろうが、それを実際に遂行してしまうのは大したものである。

 前半、この大会初の失点を喫しはしたものの、ノルウェー戦も日本の完勝だった。

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